8話
大谷美代子視点
文化祭準備
放課後の教室は、文化祭の準備で熱気に包まれていた。
段ボールを切る音がリズムのように響き、絵の具の匂いが空気に混じり、笑い声が重なっては消えていく。
窓から差し込む夕陽がガラスに反射し、赤い光が机の上の紙を染めていた。
折った紙花の端が破れてしまい、その脆さが、彼との距離の不安定さに重なった。
沈みかける夕陽の揺れは、私の心の揺れそのものだった。
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最初は期待で胸が膨らんだ。
――今日は近づけるかもしれない。
けれど、視線の先で浅田くんが別の女子と真剣に作業している姿を見て、胸がざわついた。
誤解が忍び込み、痛みに変わる。
唇を噛みしめ、紙花を強く握った。
笑顔を作りながら机を指で叩いていた。
呼吸を整えるふりをしても、心臓の音は隠せなかった。
視線を逸らしたはずなのに、彼の姿が視界の端から離れなかった。
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「美代子、こっち手伝って!」
友達に呼ばれて、私は慌てて笑顔を作った。
けれど、指先は震えていた。
髪を耳にかける仕草で誤魔化し、タオルを強く握った。
それでも胸の奥では痛みがじわじわと広がり続けていた。
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ふと、浅田くんと視線が重なった。
ほんの一瞬だったけれど、永遠に続くように感じた。
胸が熱くなり、喉が乾いて声が出ない。
一瞬が永遠に伸びて、逆に彼が視線を外した刹那は、あまりにも短く消えてしまった。
その冷たさは、紙花を片付ける時まで胸に残り続けた。
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「ねえ美代子、浅田くんと一緒にやればいいのに」
「ち、違うよ……ただの部員仲間だから」
「ふーん、そういうことにしておくね」
「だから本当に違うってば……」
「でも顔、赤いよ?」
「……これは夕陽のせい」
友達のからかいに慌てて否定する。
でも、声が震えていたのは、彼の視線を意識していたからだ。
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夕陽が沈みかけ、教室の影が長く伸びていた。
紙花を折る手を止め、私は心の中で誓った。
――次こそ、彼に近づく。誤解なんて怖くない。
文化祭の準備のざわめきが、決意のリズムのように響いていた。




