第11話 魔物鍋、爆ぜる(気軽に混ぜたらアカン)
「いよっしゃぁあああっ、面倒な客はマグダリアに任せて、肉食うぞぉぉぉおっ!!!」
まず、気合一発。目指せ、魔物肉の食用化っ!
聖騎士ロダンが来たあとで、研究するのもアレなんだが、切羽詰まってるので、やらざるを得ない。
「でも、もうアイデア尽きてんだよな。ぶっちゃけ」
塩も、お酢も、アルコールも試した。
で、一番、可能性がありそうなのは、灰を使うアプローチだったから、より工程に丁寧に取り組んでみることにした。
「もぐもぐ。ぺっ、まだ苦い。これも失敗だな。しかも、食感がひどい」
さすがに学習した。
苦みを感じた時は、我慢してまで飲み込んだらアカンわ。おなか壊すもん。そんなことしてたら、そのうち魔物になっちゃうだろ。これ(今さら)
「でも、やっぱ無理か。丁寧に処理しようとすればするほど、肉がひどいことになるぞ」
頑張れば頑張るほど、魔物肉がさ。なぜか灰で処理すると、どんどん黒ずんでゲル状になるんだよ。
こんなの、洗っても食えねえよ。臭いまで悪化するし。アンモニア臭がひどすぎる。
「なんらかの変化は、確実に起きてんだけどなー。このアプローチじゃ、食用化は無理なのか? ……でも、なぜ灰に漬け込んだだけで、肉がこうなる?」
実は、適量な灰に漬け込んだり、まぶすのも食肉保存方法の一種だ。
アルカリ成分が、硬い野生肉を柔らかくしつつも、腐敗を防いでくれる。脱水も兼ねるしな。
「魔物肉は、普通の肉と根本的に違う可能性? ……だとすると、魔素って結局なんだろう」
大気中に存在するエネルギーだとされているが、これが動植物にどう取り込まれて、内部でどんな働きをするかは、まったくわからない。
「……気体? 液体? 固体? それとも、それ以外の何か? ああっ、エネルギーが空間に満ちているという概念が、そもそもわからんっ!」
手詰まりだ。
現状、手持ちで打てる手がほとんどない。どこぞの大学並みの設備が、あれば話は別だが。
「くっそ、設備も薬品も人材も足りねえ。……誰か呼びてぇなあ」
王都で勉強してた頃は良かったなー。あまり金はなかったけど、好きなことやれたし。
「あの頃も、お腹も空かせてたけど、泣きつけば誰かはメシを食わせてくれたし」
仕方がないので、またマスクを装着。野外で白骨茸を煮炊きし始める。
気分転換に、食事をするのは悪くない手だ。
「また、廃水出ちゃうんだよなあ。いや、毒抜き処理って結局はそういうことなんだけど」
今まさに、ホクホクのキノコを食べたいがために、毒ガスをまき散らす悪徳領主。頼む、それでも異端扱いはやめてくれ。
大量に出た煮汁を眺め、なんとも言えない気分になる。
「はあ。これ、捨てるなら、森の中がいいのかなあ」
森で生まれてるキノコなのだから、森に捨てる分には、調和を乱さないんじゃないか。と、思わなくもない。
(……どうせ、なにかが分解してくれるんじゃね?)
で、そこでふと思った。これ、なにかに使えない? 例えば……。
「この猛毒キノコスープに、魔物肉漬けたらどうなんの?」
いや、なにも起こらないかもしれない。
キノコが魔素を、別の何かに変えているのだととしても、煮汁にその効果が移るとは考えにくい。
「でも、やるだけやるのは、タダか?」
万策尽きてる現状、あるものを全部試してナンボである。
しかも、ちょうど大量にあったのは、捨てる予定の臓物に血液。バケツにいっぱいあるこれは、どうせすぐに腐る。
「仮説では、血液も臓物も、魔素が濃くてどう足掻いても食べられない部位なんだよな。……魔素が、体内を循環する仕組みなら、だけど」
だから、何も深く考えず。
本当に深く考えずに、臓物入りバケツを持ってきて、ドボドボ流し込んだ。
「ほらよっ、と」
――変化は劇的だった。
まず、臓物の表面から、微細な気泡が爆発的に噴き出た。まるで血肉そのものが、沸騰しているみたいだった。
「はあっ?!」
流し込んだ血液は、すぐさま茶褐色に変色。ツンとする、刺激臭を放ちながら、臓物は煮えたぎる。
火に掛けていないはずの鍋から、絶えず生まれ始める蒸気は、モクモクと天へと昇っていく。
なんらかの化学変化で、熱量が生まれているのは明白だった。
「あわわわわ!? なにかやっちまった!?!?」
すると、そこに女の声。
「あの、アスタ様。やはり、お尋ねしたいことがございまして――え、これはなにが起きているのですかっ!?」
なんと、運悪くこのタイミングでやってきたのは……いなくなったはずの祓魔女リュス。
「ばっか! なんで、ここに来てんだよ!?」
「きゃっ?!」
――反射的だった。
異端認定とか、そういう話は頭から飛んでいた。顔まで隠したこの女に飛びかかり……口元に、袖をあてがって抑え込む。
「気軽に実験場に踏み込んで来るんじゃねえっ! 死にたいのか、バカ野郎が! 絶対に息をするなっ!」
そのまま女を引きずり込んで、風上へと避難させた。
鍋から立ち上る蒸気。鍋から、破裂音まで聞こえてきた。身体がガクガク震える。
――なんなんだ、どんな変化が起きてる? この現象の正体はなんだ?!
僕は事態が収まるまで、じっと息を殺し。恐怖と……ワクワクに打ち震えながら、リュスを抱きかかえていた。
そう、ワクワクしていた。行き詰っていたなにかに、変化が起きていた。




