第4話 【殺しましょう】
「あ~た~らし~いあ~さがきたっき~ぼ~おのっあ~さ~」
ふふっ
すがすがしい朝ですね。
他のプレイヤーが一晩で1000人以上亡くなられたようですが、私は生きてます。
他人の不幸を嘆いている余裕なんかねーんです。
自分の事で精一杯。
これからどうしたらいいのかも分からない。
「とりあえず、この木から降りなきゃね。一晩守ってくれてありがとう。」
一晩お世話になった木に、お別れをつげて、またチマチマと怪我をしながらも木から無事に降りる事が出来ました。
朝の森はなんだかキラキラしてて、昨晩の怖い森とはまったく別の森に見える。
地面は朝露で濡れていて、裸足の私にはかなりキツイ。
キラキラしてたのは朝露かよ、ちくしょう。
霜焼けになりそう…
治せるし、どうしようもないから我慢我慢。
「てゆか他のプレイヤーはなんで1000人以上も一晩で死んじゃったんだろ?」
本当に皆病人だったのかな?
分からない。
分かるわけがない。
とりあえず、適当に移動しながら考えることにしよう。
ここに居たって状況が好転する訳じゃないしね。
毛布にくるまりながら、適当な方向にヨチヨチ歩きだす。
裸足で森の中を歩くのは本当に辛い、てか痛い痛い!
なんか刺さった!
「う……【ドMの癒し手】」
ド ク ン !
「ひぐぅ!!?」
痛たた……
なんで1000人以上も死んじゃったかよりも、なんで私が生き残ってるのかを考えた方が早いかな?
私が生き残れたのは……木に登れたから?
そんなわけないか…
「痛っ……【ドMの癒し手】……いぎい!」
また何か刺さった…
いや、木登りよりスキルだね。
ドMの癒し手のおかげだ。
回復系のスキルだったから生き残れたんだろうなー。
回復系じゃ無かったら衰弱死してたよね。
きっとゲロとおしっことウンチにまみれたまま、乾きと飢えに苦しんで死んでた。
ドMの癒し手のおかげで食料や水を探す為に夜の森をさ迷わずに済んだし。
「いっ……【ドMの癒し手】……ひぎゃあ゛!!」
ぅぅ…
何より夜の森で無防備に眠らなくて済んだ。
これは大きいと思う。
寝てる間に獣に襲われたらひとたまりもないよ。
いや、起きててもひとたまりもないけどさ。
あと……多分【ドMの癒し手】は使うたびに私の精神的なものも癒してくれてると思う。
こんな状況でも結構落ち着いてるなんて、私らしくない。
「ぅあっ……【ドMの癒し手】……つあう!!」
足痛いよぉ…
普段の私なら、こんな状況だともっと泣きわめいてると思うし。
もしかしたら、死亡したプレイヤーの中には自殺の人も居るのかも。
二度と日本に帰れない、家族にも友達にも会えない。
絶望すべき状況だよね。
なのに私は奇妙な程に冷静でいられている。
やっぱりドMの癒し手のおかげっぽい。
だとすると本当にドMの癒し手には感謝しないとね。
痛みに我慢さえ出来たらかなり便利だし。
痛みはんぱないけど…
そういえば、ステータスウィンドウの道具欄もかなり便利だと思う。
ゲーム見たいに何十種類のアイテムを99個ずつ持てる訳ではないけど、それでも10種類は持てる訳だしね。
10種類の物を手ぶらなのに重さも何も感じずに持ち運べる。
…………そういえば道具欄にはどうやってものを入れるのかな?
スキルみたいに念じればいいの?
試してみようかな。
「毛布をしまって、【道具欄】……お。しまえた…って寒い寒い!」
慌てて道具欄から毛布を取り出してくるまる。
やっぱり毛布暖かい…
この毛布めちゃくちゃあったかい。
宝物にしよう。
道具欄には同じ種類のものはいくつ入れれるんだろ?
99個ずつ持てたりするのかな。
試しに小石でもいれまくって見よう。
落ちてた小石を拾って。
「小石をしまって【道具欄】」
さらに落ちてた小石を拾って道具欄に。
また落ちてた小石を拾って道具欄…
小石を道具欄に入れる作業を繰り返していると、小石をしまえなくなった。
ステータスウィンドウで道具欄を確認すると
■持ち物■
・ボウイナイフ×2
・小石×10
・非常食×10
・水筒×1
・【空欄】
・【空欄】
・【空欄】
・【空欄】
・【空欄】
・【空欄】
■残りスペース6■
になってる。
1つの種類は10個までか。
10種類を10個ずつ持てるんだね。
99個ずつは無理か…
いや、でも、十分便利だよね!
なんでも入るのかな……?
ふふっ
良いこと思いついた。
私がこんなに頻繁にドMの癒し手を使わなきゃならないのは、ここが森だからだよ!
