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ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~  作者: 裃 左右
第二章:破滅迫る、ハッタリ男爵投資劇。 ~“君がためのサキオン”になりたい~

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115/120

第115話 これこそが、我が主の趣味なのです。鉄を溶かす火、終業の判。(前半)

「その身のこなし、青白く輝く人造聖剣……貴様、聖王教会の『祓魔女(エクソシスター)』か」


 鉄仮面のヤンは、警戒の声を上げた。


「いいえ。わたくしはご覧の通り。ヤバマーズの――アスタ様のために働く女使用人(メイド)ですよ」

「抜かせ。なぜ教会の戦術兵器が、地方の小競り合いに介入などする。そのような仮装(リバリー)を着てまで!」


 問いに対して。

 リュスは、凛と答えた。


「これは仮装でも欺瞞でもありません。わたくしは正真正銘、心からヤバマーズに仕える者であり……そして――」


 それは迷いなく。

 どこか深い安堵すら滲ませていて。


「これこそが、我が(あるじ)の趣味なのです」

「ゲホッ、ゴホッ……べ、別に、僕の趣味じゃないぞッ!?」


 そして、あまりに聞き捨てならなかった。

 僕は血が溢れる喉元を押さえながらも、思わずツッコミを入れる。


「そんな破廉恥なオーダーを、出した記憶は断じてない! これっぽっちもないからね!?」


 僕の出血が悪化した。


 リュスはさらに一歩、大きく間合いを詰める。

 対する、鉄仮面のヤンも迎撃の構え。


「――魔剣錬成ッ!」

「浮遊する数多の魔剣を操る、変幻自在の多刀流剣術……といったところですね」


 虚空から、禍々しくも魔剣が次々と生えそろう。

 迸るエネルギー、紫電の稲妻。


 背後、真横、頭上、さらには足元からすらも。

 あらゆる死角を突いて、襲い来る剣の嵐。


 常人であらば、抵抗する間もなく肉片へ変えられるであろう処刑絶技。


 ――だが。


「その剣筋……っ!? 俺の“次の一手”を知っているかのような――」


 ヤンが初めて見せた動揺。

 変幻自在な無数の刃、その軌道は――あまりにも的確に逸らされていた。


「ええ、知りました(・・・)とも」

「なんだと!?」

「わたくし……(ここ)に至る道中、あなたを見つけるまでに随分と費やしてしまいました。……あなたをどう切り伏せるかよりも、そちらの方がよほど大変でしたわ」


 火花を散らし、激突する剣先がどれほど数を増そうとも。


 リュスは、寸土たりとも退かない。

 縦横無尽。剣戟の組曲が、奏で鳴いて拮抗す。


「そうして、今度こそ……わたくしが、あなたを細切れにする番なのです」


 そればかりか。

 リュスの剣は冴えに冴え、さらに加速を増し続けていく。


 鉄仮面ヤンにとっては、初見の戦闘であっても。

 死に戻りなる“回帰の異能”を有すリュスにとっては、なにもかもが既知と成り得る。


 消えた時空の彼方。

 身を切り刻まれた、苦痛、敗北、死。

 屍を積み重ねた、修練の果ての技巧。人の身には為しえぬ剣技。


 しかし、そんな壮絶な背景を知らぬ者から見れば――。


 リュスには、あらゆる初見殺し。奇襲も暗殺術も通用しない。

 ただただ理不尽、不条理の体現。


「――くっ!」


 ヤンは紙一重、首筋を逸らす。

 すると、聖剣が鉄仮面を掠めた。


「……そうか。種はわからんが、俺の技を知る術があるのか」


 ヤンはようやく、情報面において凌駕されたと気付いたようだ。


「魔眼の類か? まあ、いいだろう。しかし、情報の優位は勝利を約束せんぞ」

「……きゃっ!?」


 刃が、リュスの肩口を切り裂く。

 続いて、地面から突き出た魔剣がロングスカートを裂き、白い太腿に鮮烈な朱を走らせた。


