4話
大谷美代子視点
夏合宿の花火大会の夜
砂浜に並んだ部員たちの笑い声が、波の音に混じって響いていた。
潮風に火薬の匂いが重なり、浴衣の裾が砂に触れてしゃりっと音を立てる。
夜空に打ち上げ花火が広がるたび、歓声が弾けて、夏の夜が鮮やかに染まっていく。
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私は友達と並んで手持ち花火を楽しんでいた。
火花がぱちぱちと散り、指先に熱が伝わる。
その瞬間、火花が大きく弾けて、思わず声を上げてしまった。
すると、すぐに浅田くんが駆け寄ってきて、私の手を支えてくれた。
「大丈夫か?」
驚いて目を丸くした私に、彼は真剣な顔を向けていた。
ほんの数秒だったけれど、彼の手に支えられている時間が永遠に続くように感じた。
花火の音も波の音も消えて、二人だけの世界になったようだった。
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――駆け寄ってくれた瞬間は、私だけを見てくれていると思った。
でも、すぐに友達の輪へ戻ってしまう姿に、胸が少し痛んだ。
期待と不安が交互に押し寄せて、心臓が落ち着かない。
胸が熱くなり、指先までじんわりと痺れるような感覚が広がった。
友達に悟られないように笑顔を作ったけれど、鼓動は隠せなかった。
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「ねえ美代子、浅田くんすぐ来てくれたじゃん。やっぱり気にしてるんじゃない?」
「ち、違うよ……ただの部員仲間だって」
友達のからかいに慌てて否定した。
でも、心臓の速さは嘘をつけない。
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――わざと距離を置いて、私を焦らせているんじゃない?
そう思うと、彼の笑顔さえ作戦に見えてしまう。
もしそうなら、浅田くんはずるい。
でも、そのずるさに気づいてしまった自分の心臓は、もっと速く打ち始めていた。
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打ち上げ花火が夜空に広がり、色とりどりの光が私の視界を染める。
友達の笑い声に紛れて、私は小さく息を吐いた。
――私だって、浅田くんを好きにさせたい。
でも、彼が仕掛けてくるなら……負けない。
花火の残光が消えるたび、胸の奥で新しい決意が灯っていくのを感じた。