そんないけない森はしまっちゃおうねぇ…
地面に手をつけて…っと。
「……この森をしまって!【道具欄】!」
……………………………………………………
うん。
無理だよね。
そりゃ無理だ。
仕舞えちゃったらなんでもありになっちゃうもんね。
どこまでなら仕舞えるのかな…
ちょっと色々試してみよっと。
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うん。
色々試して見て分かった、私が持ちあげれる物は仕舞う事が出来るみたい。
今の道具欄の内容は
■持ち物■
・ボウイナイフ×2
・毛布×1
・非常食×10
・水筒×1
・大きな石×10
・【空欄】
・【空欄】
・【空欄】
・【空欄】
・【空欄】
■残りスペース5■
大きな石ってのは人の頭ぐらいの大きさの石。
これ、木に登って落としたら十分武器になると思って仕舞っといたの。
ふふっ
これがあれば、木の上から一方的にモンスター達を蹂躙出来るね。
フルボッコだよ。
まだモンスターどころか獣も見てないけど。
「痛!…………【ドMの癒し手】………うぎゃぁあ!!」
もう結構歩いてるのに、ずっと森の中。
もう、お昼ご飯の時間だよ。
またドMの癒し手に頼らないと…
空腹とか癒すの時間かかるから安全な場所探さなきゃ。
って言っても安全な場所も何もなんの変化のない景色ばっかりたからなぁ…
また木に登らないと…
てゆか、そろそろ何か変化があってもいいと思「アオォォォ……ン!」
ヤバイ。
昨日から聞こえてた何かの鳴き声だ。
かなり近い。
こういう変化が欲しかったんじゃないのに!
とにかく早く木に登らないと!
「っ!?」
目の前にでっかい狼が飛び出してきた。
1メートルはありそうな茶色い毛並の狼。
その狼はこちらを伺うようにジリジリ近づいてくる。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
ちょっまじやめてっ
足が震えて動かないんだけど!?
「ぅ……ぁ……やだ……来ないで……っ」
震える私を弱者と見たのか狼が飛びかかってくる。
やたら早い動きで飛び上がり、私に噛みつこうと口を大きく開く。
鋭い牙や赤い舌がよく見えるね。
アハハ、死んだわこれ。
なんの抵抗も出来ずに押し倒され、首に噛みつかれる。
「あがっ!ぁぁぁあぁあぁぁああ!!?」
ぶしゅう!って音をだして私の首から血が吹き出る。
狼は傷口を広げるように首に噛みついたまま、頭をブンブン動かしまくる。
「あがぁ!いがっ!ぎぁああああ!?」
傷口を広げられるたびに飛び散る私の血が辺りを赤く染めていく。
なんの意味なく手足がビクンビクン痙攣してる。
もう痛すぎて痛くないや。
「…………ぁ…………ぁ…………」
どれくらい首に噛みつかれてたか分かんない。
私がほとんど動けなくなったからか、狼は首からゆっくり口を離した。
ずるりと自分の首から牙が抜ける音が聞こえる。
目の前に狼の開いた口があるね。
あー…思いついた…
こいつを殺す方法。
いくら殺されかけてると言ってもこんなに大きい生き物を殺すのは抵抗あるなぁ…
でも、やられっぱなしはムカつく。
痛くてムカついてた私は、生き物を殺そうと、その開いてる口にノロノロと左手を突っ込んでやり、笑う。
狼はやや驚き、左手を噛み千切ろうとしてくるけど。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
…………道具欄から大きな石を10個選択し、一度に全部出す。
毛布を出した時と同じ様に、私の左手に大きな石が10個現れた。
狼の口のなかにある、私の手の上に、大きな石が現れた。
バアアアン!
と、派手な音をたてて狼の頭が破裂して、血とか色んな物が飛び散る。
頭を失った狼が私に覆い被さるように倒れて込み、痙攣している。
気持ち悪いし重たいし臭い。
「ぅ…ぐ……………体を…癒じ…で…【ドMの癒し手】…………」
ド グ ン !!
「!!!!!!!??~~~~っ!っっっっっ!?」
痛みが強すぎて悲鳴も上がらない。
血を流し過ぎてるし狼の体に乗られてて暴れることも出来ずに、気を失いそうな痛みに翻弄され続ける。
気を失ってしまいたいけど…これを耐えないと確実に死んじゃう!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
「~~~~っ!…………まじで死ぬかと思った…………」
多分5分くらい激痛に翻弄されてたね。
多分だけど。
私に覆い被さって血を流してる狼の体を蹴りあげ、退かす。
ドMの癒し手で癒したのは怪我と失血だけだったから、パジャマも毛布も血まみれだよ…
後で不潔も癒さなきゃ…
「まったく…迷惑な狼だね。パジャマがズタズタになっちゃったよ。…代わりに君の体を貰っていくね?…狼の遺体をしまって【道具欄】」
狼の遺体を道具欄にしまう。
うん。
やっぱりドMの癒し手は私の心理的なものに干渉してるね。
今すっごい心穏やかだもん。
初めて殺されかけて、初めて直接哺乳類を殺したのに、全然平気。
それどころかなんか、少し誇らしい。
分厚い毛皮も鋭い牙も持たない私が大きな狼を殺せた。
自信がついたよ。
ありがとうね、狼さん。
君の体は私が何かに使ってあげる。毛皮で靴とか作るよ。
うん、それがいいね。
そうしよう。
血まみれの大きな石も全部回収して、よごれた毛布にくるまって移動する。
早く木に登って清潔を癒さなきゃ…血の匂いでまた動物が寄ってきそう。