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壱・トモダチゴッコ

本文中に出てくる場所・地名・人物名はフィクションです。

 ―真っ暗な暗闇―



通ずる先は…どんなに目を凝らしても見えない。


そこを私は一人

蒼白い火を灯した蝋燭を持ち歩いて行く。




 ―カッン…

   カッン…

    カッン…―




物音?




辺りは静まりかえっている。



こんな所に物音など聞こえる訳がない。




気のせいか…



それにしても…



どこかで聞いた事がある気がする…




     ◆


気を取り直した私はどこまでも続いているような廊下を歩き、行き止まりの扉を開ける。


ガチャ…


ミシッ…


ギイィィィ…ッ



いつものように錆付いた重い不気味な音が鳴るドアを開けると、奥にある全部で7部屋の人が一人入るぐらいの小さな独房が視界に広がる。



やれやれ…

今日はこんなに居る…


ここが私の『依頼人』の待ち受ける…私の仕事場。


私の『依頼人』とは…


簡単に説明するならば『生死の狭間という境遇にいる者』『自殺未遂の者』…そして『自ら破滅した者』と記憶している。


その者達の逝き場を決めるのが私の役目。



依頼人…囚人達は私の姿を見つけると、悲痛の叫び…『生』への執着の感情を私にぶつける。



無理もない。




この者達はいつの間にかここに閉じ込められていたと錯覚している。己の死を受け止められないのだ。


この者達は『人生』という道から何かが原因でここに迷い込んで来てしまったのだから。



毎日のようにこの狭間の監獄に捕らえられる者が後を絶たずにやってくる。


最近数が多いように思う。


来た順番に整理券代わりか、『依頼人』達は番号と生前の名前を首にぶら下げている。


…さて。壱からか…


私は壱のプレートをぶら下げている人間の目の前に牢屋越しに立つ。


…学生服に身を包んだ少年が私の姿を見て身を固める。


「壱…。『大友崇・男・14歳』…貴方ね。」


『大友崇』と呼ばれた人間は檻にしがみつき、


「出してくれっ!オレはぁっ!オレはぁっ!!!」


周りの者達は、自分の番が待ち切れないのか、次々に騒ぎ立てる



「私は!?私を出してよ!!!」


「そいつなんかより儂を!!!」


「いや!オレが先だ!!」


「冗談じゃないわ!!私が、どれだけ待ったと思ってるのっ!!!」


「俺は死んだのか!?なあ!アンタ!教えてくれよ!!」


ガシャガシャと周りの『依頼人』達は半分混乱しているのか、牢屋の檻を開けようとする。



「黙れ!黙らなければ消滅させるぞ!!」



集団独房は私の怒鳴り声で静まり返る。




ああ。

人間とは…なぜここまで『生』に対して執念深いのだろうか…?


