第1話:確率の支配者と、死の宣告
初めまして。本作を手に取っていただきありがとうございます。
「確率」と「運命」に叛逆する物語、開幕です。
東雲カイがその事実に気づいたのは、幼い頃のことだった。
視界の端に浮かぶ奇妙な半透明のウィンドウ。
通行人の頭上に浮かぶ「機嫌:80%」や、明日の降水確率、そして——自分が今日、安売りのパンを買える確率。
全てがデジタルに解析される世界で、カイはいつしか「期待値」に従って生きるようになっていた。
リスクを避け、効率を求め、波風を立てない。
それが、このバグだらけの世界を生き抜く最適解だと思っていた。
あの日、彼女を見るまでは。
「……っ」
放課後の校門前。
豪華な馬車が止まり、取り巻きを引き連れた一人の少女が姿を現す。
赤城レナ。
この学園で最も高貴で、最も苛烈な、赤髪の令嬢。
だが、カイの目に映ったのは、彼女の美しさではなかった。
レナの頭上に浮かぶ、どす黒い赤色の灯火。
それは、カイがこれまでの人生で一度も見たことがない、不吉な輝きを放っていた。
【状態:死の宣告】
【終焉の灯:常時点灯】
【生存率:0.00%】
(……ゼロ?)
カイの喉が鳴った。
数値は絶対だ。これまでの人生、カイの視界に映る確率が外れたことは一度もない。
今この瞬間も、彼女の命のカウントダウンはゼロを指したまま固まっている。
点滅すらしない。それは、システムが下した「確定した死」の宣告に他ならなかった。
突如、空間が歪んだ。
馬車を先導していた護衛の騎士たちが、何もない空間に弾き飛ばされたように宙を舞う。
一般人の目には見えない。だが、カイの視界にはその輪郭がはっきりと描画されていた。
【敵性体:グリッチ・ドラゴン(幼体)】
【推定討伐レベル:50(※現在レベル:1)】
「……冗談だろ、初期装備でラスボスに挑むようなもんだぞ」
馬車の窓が割れ、中から放り出されたレナが地面を転がる。
彼女はすぐさま腰のレイピアを抜き放ったが、その剣先は虚空を彷徨っていた。
敵が見えていないのだ。
レナの背後に、見えない爪が振り下ろされる。
(逃げろ。今ならまだ間に合う)
(お前ごときが介入しても、結果は変わらない)
脳内の冷徹な計算機が囁く。
だが、カイの瞳は、震えながらも立ち上がろうとする彼女の背中を捉えて離さなかった。
カイは、足元に落ちていたひしゃげた鉄パイプを掴んだ。
生存率100%の『逃走』ルートを、自らの意志で踏み潰す。
「……計算、完了」
カイは叫んだ。
「俺の計算じゃ……『見殺しにした時の後悔』は、死ぬより重いんだよ!!」
地を蹴る。
レナの懐に飛び込み、その細い身体を抱き寄せた。
直後、二人がいた場所を巨大な衝撃波が抉り取る。
「へ……? あなた、何を……!?」
「伏せてろ! 舌噛むぞ!」
吹き飛ばされ、地面を転がりながらもレナを庇う。
全身を走る激痛。視界が真っ赤に染まる。
【HP:残り1】
【生存率:0.00% → 確定】
(……ああ、やっぱりな。計算通りだ)
視界が暗転していく。
レナの悲鳴が遠く聞こえる。
その時だった。
真っ暗な意識の底で、ノイズ交じりの少女の声が響いた。
『——壊しちゃえば?』
心臓の奥で、何かが「プチュン」と切れる音がした。
——ピピ、ピピピピピピ……!!
脳内の警告音が、歓喜のファンファーレへと変貌する。
0%の表示に亀裂が入り、数字がバグり、意味を成さない文字列へと昇華していく。
『感情値、限界突破。特化領域へ移行します』
カイはゆっくりと目を開けた。
その瞳は、システムのエラーを示す「虹色」に輝いている。
『——因果絶断、発動』
「……悪いな、お嬢様」
カイは折れた鉄パイプを捨て、素手で虚空を掴んだ。
そこには、本来なら存在しないはずの「因果の糸」が見えていた。
「ここからは、俺のターンだ」
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