第11話:遅延《ラグ》する死神と、無限回廊の罠
旧校舎の外へ出たはずのカイたちの前に現れたのは、終わりのない無限の廊下だった。
空間の継ぎ目が消え、同じ場所を彷徨い続ける三人。
そこへ、既存の法則を無視して「瞬間移動」を繰り返す異形の刺客が迫る。
どれくらい歩いただろうか。
旧校舎の廊下を進んでいるはずなのに、景色が一向に変わらない。
「……またですわ。この血のついたロッカー、さっきから四回目ですわよ!」
レナが苛立ちを隠さず、壁を蹴った。
天井には机がめり込み、窓の外はただ紫色のノイズが流れるだけの虚無。
俺たちは、時計塔へ向かっているはずが、同じ場所を円を描くように歩かされている。
「空間が『円』を描いて閉じられています。……道が繋がっているのではなく、世界の端と端が、無理やり縫い合わされているようです」
セイラが壁のノイズに触れながら、静かに告げた。
俺の右目も、絶望的な警告を点滅させている。
【警告:循環参照を検知。空間の出口が定義されていません】
出口がない。ここを管理している「システム」が、俺たちを逃がさないために迷路を書き換えたのだ。
その時、廊下の奥からカチカチと不快な音が響いてきた。
姿を見せたのは、以前中庭で戦った『スイーパー』の変種だった。
だが、そいつの動きは明らかに異様だった。
「……っ、来るぞ!」
俺が叫ぶのと同時、怪物が一歩を踏み出す。
次の瞬間、奴の姿がフッと消えた。
「消えまし——えっ!?」
レナが驚愕の声を上げる。
怪物は歩く予備動作もなく、数メートル先の地点へ『ワープ』するように出現した。
コマ送りの映像を見ているような、カクカクとした断続的な動き。
「燃えなさい!」
レナが反射的に放った火柱。
だが、炎が直撃したと思った瞬間、怪物の姿はそこにはなく、背後にいた。
……いや、背後にいたはずの怪物の姿が、一瞬遅れて『燃えている地点』に残像として現れ、消えた。
【警告:対象の座標データに深刻な遅延が発生中】
「目に見えている場所を狙うな! そいつは『今いる場所』より先に移動してるんだ!」
あいつのデータは、この世界の処理が追いつかないほどズレている。
目で見える「今」を信じれば、確実に殺される。
俺は右目の痛みをこらえ、視界を加速させた。
ラグによってカクつく怪物の動き。その「カクつき」の周期を読み取り、数秒後の確定座標を割り出す。
「レナ、左斜め後ろだ! 誰もいない空間に最大火力で撃て!」
「なっ、誰もいませんわよ!? ……でも、信じますわ!」
レナが振り返り、虚空に向かって紅蓮の爆炎を解き放つ。
何もないはずの空間。
そこに、遅れて現れた怪物が、自ら炎の中に飛び込むような形で激突した。
「ギ、ギギッ……!」
断末魔のノイズを残し、ラグの死神が霧散する。
だが、休む暇はない。廊下の壁が、まるで押し潰そうとするように左右から迫り始めていた。
「ループが縮まっています……! カイ様、このままでは空間に押し潰されます!」
俺は必死に壁を、床を、天井をスキャンした。
どこかに、この歪な世界を縫い合わせている『継ぎ目』があるはずだ。
「……そこだ! セイラ、右の壁、上から三番目の額縁の裏! そこに全力を叩き込め!」
セイラが迷わず巨大な香炉を振り抜く。
銀色の鎖がうねり、額縁ごと壁を粉砕した。
——パリンッ!
まるでガラスの檻が割れるような音が響き、廊下の景色が陽炎のように揺らぐ。
次の瞬間、俺たちは旧校舎を抜け、荒れ果てた中庭へと転がり出ていた。
「はぁ、はぁ……。やっと、外ですわね」
レナが肩で息をしながら顔を上げる。
だが、そこにあるはずの希望は、新たな絶望に塗りつぶされていた。
目の前にそびえ立つ大時計塔。
そこへ続く唯一の道は、天まで届く巨大な『赤色のノイズの壁』によって、完全に分断されていた。
【アクセス拒否:強固な障壁を検知】
【警告:これ以上の接近は不可能です】
「……嘘だろ。まだ邪魔をするのか……!」
時計塔まであと一歩。
しかし、世界の理そのものが、俺たちの立ち入りを拒絶していた。
第11話、お読みいただきありがとうございました!
「ラグ」を伴う敵、そして無限ループの廊下。
カイの「先読み」とセイラの破壊力でなんとか突破しましたが、時計塔の前には巨大な赤い壁が立ち塞がります。
この『障壁』を突破する手段はあるのか。そして、72時間のカウントダウンは残酷に進んでいきます。
次回、壁を穿つための「禁じ手」とは……?
応援いただける方は、ぜひブックマークや評価をお願いします!