感情など持ち合わせなければ…苦痛も何も感じないのに…



進化に伴い、感情というモノを持つようになり…今、たくさんの数が私の前で乱れている。



…なんとも…滑稽な。



まぁ、こんな光景は毎日のように見ているがな。慣れたもんだ。


…やれやれ…



再び私は『大友崇』に向き直り、

「…。貴方は…なぜここに来た?」

と問い掛けた。



大友崇は顔をこちらに向ける。


私は彼の目を見つめた。


「先に言っておくが…私には嘘は通用しない。」


大友は少し動揺する。


「そ、そんな、お、オレ…嘘なんかつかない!」


やはり…低俗な存在だ。その場凌ぎを考えていたのだろうな。


話は聞いておくべきだな。


大友は『私』の瞳の中の…力の無い不気味な『なにか』に怖じ気ついているようだ。



以前…彼らと同じ依頼人に言われた事がある。


『死んだ魚みたいな瞳』

と。


見る者…今まで『生』という世界に居た者には見慣れなくて当たり前だが…私は人間ではない。

私の瞳は光などを反射しない…死人の瞳。

…彼らにとって私とは…

さぞかし気持ちの悪い存在なのだろうな。



なんせ…

死神だからな。



「…俺は…」


大友は嫌な汗をかきながら話し始めた。

目線がうつろだ…


この男は…今でも必死に言い訳でも考えているのだろう。


…残念ながら。


私には、そんなもの通用しない。


私の能力は全てを見抜くのだから。


「悪足掻きは無駄だ…どうして此処に来たか、私の前で告白せよ。」


依頼人・大友崇は告白をし始めた。


私の脳裏にその映像のような物が映し出された…




     ◆




【西暦2006

  7月14日

   午後3時50分】



人気のない学校に不良生徒達と気の弱そうな男子生徒のやりとりがあった。


「持って来たか?金。」


「シャチョー、オレ腹減って死んじゃう〜」


「ちょっとぐらい分けなよ〜お金持ちだろ?ボランティアだよ、ボランティア。」



エラそうに気の弱そうな男子生徒に恐喝する不良生徒達。


「あ…う…や、や…やめて…くださいっ…」


男子生徒は血の気の引いた顔色で震えながら


「お金…ない…です!」


不良生徒は気に入らなかったのか…元々そうする気だったのか…八つ当たりがしたかったのか…男子生徒に暴行を加える。



ドスッ!

ドンッ!

バコッ!




「やっ!ぐあっ!ゲホッゲホッ…」


「うわ、ゲロしやがった!キッタネ〜!!」


周りに居た仲間の男子生徒は、殴られて嘔吐した男子生徒を助けもせず笑って見ている。


そして不良生徒は財布を奪い、中身を数えて喜んでいる。


「なぁ?いくら入ってる?」


周りにいた仲間が財布に群がる。


「おお〜っ!」


「さっすが!シャチョー!」


「…あっ…それ…修学旅行の積立金…やめて…っぐあっ!!」


さっき吐いた物の上に男子生徒は蹴り倒される。


服が汚れてしまう。


「修学旅行行く気なのかぁ?生意気な事言ってんじゃねぇ!!」


ドスッ!


不良が男子生徒の髪を掴み地面に叩き付ける。


めりっ…


コロッ…


地面に血に塗れた白い何かが転がる。


歯が折れたのだ。


「金払えねぇヤツは死ね。」


不良達は笑いながら立ち去っていった。



男子生徒は折れた歯を広い、握り締め、痛む頬を泣きながら押さえている。


「ううう…」


やれやれ。

そろそろ出るか。


コイツの…正義の味方様がな。


大友崇が男子生徒に駆け寄る。


「孝介!大丈夫か!?何があったんだ!?」

「…たっ…崇君!」



本当は…俺は全てを見ていた。


コイツ…松崎孝介が恐喝された挙句、暴力を振るわれる場面を…。


最初から。




「…またあいつらか…」


「……ごめん…いつも…心配かけちゃって…」


俺は孝介に手を差し延べる。


孝介を立たせて


「いくら取られたんだ?」


と聞いてみた。


「……積立金が入ってたから……3万…かな…」


3万…か。


「崇君。」


俺は一瞬びくっ!とする。


「ごめんね…服洗ってきたいから…帰り、待ってて貰えるかな?」


「あ、ああ…」


孝介は申し訳なさそうにニコッと笑い、小走りでトイレに向かった。




     ◆




…さてと。


俺はこれからやることがある。


…まあ。仕事というべきか。



不良生徒達の溜まり場の外の渡り廊下。


向こうからバイクのエンジン音と不良達の笑い声が聞こえてくる。


…話に夢中だな。


俺はさっきの不良のリーダーが脱ぎ捨てたさっきまで着ていたジャージのポケットを探る。


「…フン。思ったとおりだ…馬鹿め。」


中には3万円の入っている孝介の財布が入っていた。


俺は…そこから1万だけ抜いた。


そして、そっと元の場所に財布を戻す。



あいつらは…馬鹿の集団みたいなモンだからな。

いつも俺が…

こーやって…おこぼれを頂戴してるなんざ…知る由もないだろうさ。



奴等は神懸かった馬鹿だ…

最初に数えて、ある、と錯覚している。…俺に盗まれている事なんか感付きもしないだろう。


その証拠に毎回財布の中身。確認しないからな。


ククク…笑わせるなよ。どいつもこいつも。



蜘蛛のように…獲物が引っ掛かるのを待って…


蠍のように…刺す!



