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ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~  作者: 裃 左右


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38/62

第38話 死と踊る狂騒。貴様の殺意は、僕のもの。(前半)

 陽気な楽園は、死の檻となる。


「――散れッ!」


 回避と同時に、数多の蔓が交差し、僕がいた地面を破砕。


 ズドォォンッ!


 もはや、これは爆撃に等しい。地面に土煙が巻き上がり、タンポポごと地形が消し飛んだ。

 魔人エグレットが振るう蔓は、鋼鉄の鎖を束ねた如き圧倒的な質量を伴い、空気を絶叫させた。


「付け入る隙が、ありませんっ! 攻防一体……まるで意思を持つ嵐です!」

「ぬぅぅうっ! 確かにこれでは、近寄ることすら叶わんぞッ!」


 こちらがどんなに連携を試みようと、綿毛の魔人(エグレット)はすかさず、的確な迎撃を積み重ねてくるのだ。


「やはり、タンポポだ! 僕たちは足元から、動きを見張られているっ!」

「なんと面妖なっ!」


 唸るロダンが、迫りくる蔓を渾身の力で弾き返す。


 ガキィィィィィィィンッ!

 

 するとなんと、植物と衝突したはずの大剣から、火花が散った。


(大剣が衝突して、火花が出るだとっ!? くっ、表皮が結晶化してやがる。ケイ素でも、構成に使ってんのか?)


 しなやかな鞭でありながら、表面強度は超硬質。さきほど突破したゾンビ共とは、比較にならないほど強靭さだ。

 用意した毒も、この表皮も突破しなければ通用しない。


「僕の狩猟刀じゃ、まるで刃が通らんな。柔軟な癖に、どうしてこれほど硬い!? 化け物め、どれだけ強欲な進化を遂げれば気が済むんだ!」

 

 おまけに、奴の『遊び』はただ振り回すだけでは終わらなかった。


「アハハッ、オニーチャン、アソボ! 逃ゲチャ、ダメ、ダヨ?」

「おっとっ!? マジか!?」


 ――ヒュッ、ヒュバババッ!


 蔓の先端が枝分かれし、槍のように鋭く突き出される。

 一発。飛び出す刃に、掠めただけで、肩の布鎧(ギャンベゾン)が紙細工みたいに引き裂かれた。


「アスタ様っ!」

「構うな、リュス。僕はヤバマーズの当主だぞ! いいから、この背中を見ていろ!」


 僕は左手、ウロコの拍動。その導きに従う。


「右、上、三本。死角から一本――来たっ!」


 僕はあえてステップを大きく踏み、そこからバク転。

 派手に立ち回ることで、綿毛の魔人(エグレット)の殺意を独り占めにする。


「そうだ、僕を狙え! 最高の獲物はここにいるぞ、綿毛(エグレット)っ!」

「オニーチャン、踊ッテルノ? アタチモ、踊ルー!」


 魔人が歓喜の声を上げるたび、死の舞踏のテンポはさらに加速。

 だが、僕が『デコイ』の能力を活かし、狙われば狙われるほど――奴の鉄壁の警戒網には、思考の偏り(・・)が生まれるはずだ。


「お前ら、三時方向から奴を叩け! 僕が合わせてやるっ!」


 腰のベルトから、陶器瓶を手に取った。当然、中身は白骨茸の濃縮廃水。


「直接、ぶつけてやりたかったが――割られる前に、ブチ撒けるしかねえ!」


 この猛攻の間隙を縫うのは、常人には不可能だ。

 だが、僕にはヤバマーズ家が代々培ってきた、無駄に素早い身のこなしがあるっ!


「いっけぇええええッ!」


 その極意は、死の境界をなぞり往く、限界曲芸っ!

 ウロコの導きが頼り。迫りくる蔓を足蹴にし、トントンと空中へと飛び上がっていく。


「ナニソレッ!? オニーチャン、ズルイッ!?」

「今だっ!」


 パリンッ!


 すかさず、空中から投げつけた毒液が、タンポポ畑を汚染していく。


 ブシュゥゥゥッ!


 不快な腐食音、巻き起こる毒ガス。愛らしい黄色い花々が、どんどん黒ずみ溶けていく。


「ミエナイ!? タンポポ、枯レチャウッ。アタチノ、オハナガッ」


 魔人の悲鳴。視界(センサー)を奪われた蔓が、戸惑うように空を切る。

 狙い通りだ。監視網の一角を、科学的に焼き払ったことで、必勝の布陣に穴が開いた。


「おおおおおっ! 我が一撃っ、聖王の裁きと思えッ!」


 絶好の機。ロダンが踏み込み、剛腕で大剣を一閃。


「アェッ、イタイィィッ!? ミンナ、ヤメテヨォッ!?」


 綿毛の魔人(エグレット)の本体を守る、蔓のうち三本が根元から豪快に撥ね飛ばされた。

 断面から粘液が噴き出すが、再生する暇は与えない。


「――参りますっ!」


 リュスが、一筋の銀光と化した。

 祓魔女(エクソシスター)の血清によって強化された脚力が、毒霧に沈んだ空白地帯を駆け抜ける。

 空中を浮遊するエグレットまで、あと数メートル。青白い恢復聖剣の刃が、必殺の軌道をなぞる――。


「ダ、メ。オウチ、カエルノ。ジャマシチャ、ダメェッ!!」


 綿毛の魔人(エグレット)裂目(さけめ)が、おぞましくも大きく開いた。

 上空に停滞していた無数の綿毛が、意思を持った弾丸へと変貌。リュスの頭上へと、雪崩のように急降下。


「ドウシテ、コンナ事スルノォォォ!」

「くっ! 綿毛が自在に追尾してくるなんて……ッ!」


 リュスは銀の残像を残し、身を翻す。

 舞うように恢復聖剣を振るい、迫る綿毛を切り払うが、それはあまりに凶悪な二段構えの複合弾幕(・・・・)だった。


 一つは、明確な指向性と殺意を伴って放たれる、高初速の種子弾。


 もう一つは、その連射の合間を縫うように、ゆらりふわりと不規則な軌道で落ちてくる捕食綿毛。


 物理法則を嘲笑うかのような剛と柔の飽和攻撃が、リュスの華麗なる剣術すらも封殺し、じわじわと、確実に、死の包囲網へと追い詰めていく。


 ――白が、リュスを飲みこもうとしていた。

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