第5話:確率0%の救済、あるいは聖女の産声
「神の演算機」として心を壊されかけた少女、セイラ。
絶望的な包囲網の中、カイが叫んだ言葉は世界のシステムを激しく揺さぶります。
クライマックスの第5話、ぜひ最後までお楽しみください。
地下広場に、カイのうめき声が響いた。
視界は赤一色。アラートログが滝のように流れ、思考を削り取っていく。
【警告:全身の損傷率 68%】
【回避確率:0.02% —— ほぼ不可能です】
正面には、教団の武装神父たちが放つ無慈悲な光弾の雨。
レナが必死に炎の障壁を展開しているが、敵の「消火プログラム」によって、その翼は無残に毟り取られていた。
「ハハハ! 無駄だ少年! 『神の演算機』が弾き出した予測データによれば、お前たちの勝率は0%だと出ている!」
神父が手元の端末を掲げながら嘲笑する。
カイは血を吐き捨て、視線の先にある「それ」を睨みつけた。
厚さ三十センチの強化ガラスに閉じ込められた、緑の髪の少女。西園寺セイラ。
彼女の脳は今この瞬間も、敵のために戦況を計算させられ続けているのだ。
「……セイ、ラ……」
カイは震える足で立ち上がり、よろめきながらガラスへと歩み寄る。
背中に光弾が着弾し、肉の焼ける匂いがした。それでも、一歩。
「カイ! もう無理ですわ、逃げて……!」
レナの悲痛な叫び。だが、カイの耳にはもう、システムの警告も仲間の静止も届かない。
ドン、と血に汚れた手でガラスを叩く。
「……おい、聞こえるか。セイラ」
ガラスの向こう、少女の虚ろな瞳が、わずかにカイを捉えた。
唇が、微かに動く。
「……にげ、て……」
「……わたしは……もう……空っぽの、電池……だから……」
それは、教団に刷り込まれた絶望の言葉。
自分には生きる価値などないという、悲痛な拒絶だった。
——ブチリ。
カイの中で、理性のヒューズが焼き切れる音がした。
「……ふざけんな」
カイは歯を食いしばり、剥き出しの意志をその瞳にぶつける。
「システムが何だって? 演算がどうした? ……そんな他人が決めた数字で、お前の価値を決めてんじゃねえよ!」
カイの右目が、これまでで最も激しく虹色に明滅した。
視界に映る「生存率」が、ノイズと共に粉砕される。
「お前が自分を『空っぽの電池』だって言うなら、俺がそこに意味を叩き込んでやる! お前が世界に拒絶されるバグだって言うなら、俺がそのバグごと、この世界を書き換えてやる!!」
叫び。それは祈りではなく、傲慢なまでの宣戦布告。
「笑え、セイラ! 運命なんて数字に、お前の未来を指一本触れさせるな!
——お前が誰で、どこに居たいのか……その『答え』は、計算式の中じゃなく、俺とお前の意志の中にあるんだよ!!」
ガキンッ!!
カイがガラスを殴りつけた瞬間。
セイラの瞳に、凍てつくような「怒り」の灯が灯った。
『……あ……ああ、あああああああ!!』
少女の絶脳が地下空間を震わせる。
次の瞬間、セイラを拘束していた機械が内側から爆散した。
舞い散る火花と煙の中、彼女の背後に現れたのは、巨大な鉄塊。
太い鎖に繋がれた、禍々しくも神々しい**【大香炉】**。
【個体名:西園寺セイラ —— 覚醒】
【状態:狂信的守護】
【生存確率:——計測不能】
「……私の、神様が……そう、言ったから」
セイラが立ち上がる。
彼女は巨大な香炉を引きずりながら、愕然とする神父たちへと顔を向けた。
「神様を、傷つけた……害虫、掃除……開始」
——ドォォォォォン!!
セイラが香炉を軽々と振り回すと、緑色の有害なノイズを孕んだ煙が広場を埋め尽くす。
一撃。たった一撃で、強化人間たちが紙くずのように壁へと叩きつけられていく。
それは戦闘ではない。一方的な「駆除」だった。
「座標、確定……。そこだ、セイラ!」
「……了解。……粉砕」
カイの指し示す先を、セイラの鎖が正確に貫く。
二人の呼吸は、初めてとは思えないほど完璧にシンクロしていた。
数分後。
静寂が戻った地下広場。セイラは香炉を消すと、ふらりと、カイの胸に倒れ込んだ。
「……カイ、様……。私、ちゃんと……笑えて、ますか……?」
血と煤にまみれながら、セイラはぎこちなく口角を持ち上げた。
カイはその小さな体を抱きとめ、優しく答える。
「……ああ、笑えてる。少し不器用だけどな」
「うぅ……」
「けど、俺の計算じゃ100点満点の笑顔だ」
安堵する二人の背後で、粉砕されたはずのモニターの一つが、ノイズ混じりに点灯した。
『ふふ……素晴らしい。因果の書き換えを確認。テストは合格よ、イレギュラーくん』
紫色のノイズの中に浮かぶ、見知らぬ少女のシルエット。
カイはその視線を、確かな敵意を持って睨み返した。
第5話、最後までお読みいただきありがとうございました!
ついにセイラが覚醒し、物語は一つの大きな節目を迎えました。
しかし、謎のモニター越しの少女の言葉が示す通り、これはさらなる巨大な陰謀の序章に過ぎません。
もし「熱い展開だった!」「セイラが可愛い」と思っていただけたら、
ぜひ【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】で応援いただけると嬉しいです!
執筆の大きな力になります。




