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【書籍化進行】ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~  作者: 裃 左右
第三章:崩壊寸前、厄ネタだらけの改革劇。

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150/200

第150話 統治者は「ざまあみろ」のためには裁かない。らしくなっちまったな、ご当主様。

 かつて、魔人エグレットが最後を迎えた……広大なタンポポ畑。

 そこには今、不格好な建造物があった。


 ――黄金の冠(クロンヌ・ドール)。


 未だに仮設に過ぎず、壁には隙間さえある。

 だが、それでもヤバマーズを動かす最前線だった。


「はい、そこ! 撹拌(かくはん)のテンポが遅いっす!」


 作業服を着込んだジルが、職人の貌(かお)で吠える。


 彼が監修する生産ラインでは、砕かれた黒銀結晶(クロシュライト)が、ヒマシ油と獣脂の海に沈められていた。


 そう、生産されているのは、黒銀(クロシュ)式スラリー燃料。


「均一な分散が必要なんすよ、適当にやる作業じゃないっす!」


 従業員に起用されたのは、働き場のない難民とヤバマーズの孤児たち。


 皆、マスクをして必死に汗水たらして働いている。

 ここが彼らにとっての新しい生活の場のひとつとなる。


 ……僕は、そんな工房の様子を見に来たのだ。


「よぉ、調子はどうだ。ジル」

「慎重な作業を、ド素人が出来るレベルに落とすのはめんどくさいっすね。手際が悪くてイライラするっす」

「辛口だな。大目に見ろよ、誰だって最初は初めてだ」

「今、正論を聞きたい気分じゃないんっすよ。作業場では怒鳴って怒鳴られるのが当たり前っす」

「……随分、キツいこという奴だな」

「そりゃそうっすよ、甘やかしたら怪我するっす」

「それは、まあ……そうだが」


 中性的な童顔のジルだが、実はけっこう気性が荒い。

 第一印象からは、かけ離れているタイプだろう。


「チッ。本当ならゴーレムにでも、やらせたいくらいなんすけどね。……母体になる精密作業設備がないから作れないっす」

「ドワーフはすぐそうやってめんどくさがる……」

「逆に、創造性の無い仕事に甘んじてるドワーフがいたら、どうかしてると思うっす」


 生まれより、育ちなんだねえ。こいつドワーフじゃない癖に、完全に発想がそっち側なんだよ。

 やりたくない仕事は、すぐ機械にやらせたがるんだもん。


「……アスタ先輩。言っとくけど、この生産、大赤字っすからね?」

「わかってる、わかってるって。……今は、実績作りの段階なんだよ」


 出来上がったばかりの、黒銀(クロシュ)式スラリー燃料のボトル。


 こいつを一瓶作るだけで、材料費に人件費。

 現状のコスト計算では、金貨を溶かして燃料を作っているようなもの。


「最初の取引で、“現物がない”なんて言ったら信用が終わる。しかも、こいつを使ってクラーケンをぶっ倒すからな。どっちにしても数はいるんだよ」

「……売ると言っても、黒銀(クロシュ)式スラリー燃料は単体では使い物にならないっすよ。仕組み上、励起装置が必要っすから」

「まあ、そうだな」

「それこそ魔導技師が必要っす。ヤバマーズにはいないんすか?」

「お前の家を基準にすんな、腕は良くても鍛冶師しかいねえよ」


 燃料は、今は赤字でもいい。

 でも、現実的には装置の方が問題だった。


 ラ・ボアジエ教授に問われた、“現実的な運用障壁となる要求技術の確保”というやつだ。

 簡単に言えば、道具ないと使えないよね、それって言う話。


「じゃあ、どうするんす? 励起装置がなければ、ただのゼリーっすよ」

「そんなもん、決まってんだろ」

「げっ、まさか……!?」

「いや、お前に不眠不休で量産させようとかじゃねえから」


 さすがに無理があるだろ。

 僕は、どんだけひどい先輩だと思われてんだ。


「仕組みをバラすんだよ」

「へ……?」


 口を開けたままのジルに、僕はもう一度言ってやる。


「励起装置の仕組みは――隠すつもりはない」

「はぁああああっ!?」

「うるせえやつだな、みんなの作業の邪魔になるだろうが」


 僕が目論見を説明してやってから、暫くすると。


 やがて、ジルによる励起装置のテストが始まる。


 キィィィィィ――。


 耳を劈くような共鳴音。

 それは檻に閉じ込められたエネルギーが動き出す、新時代の胎動音。



***



 寂れていたはずのヤバマーズの村。

 今では急ごしらえの倉庫が立ち並び、商会の旗がいくつも立ち並ぶ。


 とうとう待ちわびた、獲物(キツネ)たちがやって来たのだ。

 

