表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~  作者: 裃 左右


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/62

第27話 お肉はペットではありません、大学時代の再来

 さて、魔物肉から魔素を分離できるかどうか。


 僕の異能が磁気に似た性質ならば、悪くない案だと思ったのだが――現実は甘くなかった。


「あー! 全っ然、上手くいかないっ!」


 解体台の上に鎮座する青銅鹿(スタチュー)の赤身肉。

 これが、まったくピクリともしない。


「アスタ。君、さっきから肉を撫でてるだけに見えるんだけど。あはは、お肉はペットじゃないよ。知ってた?」


 オノレはあばら屋の柱に身を預け、意地悪く笑う。


「うるさいっ、集中してるんだよ! こう……魔素だけを『ぐいっ』と引き寄せて、外に放り出すイメージで……」

「イメージ、ね。でも、そのお肉。ちっとも様子が変わってないよ」

「うーん。手をかざすと、反応はある……気がするんだけどな。こう、ピリピリ繊細な振動があるっていうか……」

「ふふっ。また、お得意の主観的感覚ってやつだね」


 相変わらず赤身肉は、どんより濁っている。美味しそうとはお世辞にも言えない。


「笑い者にしやがって。えっと、引き抜けないなら、押し出せばいい、とか……?」


 感覚を一点に集中させ、肉の深部に向けて力を流し込む。


 ――ドンッ!


「おっ!? 今、肉が揺れたぞ!」

「うん、揺れたね。……で、手をかざした部分がひしゃげてるけど?」

「ああっ!? やりすぎたのかっ!?」

「生ゴミを、さらにぐちゃぐちゃにする実験なら大成功だね。おめでとう」


 仮説:磁場的な力で、魔物肉の魔素を操作できる。

 結果:出力が雑すぎて、肉がぶっ壊れた。


「クッソ、諦めないぞ! そうだ。塊肉だから、やりにくいだけなんじゃないか?」


 試しに、肉を薄くスライス――失敗。

 ならばと、ミンチ状にする――失敗。

 煮込んでみた。肉が、湯のなかで踊っただけ――失敗。


「はあはあ……。磁石で砂鉄を引き寄せるみたいに、するっと魔素が抜けてくれたら、最高だったのに」

「本当に、アスタは考えが足りないね」

「なんだと!?」

「その例えで考えるなら、生肉にめり込んだ砂鉄を、外から磁石を振るだけで引き抜けると思うのかい?」


 オノレはさらりと、僕が書き溜めていた実験レポートを(めく)る。


「俺は、今までの君の実験を見たよ。わりと、いい線いってると思う」

「酢や灰を使った実験のことか。でも、あれも魔素抜きにはとうてい――」

「そう、確かに酢や灰を使った実験は、組織を破壊しすぎた。でも、重要なポイントがある。これらを使った時、魔素による『苦味』は、わずかでも減っていたはずだ。違うかな?」

「……ああ。多少は除染できていたんだろうな。けど、肉がボロボロになっちゃ意味がないんだよ!」


 僕は、恨めしそうに肉を見た。

 すると、オノレはこう結論を出す。


「そう。魔素は、肉と強く結びついているんだ。なら、まずはその繋がりを緩めて、浮かせる必要があるんじゃないのかな」

「結びつき……」

「今までの君の実験は、基礎研究として成立してるんだよ、アスタ。決して、無駄なんかじゃなかった」


 オノレが取り出したのは、その辺に生えていた三つ葉の形をした小さな草――カタバミだった。


「カタバミ……それ、染み抜きや金属磨きに使うやつじゃないか」

「常識だよね。この草には、シュウ酸が含まれ、金属と強く結びつく性質があるわけだが……大学で、重金属の分離実験に使ったのを覚えているかい?」

「そりゃ、忘れるはずがない……まさか」

「魔素を、本当に金属だと仮定してみよう。目に見えないくらい、小さい粒――金属粒子というやつだ」


 脳内で、バラバラだった知識がパズルのように噛み合っていく。

 魔素を、ふわふわとした曖昧なエネルギーではなく、金属の粒子だと仮定する。


「そうか! いきなり磁気で引き抜こうとしても、結びつきが強い。なら、まずは別の物質をくっつけて、肉から剥がれやすくすればいい」

「いいね、アスタ。頭が動いて来たみたいだ。ついでにこれ(・・)も使いなよ」


 次に出されたのは、泡立ちのよい草の根。サボンソウだ。


「こいつは天然の石鹸じゃないか! 浮かせた魔素を泡で包み、再付着を防ぐ。その状態で僕の異能を使えば……」

「もしかしたら、筋肉繊維から魔素だけを液中へと誘い出せる……かもしれないね」


 オノレは楽しそうに腕をまくり、準備を手伝い始めた。


 ああ、もうっ! こいつ、準備が良すぎるぞ!

 僕から話を聞いた時から、アイディアを隠し持ってやがったな! なんて、人が悪い奴だ!


 大学時代の――数少ない楽しかった思い出が、(よみが)える。

 帰りたい時間に、僕らは今だけは戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