最後に笑うのは

賢い生き方をしている…


「この俺なんだからな。」



俺は口元に笑みを浮かべながらその場を去った。



     ◆




トイレに行くと、一生懸命、汚物を洗い流している孝介がいた。


「ふう〜…だいぶ落ちた…」


「もう平気か?」


芝居。

このカネヅルを捕まえておくための。


言わばトモダチゴッコ。


コイツにとって俺は正義の味方様という設定になっている。


「ごめん。待たせちゃって…遅くなって親心配しない?先に帰る?」


孝介は相変わらずお人好しな事を言っている。


救いようがねえな。

俺の正体を正義の味方と勘違いしてんだからな。


「いいよ。お前を放って帰れないよ。」


孝介は、また申し訳なさそうにニコッと笑う。


「ありがとう。崇君。すぐ終わるから…」


やれやれ。


孝介が一生懸命制服を搾っているのを見ながら考え事をしていた。


さっきの…仕事前の孝介とのやり取り。


さっきはさすがにヒヤヒヤしたな。


イキナリ中身を聞いたのはまずかったな。


まあしかし。


この馬鹿は俺を疑いもせず…信じきっていた。



それだけ…あの時に言った俺の言葉が心に残ったんだろうな。




     ◆




それは3カ月前の事だった。


クラス替えで俺と孝介は同じクラスになった。


出席番号が隣りだった。


「シャチョー」


これが孝介のあだ名だった。


聞いてみると…建設会社の社長の長男で家は裕福らしい。前のクラスでは元々気弱で人見知りをする性格をクラス中にからかわれ、不良に絡まれてろくに友達もいなかったらしい。



その話を聞いた放課後。


孝介は不良達に恐喝されていた。


俺が偶然目撃していたなんてヤツは知らない。


その後…


駐輪場で不良がバイクに群がっていたのを、また偶然にも見てしまった。


俺なんかに気付かず…学ランやバッグが置かれている場所は奴等からは死角になっている。



そこでまた偶然にも見つけてしまったのだ…


孝介の金を…



少し躊躇したが…


千円札が5枚。


その内1枚を盗み出した。


無我夢中で走って逃げた。


だが…うれしいことに。


翌日


奴等は気付きもしなかった。



金が早く減ったからか。

奴等は孝介を恐喝しようとしている。


これは…もしかしたら…と思った。


〈ヒトヤマ当てた〉


そう思った。


そして…授業中、俺は行動に移す。


トモダチゴッコを。


「松崎くん。」

「…ん?」


俺は先生が黒板を向いた瞬間を狙い


「俺、体育で気になってたんだけど…腕にアザ…なかった?どっか怪我でもした?」


「あっ…よく…わかったね…」


孝介は申し訳なさそうにニコッと笑う。


というか…俺はコイツが暴行を加えられてるのを見て居たのだ。


だから知ってる。


「なんか…あったのかな?オレで良ければ相談とか乗るぜ!仲良くなろーぜ!」




顔は笑っていたが…


内心ドス黒い渦がまいていた。


狙うのは…悪循環。



孝介が金を取られる

オレが少し盗む

不良共の金がすぐ無くなるが気付かない

また孝介が恐喝される…


こうして…オレのフトコロはどんどん暖まって行く…



そういう事さ。




全てを知るのはオレのみ。



あとは…オレのフトコロを暖めてくれる馬鹿共が勝手に動いてるだけ。



まさに…オレは天才……いや、神だな!!




     ◆


大友は顔を上げて

「な!何だよっ!もうダメってか!オレはどうせ死ぬんだろ!?もう最低なヤツなんだろ!?」


「五月蠅い!」


私に一喝され大友は怯む。


「まだ最後まで聞いてない。続けて隠さず告白せよ!…死にたくないのならな。」



大友はちょっと気まずそうな顔をして、


「くっそっ!!…きいた所でどーもなんないだろうに…」


私は大友を見つめる。


大友はしばらく黙り込んではいたが、


「わ…わかったよ…」


と、力無く答えた。


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