表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~  作者: 裃 左右


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/62

第44話 むぎゅむぎゅむぎゅー、お熱い生存報告

 むぎゅ、むぎゅむぎゅ。

 腕に伝わる、あらがえない弾力。しっとり肌に吸い付く、体温のプレッシャー。


 正直に言おう。めちゃくちゃ気に障る。


 いや、語弊があるな。あまりの破壊力に意識の九割を持っていかれ、目の前の大事な話にこれっぽっちも集中できない。


 だが、僕はあえて平静を装い、優雅に壁に背を預けている男――オノレへと視線を投げた。


「それで。戦場に残った連中は、どうなったんだ?」

「いつからそんな殊勝になったのかな、アスタ。目覚めて開口一番、部下の心配かい?」

「うるせぇ、いいから答えろ。僕は今、極限精神修行中なんだ」

「え、それ、どういう意味?」


 オノレ・ド・ラプラスは、困惑。青い前髪を指先で弄びつつ答える。


「まあ、安心したまえ。重軽傷者は山ほどいるけど、信じられないことに、死者はゼロだ。一人も欠けずに、この陰気な村へ帰還したよ」

「それは……奇跡だな」

「奇跡?」

「ああ、神の慈悲だの、そんな言い方は嫌いだが。他に形容のしようもない」


 死者、ゼロ。

 タンポポゾンビの大群に、綿毛の暴嵐。猟兵(シャスール)たちの装備もどんどん自壊していった。

 あの状況を思えば、全滅の二文字すら覚悟の範疇。それを思えば、奇跡で片づけることすら生ぬるい。


 むぎゅむぎゅ。

 思考の隙間を縫うように、離れまいと密着度を増してくる柔肌の感触。無視だ、無視しろアスタ・ド・ヤバマーズ!


「で、僕はどうやって運ばれた? 奴を仕留めた後、気絶したのは覚えているが……あそこは森の深部だったはずだろ」


 その問いには、リュスが夢見心地な声で応えた。むっぎゅーっ。


「ああ、それはですね……。意識を失ったアスタ様を、ロダンが軽々かついで脱出したのです」

「本当に、アイツ人間か? ……かなり、ボロボロだったと思うが」


 敵の猛攻を、後半は盾もなしに生身で受けていたはずだ。

 いくら聖騎士の血清(パラディン・セーラム)を打っているとはいえ、普通なら死んでいてもおかしくないだろ。


「ええ、本当に。でも、シスター・マグダリアの治癒を受けて、溌剌(はつらつ)としていましたよ」

「だから、アイツは本当に人間かって聞いてるんだよっ!?」


 なんなら、僕よりアイツの方が重傷に見えたんだけどな!?


「そんなことよりね、アスタ」

「なんだよ。手当の件なら後でたっぷり礼は言うさ。……ただし、今の僕に払える金はないぞ」

「そっちじゃなくてね。いや、医療費と技術料はきっちり請求するつもりだけど」

「がめついな、伯爵家のくせに!」


 さっきから、オノレの視線が痛い。

 ニヤニヤしている、顔がムカつく。


「ニヤつくな。言いたいことがあるなら、さっさと言え」

「いやあ、実に気が散る光景だと思ってね。アスタ、それ、なに?」


 オノレが、顎でしゃくった先。

 そこには、僕を抱き枕と勘違いしてると思うほど、ぴったりくっついて離れない……リュスがいた。


 僕が目を覚ましてからというもの、彼女は一瞬たりとも離れようとしないのだ。


 いや、まあ。

 僕が気を失っている間に、毒まみれの衣服を処理し、身体を拭いてくれたのもリュスだというから、頭が上がらないのだが……。


 それはそれ、これはこれだろ? でも、だからって、憧れの女性を突き放せるわけもなく……。


「……見ての通りだが? 何か文句あるか」

「いいや? 命懸けで魔人を討伐し、『今日』を掴み取った英雄には、相応しいご褒美じゃないか。羨ましすぎて、涙が出るね」

「棒読みだな。お前、内心ではバカにしてんだろ」


 そこに、空気を読んでいるのかいないのか、

 老執事ゲロハルトが忍び寄って、報告を入れる。


「若様、村の広場にて戦勝祝いの宴の準備が整いましたが……いかがなさいますか?」

「行けるわけないだろ! この、物理的に拘束された状態を見ろッ!」

「しかし、主役不在では締まりませぬぞ。猟兵(シャスール)たちは、すでに全員出席の構えです」

「おい、元気すぎんだろ!? 帰還直後は中毒症状で全員死にかけだったって聞いたぞ!」


 白骨茸の毒は、そんなに生易しくない。

 出来合いの防毒マスクだけで、耐えられるものかよ。


「左様でございます。ですが、オノレ様とシスター・マグダリアの迅速な処置が功を奏したようで。……皆幸せそうでしたな」

「多幸感も、中毒症状だよ! お前、知ってんだろ!」

「ですが、戦勝祝いは、生き残った将兵の権利です」

「それはそうだ(素直)」


 そこを認めなかったら、地方領主は務まらないが――。


「ですから、猟兵(シャスール)らも『たとえ死んでも、祝杯を挙げずに死ねるか!』と、包帯姿で酒樽を担いでおりまして」

「バカの集まりかよ! 別に、今日じゃなくていいだろ!」


 いや、あいつらがバカなのは百も承知だが。

 だから、ヤバマーズの領民は嫌いだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