第4話 このキノコいけるんじゃないか?(実食タイム)
「おやめください! 白骨茸は恐ろしいキノコだと、証明なさったではないですか!」
「何を言う、お前が食べろと提案したんだぞ。ゲロハルト」
「爺は、提案したわけではございませんぞっ!? 危惧したのです!」
「そんなもの、口に出せば同じことだ。ただでさえ、腹が減っているのに」
初志貫徹。実験を面白がってるのは事実だが、そもそも僕の目標は、食料調達なのだ。
さすがに、そろそろ飢え死にする。魔物肉の克服も課題だが、いったん後回し。
「毒が“水に溶けて、熱で揮発する”なら、水を取り替えて、もう一度、加熱すれば大半は飛ぶに違いない!」
一応、風上に陣取って再加熱。扱う時は、湿らせた布マスクは必須だ。
「……で、また煮汁は全部捨てると」
毒物は取り扱いに困るが……とりあえず、場所を決めて、適当なところに捨てておくか。ばしゃー(雑)
「匂いは相変わらず、香辛料にも似た豊かな香りだ。だが、目に染みる刺激感はなくなったな。よし、いけそう!」
「よし、イケそう……ではありませんぞ! おやめくださいっ!」
しかし、ゲロハルトもろくに食べてないので、力が出ないようだ。邪魔しようにも、若い僕には勝てない。
僕は、ほんの小片をナイフで切り取った。
「心配するなって。いきなり呑み込んだりしないから」
ちろり。まずは舐めてみる、苦みはない。
「ふむ、三十秒経過……異常なし」
次に、咀嚼だけしてみよう。あむ、むぐむぐ。
で、これをすぐに吐き出せば……ごくん。
「旨いなっ! このキノコ、旨いぞ!?」
「食べた!? 今、飲みこみましたよね!?」
「うっかりだ。たまにある」
「あったらダメでしょう! あったら!」
肉厚で、とってもほくほくしている。食感は、マッシュルームと貝の中間くらいか?
ちょっと煮込みすぎたかもしれないが、それでも苦みはなく、旨味成分が感じられる。残る香りも、ナツメグに似てスパイス感があるぞ。
僕は、懐中時計を見た。チクタク、チクタク。
「……五分経過。呼吸正常、視界良好。末梢の痺れなし。心拍、やや上昇。でも、これ久しぶりに旨いものを食べて、興奮してるせいだな」
「毒キノコを食べて、心拍上昇する理由が『旨いから』と説明する人間、初めて見ました」
「まだいける。もう一切れ」
「やめてくださいぃぃ!」
結局、僕は三切れ食べた。空腹には勝てん。
まだ、満腹にはほど遠いけど、なんだか眠くなってきた。欠伸が出る。
「ふぁあ~。あれ?」
「若様っ!?」
「……いや、これは食事をしたせいだな。たぶん」
「たぶん!?」
屋敷に戻って、経過を書きまとめることにした。
とりあえず、野草茶を飲んでおこう。水分をとっておいた方が安心だ。
それから、半日してもなんともなかった。
「勝ったな」
「勝ち負けではありませんぞ」
「いや、勝ちだな。父上の仇を胃袋で討った」
もちろん冗談で言ったのだが、沈痛な面持ちでじっと見つめられてしまった。
その目をやめろ、いや、ホントやめて――やめてくださいっ!
「とりあえず、主毒は揮発性の物質だな。他の毒があったかはわからないが」
「一つのキノコに、複数の毒が入っているですと……?」
「うん、ない訳じゃないな」
「なおさら、なぜ食べたのですか!?」
だって、魔素が含まれているか知りたかったからなあ。苦くないから、たぶんほとんど含まれてないんだよ。
それか残っている魔素が、別の『なにか』に変わってるか、だ。
「予想は、白骨茸は魔素を食べて成長するが、栄養にする過程で別のものに変えてる……とかだな。それが、人間にとっては毒なんだ」
「はた迷惑ですな」
「しかも、調理すると毒ガスをまき散らす。作用は、呼吸器と神経系抑制。……たぶん、量が少ない分には、多幸感もある」
「だから、ご機嫌がよろしいのですか?」
「――はっ!? その可能性は考えてなかった!?」
今、僕って、機嫌が良さそうだったのか。気付いてなかった。
「いずれにしても、このキノコは調理者殺し。あるいは……研究者殺しに、特化していると言わざるを得ない」
「……自然のものにしては、設計思想が悪意に満ちていますな。悪魔のイタズラでしょうか」
「いや、自然は時々、そういうことをする」
そう、別に理由などない。キノコに意思なんてないのだから。
うーん。でも、全然まだ食べ足りないな~。バターでソテーにしたり、オムレツの具にしたいものだ。
「やっぱり、このキノコいけるんじゃないか?」
「それ、父君が、落命なさる前に言ったセリフですぞぉぉぉおっ!?」
「おっと、いけね」
不吉なことを口走ってしまったが、きちんと翌日も目覚めることが出来た。セーフ。




