第6話 ゴブリン解体ショーに客が来た
そもそも、狩猟は領主にとって、権利でもあり義務だと言える。
領地における動物は、ざっくり二種類にわけられる。それは、獲物と害獣。
例えば、鹿とか野ウサギとかだな。この獲物に分類された動物の所有権は、当然に領主にある。
で、一方、害獣の駆除もまた、領主の責務なわけだ。まあ、こっちは、別に領民が仕留めてくれても、全然かまわないんだが。
だが、キツネや狼はまだしも――。
「まったく旨味のない、緑の害獣めっ! 忌々しいっ!」
こいつらは誰も喜んで、狩ろうなどとはしないのだ。
僕だって、狩猟番に代行させたいけど、残念ながらうちにそんなものはいないわけで。
僕は、西の森に入ってすぐに奴らを見つけた。
「おお。相変わらず、不愉快な見た目をしているな」
魔素に侵され、変異した怪物。肌は毒々しい緑色。(たまに、ゲロハルトが似た色になる。大丈夫か?)
知性は低く幼稚だが、しかし、残忍だ。
こいつらを、獲物としてカウントする貴族はいない。肉も皮も使い道がないし、ろくな名誉にもならないからだ。
「だが、今の僕にとっては違う。きっと、いつか使い道が出来るだろう」
さあ、実験と行こうじゃないか。ヤバマーズ・キッチンの開店だ。
僕は、音もなく忍び寄ると、背後から腎臓にナイフを突き立てる。
「ギ――ッ!?」
悲鳴を上げる暇も与えない。激痛と出血で動けなくなる。
さらに、もう一体が棍棒を振り上げるより早く、喉笛を掻き切ってやった。こっちは、悲鳴でうるさくなる。耳障りだ。
「さてさて。仕掛けた罠の方も、ちゃんと確認しておかないとな」
ヤバマーズ家に伝わる、伝統技術。それは……無駄に素早い身のこなしだ。
代々、失策をしでかして、怒った相手や借金取りから逃げ続けてきた結果、我が家系には歩法と呼吸法が伝わっている。
これに罠のノウハウや、ネジ巻き式ボウガンを合わせて、奴らを狩っている。
「あいつら、こっちに気付くと逃げ出すんだよなあ」
まるで、化け物にでも出会ったような顔で。全く失礼な連中だ。
「化け物は、お前達だろうに。……なあ?」
さっそく引っかかっていたゴブリンと変異狼に、止めを刺していく。
変異狼は、ゴブリンに飼いならされることはあるが、人間には決して懐かない。
その上、どこまでも気長に追跡してきて、隙を見せた瞬間に食い殺しに来る。旅人がまず警戒しないといけない、害獣の一つだ。
ひと仕事だが、まだ終わりじゃない。離れにある小屋に、こいつらを運び込む。
「はあはあ。さすがに、最近はもう、体力が……」
さすがにへばりかけたので、毒抜きをした白骨茸をかじって、お湯で流し込んだ。
圧倒的に、身体のエネルギーが足りてないのだ。
「まず、血抜きだな。で、内臓は全部取り除いておく、と。
魔物は、他の動物と比べて、エサを食わないみたいだから、たぶん、魔素も代謝に使ってるんだと思う。
「そう考えると、まず血液は怪しいんだな。どう考えても、魔素が濃いだろう。で、内臓も必然的に避けたいから、下処理は大事だ」
全部逆さづりにして、血を抜く。真下にバケツを置いて、時間を待つことにした。
「ククク、今日こそ食える部位をなんとか見つけてやるぞ!」
ここまでは、いつもの手順なんだよな~。
「若様っ!! 大変でございますっ!」
「なんだよ、騒々しい。またいいところなのにっ! これから、内臓を掻きだす大仕事があるんだぞ!」
また、ゲロハルトに邪魔をされた。
僕は、振り返ることすらせず、骨切鋸や鉈を準備していく。
「実は、その、お客様が来ておりまして……」
さっきも、来客の対応はしただろうが。なんで、今日に限って千客万来なんだよ。
「いいから待たせとけよ。こちとら、領主様だぞ? 僕は、ヤバマーズ男爵だぞ?」
「いえ、その。まさしく、その通りなのですが……」
「うん、だからなんだよ。誰が来たって言うんだよ」
うんざりしながら、振り返る。さっさと相手して、帰ってもらうか。
「って……ああ?」
小屋の入り口。そこには重々しい甲冑を身に着けた騎士と、顔を隠したシスターが並んでいた。
汗を拭きながら、申し訳なさそうにしているゲロハルト。
「そのもう……こちらに、いらっしゃっておりまして」
甲冑に刻まれているのは、聖王教の印章。つまり、聖騎士。
「……ヤバマーズ男爵。これは」
え、ヤバい。
「まさか、異端ではありますまいな?」
これは、本気でヤバマズいぞ!?!?




