第12話:絶対拒絶の壁と、傍観者からの『鍵』
大時計塔を阻む、巨大な赤いノイズの壁。
物理も魔法もすべて「無かったこと」にされる絶対の拒絶を前に、カイの視界だけが突然フリーズし、あの謎の少女が再び姿を現す。
大時計塔へ続く中庭の道を、天まで届く巨大な『赤いノイズの壁』が完全に塞いでいた。
「これならどうですの! 『紅蓮の……っ!』」
「砕けなさい!」
レナの最大火力の炎と、セイラの巨大な香炉が同時に壁へと叩き込まれる。
だが、爆発も破壊音も起きなかった。
炎も巨大な鉄塊も、赤い壁に触れた瞬間にまるで『最初から存在しなかった』かのようにフッと消滅し、二人は体勢を崩して弾き返された。
「なっ……わたくしの炎が、消えましたわ!?」
「手応えすらありません。干渉そのものを『削除』されていますね……」
俺の右目も、先ほどから無情な赤文字の警告を点滅させ続けている。
【エラー:アクセス権限がありません】
【対象への干渉をすべて無効化します】
物理的な硬さじゃない。システムが「ここから先への立ち入り」をルールとして禁じているのだ。
力押しでは絶対に破れない壁を前に、俺が奥歯を噛み締めた、その時。
——ピタリ、と。
世界から一切の『音』が消えた。
「……え?」
弾き返されてよろめくレナの姿勢が、空中で静止している。
舞い上がったセイラの緑色の髪も、空中に漂う砂埃も、すべてが一時停止ボタンを押されたようにフリーズしていた。
『あら、意外と早くここまで来たのね』
静寂の中、背後から鈴を転がすような声が響いた。
振り返ると、宙に浮いた赤いノイズの破片の上に、以前路地裏で会った謎の少女——『ヤト』が腰掛けていた。
彼女は退屈そうに足を揺らしながら、俺を見下ろしている。
「お前……! このふざけた異常事態も、お前の仕業か!」
『まさか。私はただの傍観者よ。……でも、管理者権限がないと、そこから先へは行けないわ』
ヤトは妖しく微笑み、手のひらに『黒いノイズの塊』を浮かび上がらせた。
『あなたのその右目の奥底を解放して、私のあげるこの「鍵」を読み込ませれば、一瞬だけ壁に穴を空けられるわ。……でも、やめておいた方がいいわよ』
「……どういう意味だ」
『システムの深淵に触れれば触れるほど、あなた自身の「現実」が削り取られて、バグと同化していくから。人間でいたいなら、ここで大人しく消滅を待つことね』
ヤトの忠告は、嘘ではないのだろう。
だが、俺の視界の隅では、今も『残り71時間』というカウントダウンが冷酷に時を刻んでいる。
地下室で震えている生徒たちを見殺しにして、自分だけ人間として死ぬなんて、選べるわけがない。
「……御託はいい。その鍵を貸せ」
『ふふっ。本当に、馬鹿な人』
ヤトが指を弾く。
その瞬間、黒いノイズの塊が俺の右目に向かって一直線に飛び込んできた。
——パチンッ!
耳鳴りと共に、世界に「音」と「時間」が唐突に帰還する。
「……っ、全く、どうすればいいんですの……きゃあっ!? カ、カイ!? どうしたんですの、その血!」
時間停止を微塵も認識していないレナが、着地と同時に振り返り、悲鳴を上げた。
俺は右目を押さえ、その場に片膝をついていた。
目玉の裏側から脳髄を直接かき回されるような、今まで経験したことのない激痛。指の隙間から、ボタボタと夥しい血が地面に滴り落ちる。
【外部プログラムの強制展開:警告、自我データの破損リスク】
【障壁に一時的な脆弱性を作成しました】
「カイ様!? 一体何が……!」
セイラが駆け寄ろうとするのを、俺は血に濡れた手で制止した。
視界が真っ赤に染まる中、分厚い赤い壁の右下、地面から二メートルほどの位置に『黒い亀裂』が走っているのが見えた。
ヤトの鍵がこじ開けた、ほんの一瞬の隙。
「今だ……! 右下、地面から二メートルの黒い亀裂を、二人で同時に撃ち抜けぇっ!!」
俺の血を吐くような絶叫に、二人は戸惑うことなく即座に反応した。
「よく分かりませんけれど、やりますわ!!」
「カイ様の命に代えても!」
レナの極大の火柱と、セイラの渾身のフルスイングが、俺の指定した『黒い亀裂』へ完璧なタイミングで突き刺さる。
——ガシャンッ!!
絶対の拒絶を誇っていた赤い壁が、まるで脆いガラスのように粉々に砕け散った。
時計塔の入り口を塞ぐものは、もう何もない。
「やった……」
俺はそこまで見届けると、右目の激痛に耐えきれず、そのまま冷たい石畳の上へと意識を刈り取られた。
「カイ!!」
「カイ様っ!」
ヒロイン二人の悲痛な叫び声が、遠ざかる意識の底へと吸い込まれていった。
第12話、お読みいただきありがとうございました!
時間停止の世界で、再び謎の少女ヤトと接触したカイ。
彼女から得た『鍵』の代償として右目から血を流しつつも、見事に絶対防御の壁を打ち破りました。
しかし、無理な能力の解放でカイが倒れてしまいます。
ヒロイン二人は、倒れたカイを連れて時計塔へ足を踏み入れるのか?
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