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第5話 領主は食わねど、ヤバマーズ!(強がり)

 毒キノコを試した翌日のこと、来客があった。

 それも、僕が改めて、資料を取りまとめていた時のことだ。


「ふむふむ。どうにも、歴代当主の記録や資料には、欠落が多いな。……過去に、なにかあったのだろうか?」


 だとしても、父上はどうして――?


「若様、よろしいでしょうか」


 そこに執事のゲロハルトが、僕へ声をかけてきた。思索が止まる。


「なんだ、良いところだったのに」

「申し訳ございません。その……領民たちが、食料を持ち寄って来ておりまして」


 ああ、またか。たまにいるのだ、自ら食料を寄付しに来る領民が。

 ため息をつきながら、玄関へと向かう。幾人かの、髭面のオヤジたちが並んでいる。見慣れた顔ばかりだ。


「若様……じゃなかった。えーと、旦那様!」

「別に、若様で良いぞ。跡を継いだにしては……まだ貫禄もないしな」


 弱冠、十九歳で旦那様と呼ばれるのも、むず痒いものだ。


「へい、若様。これ。うちの畑でとれたもんですが」

「あ、あっしらも。これもどうぞ」


 皆に差し出されたのは、木箱に入った芋だ。度々、有難いことなんだが。


「僕は、今期は税はとらんといったはずだが?」


 つい、先日。父上が亡くなって、真っ先に出したお触れは『免税宣言』だった。

 辿れば、父上が『税は取らぬ』といったのだ。言ってしまえば、遺言のようなもの。だから、そのまま続けさせてもらった。


「あのう。そいつは、まこと有難いことでごぜえますが。若様は、なにを食って生きられるので?」


 ぬぬぬ……。さすがに魔物肉だの、毒キノコだのを食えるか試していると知られたら、外聞が悪すぎるぞ。

 ゲロハルトが、もの言いたげな目でこちらを見ている。ええい、やめろっ!


「それはだな。……たくわえでなんとかしているのだ」

「本当で、ごぜえますか?」

「ああ、本当だともっ!」


 しかし、そこで腹が鳴る。ぐぅぅ。

 くっ、なにも説得力がない! 僕の腹の正直者めがっ!


「貴族様だからって、(かすみ)だの、朝露(あさつゆ)だのを啜って生きられるわけでも、ごぜえませんですだよ。多くはないですが、芋くらい受け取ってくださいまし」

「しかし、だな。税を取らぬと宣言したくせに、隠れて作物をもらっていると知れたら……」

「あっしは母ちゃんが病気の時に、薬代を立て替えてもらいますた。先代には恩義がありますだ」


 一人が恩を口にすると、それを皮切りに他の者も「おいらは娘を売らずに済んだ」「獣が悪さをしたら退治をしてもらった」などと言い始める。

 男達の熱が高まるのを感じて、僕は受け取らざるを得なかった。


「はあ……これだからヤバマーズの領民は」


 受け取るだけ受け取って、なんとか帰ってもらった。


「ゲロハルト。このまま孤児院に渡してこい。あ、お前の取り分を抜いてからな」

「若様!?」

「なんだ。……教会だって、余裕はないだろうよ。この状況だからな」


 ここ数年、この地方は気温が普段より低くなってしまった。

 空はかすみ、どんよりとした灰色。景色が濁り、太陽が白くぼやけて、直視できるほどに弱々しくなった。お陰で影が薄くなり、光との境界線が消えてしまった。


「森の闇は、さらに深くなったな。……孤児たちが恵みを受けることも難しかろう」


 僕も森にグリーンゴブリンを捕まえに行くが、人里に近づいた連中を間引くのも兼ねている。緑の害獣だからな、奴らは。

 人間の恐ろしさを教えてやらねば、すぐ調子に乗る。


「それは……もちろんそうでしょうが。やはり、若様。今からでも、税を取りませぬか? わずかでも足しにはなりますぞ」

「やだ、断る、したくない」

「体面にこだわっている場合ではありませんぞ。ここは恥を忍んで、父君の意を曲げてでも――」

「あのなぁ、ゲロハルト。恥の問題だけではない。この状況だと、たいした量にはならんぞ。その上で、税を取るということは、人手を出し、正しく調査し、計算をせねばならん。それを誰がやるんだ?」


 減税したところで、普段、税を取る時と、手間はまったく変わらないのだ。

 この状況では、人手も出せん。新たに雇う余裕もなければ、税収から給金を出せるとは限らない。


「領民が窮した状況で、税を取るなど。減税しようがなにをしようが、バカはバカでも、大バカがすることだぞ。有害だ、有害っ!」


 僕は、バカは許容できるが、有害は許容できん。

 で、どうせバカになるなら、後世の笑い話になったほうが幾分かマシだ。


「理屈はわかりましたが、それは余裕がある時にこそ出来ることですぞ」

「……うるさい」

「若様が餓死してしまうよりは、良いではないですか」

「いいや。なら、飢え死にしたほうが、まだ名誉があるっ! もういい下がれ!」


 つい、意地になって、強がってしまった。くそ、本当に口うるさいやつだ。

 僕は、しっしっと追い払うようにすると部屋に戻った。


「よし。今日の食い扶持をなんとかするか」


 毒抜きをすれば、白骨茸を食べられることは分かった。量を食っても、安全かは知らないが徐々に量を増やしていこう。

 だが、結局、キノコだけでは力が出ないぞ!


「やっぱ肉だな、肉。魔物肉をなんとかしよう!」


 実の所、父上の死には謎がある。

 危ないキノコだと知っていたなら、僕のように外で作業をすればよかったのだ。

 なのに、父上はコソコソ隠れるように、屋敷の一室にこもって作業をしていた。なぜだ?


 しかし、これを考えるのは、後回し! 結局のところ!


「腹が減っては、研究は出来ん! 領主として、見栄も張れん!」


 だからこそ、今日もグリーンゴブリンを捕まえに行こうではないか。もちろん、キノコを食べてからな! ふはははっ!

 ……ぐぅ。(腹の虫)

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