表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~  作者: 裃 左右


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/62

第18話 王都からの第一号、さっそく一匹釣れちゃった!?

 まず、ハッとしたベテランが、皆に喝を入れた。


「まだ終わってないぞ、怪我人に早く手当てをしろ! 動けるやつは、魔熊にトドメを刺せっ!」


 硬直していた領民たちが、一斉に動き出す。

 死んでいるように見えても、油断はしない。それが辺境に生きるヤバマーズ領民だ。


「うぉりゃぁああっ!」

「せいっ!」


 崩れた棘山熊(エピヌウルス)の腹部へ、次々と槍が突き立てられる。

 ピクリとも反応はない。だが三度、四度と念入りに貫く。


「あわわわわ……」 


 僕が左手の変貌に慌てている間にも、領民たちは手早く、ゴブリンの死骸を麻布で包み運んでいった。

 できる限り、血を大地に吸わせず始末する。事後の片付けこそが、真の重労働だった。


「……終わった、ようだな」


 ロダンが、大剣を支えにしてへたり込む。満身創痍。

 それでも、走り去るグリーンゴブリンたちの姿を、忌々しげに睨んでいる。


「追撃はせんのか。今叩かねば、また戻って来るのではないか」

「あ? 人間の恐ろしさを、同族たちに広めてもらうのさ。で、また忘れたなら、何度でも思い出させてやる」

「……貴公らは、“魔物を討伐”しているわけではないのだな」

「そうだな。僕らは、“害獣を管理”しようとしているんだ。一匹残らず滅ぼす力もなければ、そんな無駄な体力もないからな」


 魔物のいる僻地で生きるとは、英雄になることではない。過酷な環境と、末永く付き合っていくことだから。


「で、ヤバマーズ男爵。その腕は……なんだ?」


 聞かれちゃった!?

 包帯の弾け飛んだ左手。黒曜石に似た光沢のウロコが、はっきりと晒されていた。


「こいつは……その……」


 正体は、僕が一番知りてぇよ。でも、異端認定されて首を()ねられるのはごめんだ。


「ヤバマーズ男爵家に密かに伝わる……秘術の証だな(大嘘)」

「……貴公が魔術師と、聞いた記憶はないが。ふぅ……今日はもういい。追求する気力もわかぬ」


 聖騎士ロダンは担架に乗せられると、大人しく運ばれていった。

 ほっと一息。僕は、泥を払って立ち上がり、リュスの様子を見に行く。


「で、リュス。怪我はないか?」

「……どうして? 本来なら――」

「うん?」


 リュスの昏い瞳は、困惑に染まっていた。


「みんな死ぬはずだったのに」


 ぞわりと、背筋に冷たいものが走る。


「貴方は何者なのですか、アスタ様。……どうして、死の未来が変わったのですか?」

「死の未来が……変わった……?」


 やはり、意味不明なことを言うやつだ。

 元からこう(・・)なのか、それとも戦いのショックで変になったのか。


「旦那様っ! 魔熊の確認をおねげえしますだ!」

「ああ、今行く!」


 領民たちに呼ばれて、歩き出す。

 揺れる暗渠(あんきょ)の瞳。リュスの、絶望の眼差しがどこか気味悪くもあり。それでいて、救いを求める子供のようにも見えて……どうにも後ろ髪が引かれた。



***



 倒した大物の検分もまた、領主の務め。

 こと熊に関して言えば、魔物でなかったとしても必要だ。特に今回は、自分が指揮をして、仕留めた成果だからな。


「この通りですだ。まったく、酷ぇ有様で……」


 ズタボロに焦げた毛皮の棘山熊(エピヌウルス)

 背中は、内側から爆発ではじけ飛び、無惨に裂けている。


「これ、解体できるか?」

「もう、毛皮は使い物になりやせんが……何のためになさるので?」

「いや。まあ……そうだな」


 普通の領主なら、勝利の証として毛皮を飾るなり、はく製にするものだ。

 だが、僕が考えていたのは、研究素材に出来るかどうかで。


(でも、この惨状だと……それすらも怪しいかな)


 そう思って近づいた瞬間だった。


「グルォオオオッ!」

「――ッ!?」


 死んでいたはずの巨躯が、痙攣するように跳ねた。


「コイツ!? まさか槍に耐えてでも、僕を殺すために死んだふりをッ!?」


 あまりにも、執念深い殺意。

 槍で幾度も貫かれ、内側から焼かれたはずの怪物が、怨念だけで巨腕を振るう。


「旦那様っ!!」


 悲鳴が上がる。

 回避は間に合わない。そう直感した。


 ――パチンッ。


 指を鳴らすような小気味よい音が、不釣り合いなほど澄んで響いた。


 直後。

 僕の目の前で、棘山熊(エピヌウルス)の巨腕が、あらぬ方向へとねじ曲がる。


「――え?」


 空を斬る爪。直撃を免れた僕の頬を、鋭い風圧だけが掠めた。

 さらに、何が起きたのか理解するよりも早く、天から“氷の槍”が降り注ぐ。


 ドォォォォォンッ!!


 精密な狙撃。

 それは魔熊の眉間に深々と突き刺さり、脳漿と魔素の残滓をぶちまけ、今度こそ、棘山熊(エピヌウルス)は死んだのだ。


「あはは。さすがに危なすぎでしょ、今の」


 軽薄で、聞き覚えのある笑い声。

 吹き出した脂汗を拭いもせず、僕は振り向いた。


「……お前は、なんでここに?」


 岩の上に、一人の男が立っていた。

 砂埃に塗れた旅装。だが、下に着ている仕立ての良いシャツと、手に握られた銀細工の杖は、彼が高貴な身分であることを雄弁に物語っている。


「やあ、アスタ。君の招待状、受け取ったよ。……『報酬皆無』ってのは、ラプラス伯爵家の三男としては聞き捨てならないけどね」


 男は真っ青な髪をなびかせて、小瓶をシャカシャカと振って見せた。


 ひらりと飛び降りると、僕の方へ歩み寄ってきた。

 整った顔立ち、不遜な微笑み。王都の大学で、僕が数少ない『話が通じる貴族(へんじん)』だと思っていた男。


「……オノレ・ド・ラプラス」

「そうだけど? なんだい、君が呼んだんじゃないか」

「確かに、呼んだ、が」


 手紙は出したけど、コイツが本当に来るとは思わなかった。ましてや、マッケンジー商会の馬車より早く。


「いやぁ、この不毛の地に来るだけでうんざりしてたよ。道中、魔物は出るし、空はずっと灰色のままだし。でもさ――」


 オノレは、小瓶をかざした。

 黒銀の砂粒が、オノレの放った魔術の残光に共鳴し、チリチリと青白く輝いている。


「このサンプルは、最高だ。君の言う通り、名誉も金も吹き飛ぶくらいの『謎』が詰まってる」


 オノレは興奮を隠しきれない様子で、僕の肩をバシバシと叩いた。


「アスタ。これ、いわば“魔素が仮死状態にある”ってことだよね? この扱いづらいエネルギーが、こんなにも安定してるなんて。まったく、どういうカラクリだい?」


 領民たちは、みんな唖然。 

 そう、王都からの一人目のバカは、こんなにも奇妙なタイミングで到着したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