第7話 ノンストップ・血まみれ男爵
全身血まみれの男爵が、魔物を逆さ吊りにして、血を絞り出している構図。
うん、どっからどう見ても、邪悪な儀式かなにかだな! って、おい!
「まあまあ、落ち着け。話せばわかる」
「我々は、落ち着いておりますが?」
そうだな、落ち着いてないのは僕だ。
「実は、深い深いわけがあるのだよ」
「もちろん、拝聴しましょう。さあ、早くお話ください。さあさあ、早く」
じりじりと、近づいてくる聖騎士。こいつ、僕が怪しげな素振りを見せたら、捕まえる気満々だぞ!?
でも、その割になんか腰が引けてるな。あっ、血が鎧に付着しないように気を付けて歩いてやがる! 潔癖かよ!
「あー、あれだ。要するに……えと」
魔物肉を食べようとしてるんです。とかって言ったら、さすがに異端判定、待ったなしだろうな。それくらいは、僕にもわかるぞ。
だって、普通はそんなもの食べたら、魔物化するもん。
「魔物の体を調べて、効率よく駆除する研究をしてて、だな」
「血抜きをしているように見えますが?」
「そ、そうだな。一見、そう見えるな?」
あばばば、血抜きとか、食材処理やんけってことか!? それは確かに!(納得)
「アレアレアレ! アレだよ、きみ」
「ほほう、アレとはどれです?」
「ほら、魔物の血液も研究しているってことだよ」
「……なんのために?」
「もちろん、弱点を探るためだ」
「内臓を掻き出す、と、おっしゃってましたね?」
そこから聞いてんのかよ!
「そりゃ、内臓も研究してるからだよ?」
「それも弱点を見つけるため、ですか」
「うん」
沈黙。じーっと見られている。なんだ、この空気。
だーっ! うっとうしい。勝手に、ここに入ってきたくせに!
「この領地に、ろくなものがないから、魔物に使い道がないか研究してて何が悪いってんだよ!」
「……魔物の臓物を、商業に使うおつもりと?」
「使えるならな! なんだ、これも異端判定か?!」
すると、聖騎士は悩みだした。え、マジで? イケそう?
「骨だの皮だの角だの、魔物の素材をなにかに使うときもあるだろ! ほら、生薬の原料に、動物の部位くらい使うだろ!」
「そうですね、そのようなこともあるでしょう。で、例えば?」
「たっ、例えば??? ほら、美容オイル……とか?」
「……まさか、その毒々しいゴブリンの油脂を塗ると言うのか?」
いや、さすがにそれは僕も嫌だな。
「ほら、なんていうか。まだ、アイデアを練ってる最中だからさ?」
「……では、なぜ最初からそのように説明なさらなかったのですかな」
「他の奴に、真似をされたくないからな。できれば隠したいんだよ!」
「誰も真似したくないと思うが」
「確かに!」
くそ、このままなんとか誤魔化してやる。じゃなきゃ、たぶん死刑だ。
「つまり、邪悪な儀式ではない?」
「それは絶対に違うってば。逆に、なんで、そんなに疑うんだよ」
「ヤバマーズ男爵領の噂を、色々と聞いておりましてな」
「……噂?」
「怪しげ邪教に染まり、その上、次々に領主が変死。何でも呪われているとか」
「そいつは失礼な話だな! ぷんぷん!」
いや、うん。なんていうか。
祖父が、変な宗教にハマってたのは事実なんだよ。(当主のやらかし)
しかも、だいたい、みんな変な死に方してるしな。
「その上、ヤバマーズ男爵は、食べ物に困っておられるとか。なのに、食べ物を受け取りたがらないと」
「はあ? 誰がそんな根も葉もないことを言ったのかな」
「先ほど、そこの執事が、土粥を作っているところを見つけましてね。聞けば、食料も底をついているとか?」
原因はおまえか、ゲロハルト!
客人に困窮がバレるようなミスしやがって!!
必死に顔をそらして、気まずそうすんなっ! いいから大人しく、貰った芋食っとけよ!
