第3話:碧《あお》い海と、計算外の密着《エラー》
激戦と入院を経て、今回は少しだけ休息の回です。
しかし、カイの能力は「ラッキースケベ」さえもシステム的に処理してしまうようで……?
カイたちが連れてこられたのは、水平線の彼方まで透き通るようなコバルトブルーの海だった。
赤城家が所有するプライベートビーチ。一般人は立ち入り禁止の、正真正銘の楽園だ。
「さあ、存分に英気を養いなさい! 全て私の奢りですわ!」
パラソルの下で、赤城レナが仁王立ちで宣言する。
その姿に、カイの視界《UI》が大きく揺れた。
彼女が身につけているのは、燃えるようなクリムゾンレッドのビキニ。白磁のような肌と、布面積の少ない赤のコントラストは、健全な男子高校生の心拍数を跳ね上げるには十分すぎる破壊力だった。
【カイの心拍数:上昇中(120 BPM)】
【対象の魅力値:計測不能《ERROR》】
「……どうしたの、カイ? 顔が赤いですわよ」
「い、いや。日差しのせいだろ」
カイが視線を逸らすと、今度は波打ち際から呆れたような声が飛んできた。
「もう、いきなり鼻の下伸ばしてんじゃないわよ」
七海アオイだ。
彼女は機能性を重視したスポーティな青い水着に、パーカーを羽織っている。露出は控えめだが、濡れた生地が体のラインを強調しており、これはこれで別ベクトルの魅力がある。
「うひょー! 見てください先輩! このヤシの実、市場価格だと一つ500円はしますよ!」
そして小金井ユズは、なぜか旧式のスクール水着姿で、砂浜に落ちているヤシの実を必死に回収していた。
「……お前、ここに来てまで商売か?」
「当たり前です! 夏の海は宝の山なんですよ!」
三者三様のヒロインたち。
これが、カイが守りたかった平和な日常の光景——かと思われたが、そうはいかないのがこの世界の常だ。
「さて、ただ遊ぶだけではありませんわ。カイ、リハビリを兼ねて『特訓』よ」
レナが指差した先には、砂浜に置かれた巨大なスイカ。
いや、よく見るとその表面は鉄のように硬く、微かに唸り声を上げている。
【敵性体:アイアン・メロン(擬態種)】
【硬度:S / 中身:甘くて美味しい】
「……あれ、魔物だよな?」
「ええ。目隠しをして、あなたの『ナビゲート』だけで私が両断します。私とあなたの信頼を深めるための、愛の共同作業ですわ!」
レナは目隠しをし、木刀を構える。
魔物が、殺気を感じてカタカタと震え出した。逃げる気だ。
「行くぞ、レナ! 右30度、距離5メートル!」
カイのUIに、風向きと敵の動きを予測した『斬撃のライン』が表示される。
「はいっ!」
「そのまま直進! ……っと、そこでストップ! 敵がジャンプするぞ!」
「ええい、鬱陶しいですわね! そこですの!?」
レナが気合と共に木刀を振り下ろす。
ズバァァァン!!
砂柱と共に、鋼鉄のスイカが見事に両断された。中から飛び出したのは、果肉ではなく、輝く金属片。
「……ん? なんだこれ」
カイが拾い上げたのは、錆びついたプレートだった。
UIが即座に解析を開始する。
【解析結果:旧時代の海底倉庫・キーアイテム】
【推奨アクション:海底探索】
「先輩! それ、お宝の地図じゃないですか!?」
ユズが目の色を変えて飛びついてきた。
「この近くの海底に、古代の遺物が沈んでるってことですか? 行きましょう! 今すぐ行きましょう!」
◇
こうして、カイとレナの二人が、酸素ボンベ代わりの魔法具を装着して潜ることになった。
アオイとユズは船上でのサポートだ。
海中は、地上とは別世界だった。
サンゴ礁の間を色とりどりの魚が泳ぎ、差し込む光がカーテンのように揺らめいている。
だが、目的の「海底倉庫」の入り口を見つけた時、トラブルは起きた。
ガゴォォォン……!
古い遺跡の防衛装置が作動し、激しい水流が発生したのだ。
「きゃっ!?」
レナの魔法具《呼吸器》が岩にぶつかり、ヒビが入って空気が漏れ始めた。
【警告:パートナーの酸素残量、低下中】
【生存率:急速に悪化】
「まずい……!」
カイはとっさに自分の予備ボンベを使おうとしたが、水流が強すぎて道具を取り出せない。
UIが、無慈悲かつ「唯一の」生存ルートを導き出す。
【解決策:緊急用エア・ドームの展開】
【条件:空間維持のため、対象との密着が必要】
「レナ、こっちだ!」
カイはレナの腕を引き、岩陰の狭い窪みに逃げ込むと、魔法具の緊急スイッチを押した。
ボシュッ! という音と共に、二人の周囲に直径1メートルほどの空気の球が生成される。
水は弾き出されたが——狭い。あまりにも狭すぎる。
二人の体は、濡れた水着越しに完全に密着していた。
レナの柔らかい肢体が、カイの胸に押し付けられる。
「はぁ、はぁ……た、助かりましたわ……」
レナが荒い息を吐く。その吐息がかかる距離だ。
危機は脱したが、UIの警告は止まらない。
【警告:ドーム内の酸素濃度、不安定】
【推奨行動:体温の上昇と心拍数の安定化による、魔法魔力の増幅】
【具体的な指示:相手の腰に手を回し、体表面積の80%を密着させてください】
「なっ……!?」
カイは目を疑った。
だが、ドームは不安定に揺らぎ、今にも消えそうだ。
魔法の維持には、術者であるレナの精神安定と、カイからの魔力供給《接触》が不可欠らしい。
「カ、カイ……? どこを触って……」
「ち、違うんだレナ! 変な意味じゃない!」
カイは冷や汗をかきながら、UIに表示された『黄金の手形マーク(ここを支えろ)』に従い、震える手でレナの引き締まった腰と、背中に手を回した。
「こ、こうしないと、ドームが維持できないんだ! システムがそう言ってる!」
「ひゃぅっ……! そ、そこは……!」
レナの顔が、水着と同じくらい真っ赤に染まる。
だが彼女は抵抗しなかった。むしろ、潤んだ瞳でカイを見上げ、ギュッと彼の首に腕を回してくる。
「……あなたの計算なら、信じますわ。……でも、もし計算間違いで変なことをしたら……あとで打ち首ですからね?」
【好感度:さらに上昇中(限界突破)】
【ドーム安定度:良好(Perfect)】
(……俺の能力、本当にこれでいいのか?)
カイは葛藤した。
命を救うための最適解が、なぜこんなにも扇情的なのか。
温かく柔らかい感触と、レナの甘い香りに包まれながら、カイは救助が来るまでの数分間、理性という名の最強の敵と戦い続けることになった。
それは、ドラゴンと戦うよりも遥かに過酷な、嬉しい悲鳴のミッションだった。
読んでいただきありがとうございます!
これにて「導入編」は終了です。
次回から、物語はシリアスな「深淵」へと進んでいきます。
行方不明事件、そして第2のヒロイン・セイラの奪還へ。
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