 契約を交わした商会のキャラバン。

 その数は、当初の予想を遥かに上回る。


 馬車の車輪が泥を跳ね上げて、御者や護衛たちの威勢のいい声が響く。


 そんな列を眺めて、複雑な表情を浮かべていたのは――僕の親族。オコトギ・マッケンジーだった。


「……よう、ご当主様。ずいぶんと賑やかになっちまったな」


 名だたる大商会の、煌びやかで頑丈な荷馬車。

 それに比べれば、地元のマッケンジー商会の荷馬車は使い古され、馬もちょっと貧相。

 格落ち気味なのが否めない。


「ああ、久しぶりだな。オコトギ。……すまないな、無理を言って」

「気にするな。……儂は、あんたの家臣だからな」

「そう言ってくれて有難い」

「……有難い、か」


 オコトギは居心地悪そうに、しきりに髭を撫でている。


「どうした?」

「おめえよう、儂を恨んじゃいないのか?」

「恨む?」

「儂なりの想いはある。だが、動機はどうあれ、黙って割り増して請求を書いてたのは事実だぞ」

「――ああ、その件か」


 そりゃあ、思うところがないわけでもないが。


「……儂が言うのもなんだが。普通、思い切り懲らしめてやりたいとか思うじゃろうが」

「オコトギの立場なら、そうしてやりたいか?」

「ああ? ……クソ、なんて意地の悪い質問だ」

「そうか。で、どうなんだ?」

「どうって言われてもよう……」

「仮の話だ。部下が割り増して請求付けて、マッケンジー商会の金をちょろまかしてたら?」

「……はあ。儂なら、キッチリ落とし前をつけさせるだろうな。命までは取らねえが、儂がスカっとするまで痛い目に遭わすし。……なんなら、その後も気に食わんままだ」


 ため息交じりに、オコトギはこぼす。


(なるほどなあ。……オコトギは、オコトギ自身がそうだから納得いかんか。気持ちはわからんでもないが)


 でも、オコトギに罪悪感はあまりなさそうに見える。

 たぶん、そこまで悪いことをしたとも思ってない。

 どんな態度をしていいかわからん。……そんな感じだ。


(収まりどころが悪くて、モヤモヤするんだろうな)


 だけどさ――。


「お前は、僕の学費を肩代わりした。これまでのヤバマーズ(・・・・・・・・・・)を支えた。その功績はなくならないし、忘れてもいない」


 僕は恩義ではなく、功績という言い方に変えた。


「そして、僕が思うに……自分がスッキリしたいからと、臣下を裁く人間はもはや統治者ではない」


 ただ、“ざまあみろ”と言うためだけに。

 誰かを裁くような人間は、人の上に立つべきじゃないだろ。


「お前には、デカい仕事をくれてやる。失った信用を、これからのヤバマーズ(・・・・・・・・・・)で取り返せ」

「……おめぇ」

「ああ、それと――」

「それと?」

「お前が率いる部下の目の前で、お前のメンツを潰した。あれからさぞかし、やりづらかっただろう」

「あ、ああ……そいつは……まあな」

「――それはこちらの不手際だ、許せ」


 そう告げると、オコトギは目を見開いた。


 リュスがしてくれたことは、嬉しかったし。気分も良かったけれど。

 ……それは、領主として良くないことだと思ったから。


 すると、オコトギの表情が歪んだ。


「……おっかねえ女主人(メトレス)殿に、ケツの毛まで暴かれちまったんだ。もう、身内面してケチな真似はしねえよ」


 初めて、こんな顔のオコトギを見た。

 胸に何かが刺さったような、強烈な痛みを堪えるような顔をしていた。


「なんだかよぉ……本当に、らしくなっちまったんだな。ご当主様。一番効くぜ、それがよ」


 そうして、ひどく寂しそうな顔をして。

 頑固でプライドの高かった僕の親族は……シンと黙り込んだ。

いつも応援ありがとうございます!


「面白かった」「ここが意外だった」といった一言だけでも、作者は画面の前で飛び上がって喜びます。


作品のお気に入り登録や評価も、執筆のガソリンになりますので、ぜひよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
男子3日会わざれば刮目してみよ、でしたかね。アスタ君も色々経験しましたからね、成長を感じるエピソードでした。クラーケンやスラリー燃料拡売による採算回収など課題は沢山ありそうですが、アスタの成長とともに…
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