「お前の動きは、まるで“何百回”と繰り返したかのように正確だな。だが、人間の域を出ない」

「どう動いても……避けられない攻撃……?」

「ああ、そうだ。関節可動域、筋肉の収縮速度。人間の動きには物理的な限界がある――それこそが術理」

「……術理」

「動きを読む程度の敵ならば、稀にいるんだ。不思議なことにな。だが、それでもなお、読まれた先の、さらに限界を突けば対処可能だ」


 間違いなく、リュスの動きは超人的で、最適化されている。

 でも、ヤンの戦闘経験はさらにそれを上回っている!


 十六もの魔剣に、サーベル剣術。

 達人が繰り出す、そのすべてを躱し続けるなど現実の法則が許さない。


(十字砲火や爆撃と同じだ。このヤンって男は……敵の逃げ道を塞いで、巧みに追い込んでいく)


 超高速の近接戦闘。

 もはや、手を出す隙間すらない。今の僕では、足を引っ張るばかりだ。


「その通り、ですね。人間には限界がありますから。この身一つでは……どうしようもないことばかりです」


 リュスは、さらに鋭く踏み込んだ。


「リュスッ!? やめろっ、やめてくれ!」


 追撃の魔剣が、リュスの肩を、脇腹を、容赦なく肉を削いでいく。


「――ですが、それがどうしました! 無力に打ちひしがれては、ヤバマーズの女にはなれません!」


 頬を刃が掠め、耳たぶが千切れ飛ぶ。

 エプロンの肩紐が断たれ、胸元が赤く染まっていく。


 血飛沫が、まるで紅い花びらのように散った。

 同時に、傷口からは白い蒸気が立ち昇る。


「傷を負うことは、織り込み済みっ! メイドが身を汚すのを恐れるわけにはまいりません」

「『聖騎士の血清(パラディン・セーラム)』の過剰稼働……狂っているな、女」


 傷を負った端から、肉が盛り上がり。

 無理やり塞ぐように、癒着しようとしている。


「再生の熱量で自らを焼く気か、祓魔女(エクソシスター)ッ!」

「わたくしはもう焼かれています、焦がれています、狂っていますっ! だから、これでいいっ! 尊厳(たましい)を傷つけられるよりは、よほどいいっ!」


 リュスの女使用人(メイド)服は、見る影もなく血で汚れていく。

 それでも、暗渠(あんきょ)の瞳には揺らぎはない。


「リュス、もういい! それ以上は――」


 僕は叫ぶ。


 自分が“解釈違い”だと言ったあの女使用人(メイド)服が。

 リュスが、“似合っていると。可愛い”と褒めて欲しい、といった服が。


 今やズタズタに引き裂かれ、血の赤に染まっていく。


 公爵令嬢として、清らかであるべき彼女が。

 僕の紋章色(リバリー)を纏い、傷つきながら戦っている。


「アスタ様。……どうぞ、ご心配なく」


 リュスは柔らかく微笑み。


「指が折れても、腕が折れても――わたくし、心は折りませんの」


 振るわれるサーベルを、魔力の込めた“生身の左腕”で受ける。

 グチャリ、と肉が貫かれる嫌な音。


「自暴自棄か? 自ら刺されるなど――」

「いいえ。今、これから減るのはあなたの腕の方です」


 ――凄絶なる微笑。


 貫かれた腕から溢れる血が、青白い聖剣の刀身を伝い励起。

 『聖騎士の血清(パラディン・セーラム)』を含んだ強血が、なんとサーベルをへし折り砕く。


「ふふ。やっと(・・・)狙った通りに、出来ましたわ」

「――バカなッ!?」


 魔なる剣山に……綻びが生まれた。

いつも応援ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
リュスがアスタを生かすためになりふり構わず戦う姿に心打たれました。アスタくんは幸せものですね。 しかしリュスが新たな能力を開眼させるとは、何度も死に戻りを繰り返すことで、経験値が活かされたのでしょうか…
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