第4話:消えた聖女と、黄昏《たそがれ》の潜入
海での休息を終えたカイたち。
しかし、日常に戻った彼らを待っていたのは、不穏なニュースでした。
ここから物語は一気に動き出します。
カイとレナは、学園のカフェテリアで小金井ユズから緊急の報告を受けていた。
「——先輩、大変です。例の『西園寺セイラ』さんの居場所、割れましたよ」
ユズがタブレット端末をテーブルに滑らせる。
画面に映っていたのは、行方不明者リストと、一枚の隠し撮り写真だった。
そこには、病院から連れ出されたセイラが、窓のない黒塗りのバンに乗せられる瞬間が映っている。
「これ……病院の防犯カメラか?」
「はい。私の独自ルートでハッキングしました。表向きは『転院』となってますが、これを見てください」
ユズが画像を拡大する。
セイラを運ぶ黒服の男たち。その胸元には、奇妙な幾何学模様のバッジが光っていた。
「このマーク、最近噂になっている新興宗教団体『アルゴリズム教団』のものです。警察も手が出せない聖域らしくて……」
カイの脳裏に、病院で見たセイラの虚ろな瞳と、異常なステータス**【危険度:測定不能】**が蘇る。
あれは病気じゃない。何らかの実験体として扱われていたのだとしたら——。
「……放っておけないな」
「ええ。私の目の届く範囲で、レディが不当に扱われるなんて許せませんわ」
レナが紅茶のカップを強く置いた。
カイはユズに向き直る。
「場所は?」
「旧市街の再開発地区。地下鉄の廃線跡を利用したシェルターです。……ただ、警備は厳重ですよ?」
「上等だ。……ユズ、お前はここでアオイと連絡役を頼む。現場には俺とレナで行く」
◇
そして夕刻。
廃墟の影が長く伸び、カラスの鳴き声が不吉に響く時間帯。
カイとレナの二人は、教団のアジトがあるエリアへと潜入していた。
「……おい、レナ。その格好はどうにかならなかったのか?」
「あら、潜入捜査といえば『黒』でしょう? 完璧な変装ですわ」
呆れるカイの隣にいるのは、全身を黒のゴシックドレスで包んだ赤城レナだ。
確かに色は黒だが、レースやフリルがふんだんにあしらわれており、逆に目立って仕方がない。
「目立ち度:98%。……まあいい、俺の後ろを離れるなよ」
カイはため息をつきつつ、視界のUIモードを**【探索】**に切り替えた。
二人が目指しているのは、ユズが特定した地下施設の入り口だ。
カイの虹彩に、デジタルなグリッド線が走る。
【周囲の敵性反応:なし】
【監視カメラ:3台(※死角ルートを検索中……完了)】
「右斜め前、45度。あのコンテナの影を通る。足音を立てるな」
「了解ですわ」
カイの指示は絶対だ。
彼には、監視カメラの首振り周期、警備ドローンの巡回ルート、風の音に紛れて足音を消せるタイミング——その全てが「数値」として見えている。
まるで、出来レースのゲームを攻略するように、二人は誰にも見つかることなく最深部へと到達した。
錆びついたシャッターの前。
カイが手をかざすと、そこには肉眼では見えない魔法的なロックが掛かっていた。
【暗号強度:Aランク】
【解読予測時間:3600秒】
「……1時間も待ってられないな」
「私が焼き切りましょうか?」
「バカ、警報が鳴る。……確率をいじる」
カイは意識を集中させた。
パスワードの組み合わせは数億通り。だが、正解を入力できる確率はゼロではない。
天文学的な低確率を、強引に手繰り寄せる。
『演算リソース、集中。——正解率、固定』
カチャリ。
カイが適当に打ち込んだキーパッドが、緑色に点灯した。
「えっ? 今、何をしましたの?」
「運が良かっただけだ。……行くぞ」
開いたシャッターの奥。
そこには、学園都市の華やかさとは無縁の、冷たい無機質な空間が広がっていた。
壁一面に並ぶサーバーラック。そして、その中央にある巨大な水槽のようなカプセル群。
「な、何ですの……これ……」
レナが口元を押さえて絶句する。
カプセルの中には、液体に浸された「人間」が眠っていた。
いや、眠っているのではない。彼らの体には無数のチューブが繋がれ、微弱な生体電流が吸い上げられている。
【検知:生体電池】
【状態:生存(意識レベル低下)】
「人間を……電池にしているのか……?」
カイの拳が震えた。
この都市の魔法科学を支えているエネルギー。その一部が、こうして「行方不明者」たちから搾取されたものだとしたら。
これは、ただの誘拐事件ではない。世界の根幹に関わる「バグ」だ。
その時、カイのUIが鋭い警告音を鳴らした。
【警告:高エネルギー反応、接近】
【種別:固有波長(西園寺セイラと一致)】
「……いたぞ」
カイが奥の通路を指差す。
その視界の先、分厚いガラスの向こうに、車椅子に座らされたセイラの姿があった。
だが、彼女の様子はおかしい。
虚ろな瞳で空を見上げ、その周囲には、通常の人間にはありえないほどの膨大な数値が渦巻いている。
【検知:西園寺セイラの固有波長】
【照合結果:99.8%(Match)】
【距離:300m / 深度:地下】
「……座標、確定。」
カイが短く、冷徹に告げる。
その声には、もはや迷いはなかった。
「この奥に、あの子がいる。……行くぞ、レナ。日が沈む前にケリをつける」
「ええ。わたくしの炎で、この悪趣味な場所ごと浄化してあげますわ!」
ステルスは終了だ。
ここからは、強行突破の時間。
カイとレナは、敵の本拠地である闇の奥へと足を踏み入れた。
海から一転、物語はシリアスな展開へ。
ユズの情報網とカイの能力で、敵のアジトを特定しました。
しかし、そこで見たのは人間を資源として扱う狂気のシステム。
次回、捕らわれの聖女セイラとの対面。
そして、彼女の隠された「能力」が暴走します。




