3話
浅田哲也視点
夏合宿の花火大会
夏合宿の夜。海辺の砂浜に部員たちが集まり、手持ち花火や打ち上げ花火を楽しんでいた。
潮風に混じって火薬の匂いが漂い、砂浜の足元は少し湿って冷たく、歩くたびにしゃりっと音を立てる。
打ち上げ花火の轟音が胸に響き、手持ち花火の火花がぱちぱちと散る。
浴衣の裾が砂に触れて揺れる音、波の音が絶え間なく寄せては返し、夏の夜らしいざわめきが広がっていた。
---
俺は少し離れた場所からその光景を眺めていた。
――ここで美代子を守れば、きっと惚れてくれるはずだ。
俺がさりげなく支えれば「頼れる」と思うはず。
……でも、わざとらしくならないように自然に振る舞わなきゃ。
頭では冷静に計算しているのに、心臓の音が邪魔をして落ち着けない。
作戦めいたことを必死に組み立てながら、タイミングをうかがっていた。
---
「浅田、こっち来いよ!」
友人たちが声をかける。俺は笑って手を振りながら、美代子の姿を探した。
浴衣の袖が揺れて、花火の光に照らされる横顔がいつもより大人っぽく見える。
髪をまとめたうなじがちらりと見えて、思わず目を逸らした。
その仕草ひとつで胸が跳ねるのを抑えられなかった。
---
その瞬間、火花がぱっと散って、美代子が少し驚いたように声を上げた。
俺はすぐに駆け寄り、彼女の手を支えた。
「大丈夫か?」
美代子は目を丸くして俺を見た。
「うん……ちょっとびっくりしただけ」
笑顔を作っているけれど、頬がほんのり赤い。
俺は心臓が跳ねるのを感じながら、彼女の手を離した。
ほんの数秒なのに、彼女の手を支えていた時間が永遠に続くように感じた。
花火の音も波の音も消えて、二人だけの世界になったようだった。
その一瞬が、俺にとっては夏合宿のすべてを決める瞬間に思えた。
---
――これで「頼れる」って思ってくれたはず。
俺はそう信じた。
けれど、彼女はすぐに友達の輪へ戻ってしまった。
俺の胸の高鳴りだけが取り残され、砂浜の上で立ち尽くす。
---
打ち上げ花火が夜空に広がり、歓声が響く。
色とりどりの光が空を染める中、俺はその音に紛れて心の中でつぶやいた。
――次こそ、ちゃんと惚れさせる。




