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プールサイドサイコロジー  作者: 双鶴


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9/10

9話

浅田哲也視点


文化祭本番


 文化祭当日の校舎は、朝からざわめきに包まれていた。

 模擬店の呼び込みの声が重なり、焼きそばの匂いが風に乗って漂う。舞台からは太鼓の音が響き、色とりどりの飾りが揺れていた。校庭はまるで祭りの広場のように熱気に満ちていた。

 人の波が押し寄せ、笑い声が途切れることなく続く。提灯の赤い紙が風に揺れ、影が長く伸びていく。その光景は、胸の奥のざわめきを映しているようだった。


---


 俺は模擬店の手伝いをしながらも、視線は無意識に美代子を探していた。

 ――今日こそ、伝える。

 そう誓ったはずなのに、彼女は仲間と笑い合っていて、近づくタイミングを失っていた。

 胸がざわつき、タオルを握る手に力が入る。


「浅田、もっと声出して!」

 仲間に促され、笑顔を作った。

 けれど、目は泳ぎ、足が止まってしまった。

 呼吸を整えるふりをしても、心臓の音は隠せなかった。

 ――どうして声をかけられないんだ。俺は何を怖がっている?


 焼きそばの匂いが強くなり、汗が額を伝う。声を張り上げても、心の奥では別の声が響いていた。

 ――彼女の笑顔は俺に向けられたものじゃない。そう思うだけで胸が痛む。


---


 昼下がり、舞台発表の準備で廊下を歩いていると、ふと美代子と視線が重なった。

 ほんの一瞬なのに、永遠に伸びていく。

 胸が熱くなり、喉が乾いて声が出ない。

 彼女が視線を外した刹那は、あまりにも短く、冷たく消えた。

 その感覚が胸の奥に沈殿する。


 ――やっぱり、俺のことなんて見ていないのかもしれない。

 確かな根拠はないくせに、そう見えてしまう。

 気持ちだけが固まっていくのを止められなかった。

 彼女の瞳に映った自分の姿を、ほんの一秒なのに何度も反芻してしまう。

 時間が伸びていく錯覚に包まれ、逆に視線が外れた瞬間は刹那で消えた。


---


 夕方、校庭の提灯が灯り始める。

 祭りのざわめきの中で、再び彼女の姿を見つけた。

 紙花が風に揺れ、その儚さが今の俺の心を映していた。

 提灯の灯りが風に揺れる。その揺れは、俺の決意の不安定さを映しているようだった。


 ――次こそ、もう逃げない。

 タオルを握りしめ、息を整えるふりをしてから、前へ出る一歩を選ぶ。


 光に照らされた彼女の横顔が、胸の奥で永遠に焼きついていた。


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