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プールサイドサイコロジー  作者: 双鶴


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3/10

3話

浅田哲也視点


夏合宿の花火大会


 夏合宿の夜。海辺の砂浜に部員たちが集まり、手持ち花火や打ち上げ花火を楽しんでいた。


 潮風に混じって火薬の匂いが漂い、砂浜の足元は少し湿って冷たく、歩くたびにしゃりっと音を立てる。

 打ち上げ花火の轟音が胸に響き、手持ち花火の火花がぱちぱちと散る。

 浴衣の裾が砂に触れて揺れる音、波の音が絶え間なく寄せては返し、夏の夜らしいざわめきが広がっていた。


---


 俺は少し離れた場所からその光景を眺めていた。


 ――ここで美代子を守れば、きっと惚れてくれるはずだ。

 俺がさりげなく支えれば「頼れる」と思うはず。


 ……でも、わざとらしくならないように自然に振る舞わなきゃ。

 頭では冷静に計算しているのに、心臓の音が邪魔をして落ち着けない。

 作戦めいたことを必死に組み立てながら、タイミングをうかがっていた。


---


「浅田、こっち来いよ!」

 友人たちが声をかける。俺は笑って手を振りながら、美代子の姿を探した。


 浴衣の袖が揺れて、花火の光に照らされる横顔がいつもより大人っぽく見える。

 髪をまとめたうなじがちらりと見えて、思わず目を逸らした。

 その仕草ひとつで胸が跳ねるのを抑えられなかった。


---


 その瞬間、火花がぱっと散って、美代子が少し驚いたように声を上げた。


 俺はすぐに駆け寄り、彼女の手を支えた。

「大丈夫か?」


 美代子は目を丸くして俺を見た。

「うん……ちょっとびっくりしただけ」


 笑顔を作っているけれど、頬がほんのり赤い。

 俺は心臓が跳ねるのを感じながら、彼女の手を離した。


 ほんの数秒なのに、彼女の手を支えていた時間が永遠に続くように感じた。

 花火の音も波の音も消えて、二人だけの世界になったようだった。

 その一瞬が、俺にとっては夏合宿のすべてを決める瞬間に思えた。


---


 ――これで「頼れる」って思ってくれたはず。


 俺はそう信じた。

 けれど、彼女はすぐに友達の輪へ戻ってしまった。


 俺の胸の高鳴りだけが取り残され、砂浜の上で立ち尽くす。


---


 打ち上げ花火が夜空に広がり、歓声が響く。

 色とりどりの光が空を染める中、俺はその音に紛れて心の中でつぶやいた。


 ――次こそ、ちゃんと惚れさせる。

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