第13話:魂を削る代償と、時計塔の番人
絶対の拒絶を誇る赤い壁を、『鍵』を使って強制的にこじ開けたカイ。
しかし、その代償は彼の魂を削るほど重いものだった。
倒れたカイを連れて時計塔内部へ逃げ込んだレナとセイラは、満身創痍の彼を前に、ある決意を固める。
「急いで! 奴らが来ますわ!」
「カイ様、少しの辛抱です……っ!」
真っ赤に染まった右目を押さえ、意識を手放した俺を両脇から抱え上げ、レナとセイラが大時計塔の重い扉へと滑り込む。
外からは、壁が壊れた異常を検知した無数の『スイーパー』たちが、不気味なカチカチというノイズを鳴らして迫ってきていた。
——ガァンッ!
分厚い石の扉を閉めると同時、セイラが即座に香炉の鎖で扉と柱を厳重に戒め、封鎖する。
扉の向こうからドンドンと叩く音が響くが、ひとまずはやり過ごせたようだ。
「カイ、しっかりして! 『癒やしの息吹よ』……っ、どうして!? わたくしの治癒魔法が、全く効きませんわ!」
冷たい石の床に俺を寝かせたレナが、半狂乱で回復魔法をかけ続けている。
だが、右目から流れる血も、異様な高熱も、一向に引く気配がない。
「レナ様、魔法は無意味です。……これは、肉体の損傷ではありません」
セイラが悲痛な顔で、俺の右目にそっと手をかざした。
「彼の『魂の形』そのものが、無理な力を使ったことで削り取られ、変質してしまっているんです。……私たちのために、彼自身の存在を代償にして、あの理不尽な壁を壊してくれたんですよ」
「そんな……」
レナの目から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「わたくし、今まで全部カイに助けられて……文句ばかり言って……。いざという時に、治癒魔法ひとつ満足にかけてあげられないなんて……!」
「泣いている暇はありませんよ、レナ様」
セイラが、自らの巨大な武器を床に突き立て、静かに、だが確かな熱を帯びた声で言った。
「ここから先は、私たちが彼を守るんです」
「……ええ。そうですわね」
レナは乱暴に涙を拭い、立ち上がった。
その瞳には、もう迷いはなかった。
「……ん、ぁ……」
「カイ!」
「カイ様、気がつかれましたか」
二人の声で、俺は泥沼のような意識の底から引きずり上げられた。
ズキズキと脳髄を叩くような痛みは残っているが、なんとか意識は保てそうだ。
ゆっくりと目を開けると、目を真っ赤にしたレナが覗き込んでいた。
「……勝手に殺すなよ。俺はまだ生きてるぞ……」
「っ……! もう、本当に馬鹿なんですのね……!」
レナが安堵と呆れが混ざったような声で鼻をすする。
俺はふっと息を吐き、視界の端に浮かぶ異常に気がついた。
今まで青色だった右目のUIが、まるで警告色のような『赤紫色』に変色している。
【自我データ:一部破損】
【システム干渉レベル:Class-Cへ上昇】
【システム再起動まで……残り 70時間 45分】
(干渉レベルが上がった……? あのヤトの鍵のせいか)
世界のバグに、俺自身が近づきつつある証拠。
ヤトの忠告の正しさを身をもって理解したが、立ち止まっている余裕はない。
「休んでる時間はないな。……上に行くぞ」
俺が壁に手をついて無理やり立ち上がると、二人が慌てて両脇から支えてくれた。
時計塔の内部は、俺たちの知る常識的な構造ではなかった。
見上げれば、本来の石造りの壁は消え失せ、代わりに『巨大な真鍮の歯車』と『紫色のデジタルコード』が複雑に絡み合いながら、果てしなく上部へと続いている。
ファンタジーとサイバーがグロテスクに融合したような、狂った迷宮だ。
俺たちは螺旋状に伸びる奇妙な階段を上り、中層の巨大な踊り場へと辿り着いた。
——その瞬間。
【警告:高脅威度の防衛プログラムを検知】
踊り場の中央で、空間がぐにゃりと歪んだ。
そこに現れたのは、これまでのスイーパーとは比較にならないほど巨大な、無数の歯車と刃で構成された『時計塔の番人』だった。
「下がっていてください、カイ様」
「ここは、わたくしたちに任せなさい!」
ふらつく俺を背後に庇い、レナが真紅の炎を両手に宿し、セイラが巨大な香炉を軽々と構え、前に出る。
頼もしい二人の背中が、巨大な番人と対峙した。
第13話、お読みいただきありがとうございました!
カイの自己犠牲と、それを受けて覚醒するヒロインたちの決意。
時計塔内部は歯車とデジタルノイズが混ざり合う異空間となっており、ついに巨大な中ボス『番人』が立ち塞がります。
次回、ついにレナとセイラの実力が爆発!?
傷ついたカイを守るため、二人が魅せる全力のバトルにご期待ください!
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こちらで第13話は完成となります!




