第9話:這い寄る『初期化』と、隔離された学園
空を覆った紫色のドーム。外界から切り離された学園で、世界の『初期化』が始まった。
ただの破壊ではない、魂さえも消し飛ばす白い光に、生徒たちはパニックに陥る。
カイは激痛の走る右目を使い、生き残るための「隙間」を探すが……。
学園の空が死んだ。
夕焼けを塗りつぶした禍々しい紫色のドームを、グラウンドにいた生徒たちが呆然と見上げている。
「な、何ですのこれ……。外の景色が、何も見えませんわ!」
「外部への通信も途絶しています。カイ様、ここはもう『隔離』されました」
レナが必死に通信魔法を飛ばすが、返ってくるのは不気味なノイズだけだ。
俺の右目には、無機質な警告が突きつけられていた。
【ネットワーク切断:スタンドアローンモードへ移行】
【エリア隔離完了:これより対象エリアの初期化を開始します】
「初期化……だと?」
嫌な予感が背筋を走る。
その直後、学園の正門付近で悲鳴が上がった。
門の向こう側から『白い砂嵐』のような現象が、音もなく押し寄せてきている。
それはレンガの門を、並木を、そして逃げ遅れた生徒を飲み込んでいく。
「う、嘘……! 跡形もありませんわ……!」
「ただの死ではありません。魂の根源から、存在そのものが消失しています……」
セイラが微かに声を震わせて告げる。
飲み込まれたものは、悲鳴を上げる間もなくノイズのように砕け散り、消えていく。
【初期化プロセス:進行度 0.8%】
視界の隅で、絶望的な数値がゆっくりとカウントアップを始めた。
逃げ惑う生徒たち。パニックになる教師。
俺は激痛の走る右目を無理やり見開き、押し寄せる白い光の波を凝視した。
(クソッ……。どこかに、この異常な法則が届いていない場所はないのか……!)
視界が真っ赤に染まる。右目から一筋の血が流れた。
膨大な情報を無理やり処理し、俺は『世界の穴』を探した。
「……あった! 二人とも、生き残ってる奴らを集めて旧校舎の地下図書室へ走れ!」
「旧校舎!? あんな古臭い場所、真っ先に飲み込まれますわよ!」
「いいから行け! あそこだけはデータの更新が遅れてる。あそこなら……まだ消されない!」
俺の気迫に押され、レナが「分かりましたわ!」と叫んで生徒たちを誘導し始めた。
セイラもまた、巨大なフレイルを振り回し、行く手を塞ぐ瓦礫を粉砕して道を切り開く。
白い消去の波が背後にまで迫る中、俺たちは間一髪で旧校舎の重い地下扉を閉ざした。
暗い図書室の中。荒い息をつく数十人の生徒たち。
沈黙の中、セイラが震える指で、地下室の小さな通気窓の隙間を指差した。
「カイ様、見てください……。すぐそこまで、あの光が……」
窓のすぐ外側。
そこには、世界を飲み込んできた『白い砂嵐』が、まるで目に見えない壁に阻まれたかのようにピタリと止まっていた。
紙一枚の厚さで、俺たちの存在が保たれている。
「助かった……のかしら」
レナの呟きに応えるように、俺の右目が残酷な数値を弾き出した。
【現在地:未処理領域(未初期化)】
【システム再起動(完全初期化)まで……残り 72時間 00分】
「いや、猶予をもらっただけだ。……あと、三日」
「三日、ですの?」
「ああ。このカウントがゼロになれば、この学園は——俺たちは、魂ごと消去される」
旧校舎の冷たい空気の中、俺は震える手で血を拭った。
救い出したはずの日常が、最悪の『バグ』に塗りつぶされようとしていた。
第9話、お読みいただきありがとうございました!
学園を襲う消去の波。カイはUIのバグを突き、なんとか旧校舎へと逃げ込みました。
しかし、残された時間はわずか72時間。
閉鎖空間となった学園で、カイたちは生き残るための手段を見つけ出せるのか。
次回、学園サバイバル編、本格始動です!
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