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確率0.00%の絶望を書き換える――バグだらけの世界で、俺だけが因果を絶断して最強の聖女たちを救う。  作者: 仁胡 黒


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6/9

第6話:聖女の重すぎる愛と、蝕まれゆく現実

教団の施設からセイラを救い出したカイ。

しかし、学園に連れ帰った彼女は、想像以上にカイに対して「重すぎる」想いを抱えていて……?

そして、力を使ったカイの身体にも異変が。

 救出作戦から一夜明け。

 俺——東雲カイは、自分の部屋の鏡の前で、右目を凝視していた。

「……消えないな」

 虹彩の端に、ノイズのような紫色のグリッチが走っている。

 『因果絶断』を無理やり引き起こした代償か、UIの視界が時折、砂嵐のように揺れるのだ。

【システム警告:演算コアに過負荷】

【修復プロセス:進行中(完了まで残り 168時間)】

 一週間のペナルティか。

 視力が落ちているわけではないが、世界がデジタルノイズ越しに見えるのは、正直言って気分が悪い。

「カイ様、お目覚めですか?」

 不意にドアが開き、甘い香りが部屋に流れ込んできた。

 そこには、俺の予備の白シャツを「彼シャツ」状態で羽織っただけのセイラが、お盆を持って立っていた。

「……セイラ。服、それしかないわけじゃないだろ?」

「はい。でも、これが一番……カイ様の『存在』を近くに感じられますから」

 セイラはシャツの襟元に鼻を寄せ、うっとりと深く息を吸い込む。

「……スー、ハー……。ふふ、本当はカイ様の『匂い』を補給してるんです。落ち着きます……」

 昨日までの「心を壊された人形」のような面影はない。だが、代わりに宿ったのは、俺に対する**【好感度:測定不能】**という、重すぎるほどの執着だった。

「朝食、作りました。……あーん、してくれますか?」

「いや、自分で食える」

「だめ、です。……私を『空っぽ』じゃなくしたのは、カイ様なんですから。責任、取ってくださいね?」

 小首をかしげる彼女の背後に、昨日見たあの巨大な香炉フレイルの幻影が重なって見えた気がした。……断ったら、部屋ごと粉砕されそうな圧がある。

 そこへ、さらに騒がしい足音が近づいてきた。

「ちょっと! カイ、生きてますの!? 安否確認に来てあげまし……たわ、って」

 勢いよく飛び込んできた赤城レナが、固まった。

 ベッドの端に座る俺。その目の前で、露出度の高い格好でスプーンを差し出すセイラ。

「…………えっ?」

「……あら。お邪魔虫さん、ですか?」

 セイラの瞳から、すっと温度が消える。

 レナの額に青筋が浮かび、彼女の周囲に小さな火花がパチパチと跳ねた。

「な、ななな、何をしていますのこの泥棒猫! カイはわたくしの婚約者……予定ですわよ!」

「予定、ですよね。……私は、魂を契約しましたから。カイ様は、私の『神様』なんです」

 バチバチと火花が散る。

 俺の視界のUIが、パニックを起こしたように数値を弾き出した。

【警告:修羅場発生】

【レナの嫉妬心:88%】

【セイラの独占欲:120%】

【生存確率:——急落中】

「……おい、二人とも。ここ、俺の部屋だぞ。近所迷惑だ、少しは落ち着け——」

「「カイ(様)は黙ってて!!」」

 怒鳴られ、俺は口を閉ざすしかなかった。

 命懸けで救い出した結果がこれか。……計算外にも程がある。

 その時、俺の右目のグリッチが、一瞬だけ激しく発火した。

「……っ!?」

 二人の言い争いが遠のき、視界がモノクロに染まる。

 視界の端に、バグったテキストが無理やり割り込んできた。

【未知の干渉を検知】

【ID:YATO(夜■)】

 ノイズの向こう側に、昨日のモニター越しに見た「紫色の少女」が立っていた。

 彼女は俺に向かって、楽しげに指を立てる。

『ねえ、知ってる? 世界を書き換えるたびに、あなたの「現実」は削れていくのよ』

 少女の唇が動く。

『あと数回で、あなたは「こっち側」の住人。……楽しみにしてるわね、イレギュラーくん』

 意識が現実に戻った時、俺の右目からは一筋の血が流れていた。

「カイ!? どうしましたの、その目!」

「カイ様! すぐに手当てを……!」

 心配して駆け寄る二人。

 だが、俺の心は冷めていた。

 

 視界に残った文字——『YATO』。

 彼女がこの世界の「システム」そのものに関わっているのは間違いない。

 

 俺が救った平和は、まだ砂上の楼閣に過ぎないのだ。

 右目のノイズを抑え込みながら、俺は次の「確定した絶望」が訪れる予感に、奥歯を噛み締めた。

第6話、お読みいただきありがとうございました!

救出した聖女セイラが加わり、レナとの正妻戦争(?)が勃発。

しかし、カイの能力の代償と、謎の少女ヤトの不気味な予言が影を落とします。

物語はここから、学園に潜む「新たなバグ」を巡る新章へと突入します。

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