7話
浅田哲也視点
放課後の練習
放課後のプールは、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。
水面に反射する夕陽が赤く揺れ、塩素の匂いが少し強く漂っている。
水をかく音だけが響き、仲間たちの息づかいが重なっていた。
沈みかける夕陽が水面に揺れていた。その揺れは、俺の心の不安定さを映しているようだった。
同時に、その光は終わりを告げるようであり、新しい始まりを予感させるようでもあった。
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最初は期待で胸が膨らんだ。
――美代子に特別だと思わせたい。
その気持ちが強すぎて、自然に振る舞えない。
フォームを意識しすぎて、腕の動きがぎこちなくなる。
焦りが泳ぎに滲み、思うように進まない。
「浅田、肩に力入りすぎだぞ」
コーチの声が飛ぶ。
俺は返事をしながら、心の中で苦笑した。
――俺は何をしているんだ。こんな泳ぎじゃ、彼女に伝わるはずがない。
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練習の合間、美代子の笑い声が聞こえた。
振り返ると、彼女が別の男子選手と楽しそうに話している。
その笑顔が、胸に突き刺さる。
――俺には興味がないのか。
胸が締めつけられて、タオルで顔を拭うふりをした。
けれど、震える指先は隠せなかった。
呼吸を整えるふりをしてタオルを強く握ったが、手の震えは止まらない。
拳を握りしめて水面を見つめたが、視線は何度も彼女の方へ逸れてしまった。
笑顔を隠したはずなのに、胸の奥では痛みがじわじわと広がり続けていた。
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練習が終わり、プールサイドでタオルを肩にかけていると、美代子が近づいてきた。
「今日の泳ぎ、安心したよ。やっぱり浅田くんがいると心強い」
その言葉に、胸が跳ねた。
喉が乾いて声が出ない。
呼吸が浅くなり、鼓動が耳の奥で鳴り響く。
ほんの一瞬なのに、永遠に続くように感じた。
逆に、彼女が視線を外した瞬間は、刹那で消えてしまった。
時間が伸び縮みする錯覚に包まれ、彼女の視線の残像が瞼の裏に焼きついた。
――俺には興味がないと思ったのに。
その矛盾が、心臓をさらに揺らす。
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夕陽が沈みかけ、プールの水面が金色に染まっていた。
俺はタオルを握りしめながら、心の中で誓った。
――次こそ、彼女に自分の想いを伝える。
水滴が落ちる音が、決意のリズムのように響いていた。




