第10話:反撃の特異点と、バグに侵食された迷宮学園
隔離空間となり、世界の『初期化』が始まった学園。残された時間は、わずか72時間。
カイたちはパニックに陥る生徒たちを安全地帯に残し、元凶である『バグの核』を破壊するために動き出す。
しかし、安全な地下室の外は、すでに元の学園の姿を失っていた。
旧校舎の地下図書室。
カビ臭く冷たい空気の中、逃げ延びた数十人の生徒たちが身を寄せ合い、震えていた。
すすり泣く声が響く中、俺は部屋の隅で、レナとセイラにだけ聞こえるよう声を落とした。
「……というわけだ。俺の右目には、あと72時間でこの学園全体が完全に『初期化』されると出ている」
「なっ……! 三日後には、わたくしたちも外の生徒たちと同じように、跡形もなく消されるというんですの!?」
「声が大きい、レナ。パニックを起こさせる気か」
俺がたしなめると、レナはハッとして両手で口を塞いだ。
隣で話を聞いていたセイラは、表情一つ変えずに淡々とうなずく。
「カイ様がそう仰るなら、それがこの世界の『今の真実』なのでしょう。……では、どうしますか? 震えて消滅を待ちますか?」
「冗談だろ。待ってて助かるなら苦労しない」
俺はズキズキと痛む右目に手を当てた。
あの不気味な『スイーパー』どもが現れ、学園が隔離されたことには、必ずシステム上の発生源があるはずだ。
俺は右目の痛みを無視して、UIのトレース機能を限界まで引き上げた。
(探せ……。このふざけた初期化プロセスの、大元を……!)
視界に走る紫色のノイズが、まるで血流のように一定の方向から流れてきているのが見えた。
その流れを逆算し、座標を特定する。
【トレース実行:空間異常の発生源を検索】
【特異点を特定:大時計塔】
「……見つけた。学園の中央にある、大時計塔だ」
「あそこに、この異常現象の元凶があるんですのね?」
「ああ。あそこにある『バグの核』をぶっ壊せば、この初期化を止められるかもしれない」
やるべきことは決まった。
だが、怯える一般生徒たちを連れて行くのは不可能だ。外には当たり判定のない理不尽な化け物がうろついている。
「お前たちはここで待機してろ。何があっても扉は開けるな。……いいな?」
俺が念を押し、生徒たちが震えながら頷くのを確認して、俺たちは地下室の重い鉄扉を抜けて廊下へと出た。
「レナ、頼む」
「分かっていますわ。……『拒絶の残り火』!」
レナが扉の表面に手をかざすと、真紅の炎が紋章を描き、焼き付けるような熱量で扉全体を包み込んだ。これで外からの安易な魔法干渉は防げる。
さらにセイラが、虚空から引きずり出した巨大な香炉の太い鎖を、廊下の支柱と扉の取っ手へ、外側から幾重にも巻き付けた。
「これで外からの物理的な侵入も困難です。……内側の皆さん、中からしっかりと閂を。私たちが戻るまで、決して解かないでください」
扉の向こうから「わ、わかった……!」という掠れた声が聞こえる。
ひとまずはこれで、彼らの安全は確保できたはずだ。
「カイ、絶対に戻ってきますわよ」
「ええ。カイ様の生存ルートは、私が必ず切り開いてみせます」
二人の頼もしい言葉に背中を押され、俺は廊下の奥へと向き直った。
——だが、一歩踏み出した瞬間。
俺たちは、自分たちの目を疑った。
「……何ですの、これ」
「空間の座標が、完全に狂っていますね」
旧校舎の廊下は、俺たちの知る姿をしていなかった。
天井に向かって『逆さまの階段』が落ちていき、本来数十メートルしかないはずの廊下が、暗闇の奥まで無限に伸びている。
壁のあちこちには、ひび割れた空間から紫色の【文字化け】したテキストが溢れ出していた。
【警告:空間座標の破損。未定義エリアへ突入】
【推奨:直ちに引き返してください】
「ふざけんな。引き返す場所なんて、もうどこにもないんだよ」
俺は右目の警告を睨みつけ、果ての見えない異常空間へと一歩を踏み出した。
日常は終わった。
ここから先は、理不尽な法則が支配する『バグの迷宮』だ。
第10話、お読みいただきありがとうございました!
タイムリミットが迫る中、カイたちは生徒を安全地帯に残し、元凶である『時計塔』を目指します。
しかし、一歩外に出た学園は、重力や空間が狂った「バグの迷宮」と化していました。
果たして彼らは、この理不尽なダンジョンを突破してコアを破壊できるのか?
次回からの迷宮探索編も、ぜひお楽しみに!
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