(うう、ここで白骨茸、毒抜きして食ってるって言ったら、誤魔化せるのか?)
なんとか言い逃れできないか、と悩んでいたら、シスターが止めた。
か細く、でも、小鳥のように澄んだ声だった。
「ねえ、ロダン。そんなに詰め寄っては、お気の毒だわ。見れば、領主自ら魔物を狩っておられるようですし」
「むむ」
シスターが指さしたのは、魔物につけられた傷跡だ。
「内臓にある急所を、背後から一突き。これは確かに、解剖学的見地から行われた手際と言えるかもしれませんよ」
「しかし、ですな。どう見ても、怪しいではありませんか」
「教区による魔物討伐が、機能していないのは明白ですから。領主であるアスタ様、直々にお仕事をなされているのは、素晴らしいことです。民の生活を守られている証しではありませんか」
「それは、確かに……そうとも言えますね」
素晴らしいって言われてしまった。いや、意外と誰にも褒められないから新鮮だ。
わりと、やって当たり前だと思われてるからな。
「えと、そちらのシスターは?」
「申し遅れました。わたくしは、祓魔女のリュスでございます。そして、こちらが――」
「……吾輩は、聖騎士ロダンだ」
不承不承と言った様子で、聖騎士は名乗った。
僕は、なんとか場を凌げたかと、息をつく。
「ならば、僕も一応名乗ろうか。アスタ・ド・ヤバマーズ。この地を治める男爵だ」
よし、何の用事かわからんが、まずはいったん出ていってもらおう。
「話は、作業後に伺おう。ゲロハルト、お二人を客間にご案内して――」
「いや、目の前でやりたまえ」
「は?」
思わず、停止する。
聖騎士ロダンは、苛立ちを隠そうとしていない。
「目の前で、作業の続きをしろ、と言ったんだ」
「ロダンっ、その物言いはっ」
「いいえ、リュス。やはり、ヤバマーズ男爵は怪しい。今、こやつを見極めるべきなのですっ!」
ますます高圧的に、聖騎士ロダンが言った。こいつ、全然収める気ねえな?
「ほほう、言ったな? ロダンとやら」
僕は、鉈を握ると肩を鳴らす。こうなったら、もうヤケだ。
「マジで、作業するからビビって逃げんなよ。聖騎士っ!」
僕は、魔物を下ろすと、次々に捌き始めた。
腹を切り裂き、邪魔な骨を砕き、内臓を残らず、バケツに放り込んでいく。もはや、手慣れた作業だ。
「なんと、凄惨な。……こ、こんなことをして、何の意味がある?」
「意味なんてのはな、やってみなけりゃわからないんだよ! ほらよ、これがゴブリンのランプ肉だ! で、これがレバーと腸な!」
「うぐっ! やめろ、吾輩の前に内臓を差し出すな!」
「うっせ、ゴブリンでソーセージ作るぞ、オラぁ!」
魔物と普段から戦っているはずの、聖騎士ロダンから戸惑いの声が漏れた。どうにも、具合が悪そうだ。
「……ここまで、するなんて」
だが、後ろにいるリュスは声を漏らしたが、目をそらす様子もない。意外に平気そうだ。
(なんだ、この女? ……と言うか、妙な空気をまとってるな)
違和感はさておき、筋肉や脂、部位ごとにどんどん解体していく。
あっという間に、用意していたバケツが血と臓物でいっぱいになった。
「……ったく、この臓物やら血液も、使い道があるといいんだがな」
生活水を汚染したくないから、本当に捨てどころに困るんだよ。白骨茸を処理した、廃水……猛毒スープもな!
やれやれ、近いうちに、何か方法を考えないと。
「で、ひと段落ついたからな。話を聞いてやる。ゲロハルト、茶を淹れろ」
「はっ、かしこまりました。若様っ」
仕方ないので、貴客が来た時用の、なけなしのやつを使わせることにした。
無駄に、土の産地とか説明するなよ、ゲロハルトよ。




