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プールサイドサイコロジー  作者: 双鶴


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1話

浅田哲也視点


放課後のプールサイド


 浅田哲也、高校1年。水泳部では中距離自由形を得意としている。真面目で練習熱心だが、少し不器用で、仲間からは「真面目すぎ」とからかわれることもある。そんな彼には、誰にも言えない秘密があった――同じクラスで同じ水泳部の大谷美代子に、どうしようもなく惹かれていることだ。


 大谷美代子、高校1年。背泳ぎのフォームが美しく、部内でも「見惚れるくらい綺麗」と評判だ。明るくて面倒見がよく、女子部員からも男子部員からも信頼されている。本人は自然体のつもりでも、プールサイドに立つだけで周囲の視線を集めてしまう。哲也にとっては、ただ隣にいるだけで心臓が跳ねる存在だった。


---


「おい浅田、ターン甘いぞ!」

コーチの声が響く。水面を切って泳ぎ終えた俺は、息を切らしながらプールサイドに上がった。塩素の匂いがほんのり漂い、夕陽が水面に反射して目に痛いほど眩しい。隣のレーンから飛んできた水滴が頬に当たり、仲間たちの笑い声がプールの壁に反響して少し遠くから聞こえる。


「はいはい、次交代!」

友人の佐藤が肩を叩いてプールに飛び込む。俺はタオルを探して辺りを見回した。すると――。


「……あの、これ使う? 浅田くん」

美代子が、白いタオルを差し出してきた。濡れた髪を後ろでまとめて、頬にまだ水滴を残したまま。夕陽が差し込んで、彼女の横顔がきらっと光った。


「……あ、ありがと」

俺は受け取りながら、思わず視線を逸らした。喉が乾いたように声が出にくく、タオルを握る手が少し震える。


美代子は小さく笑って、ほんのり頬を赤らめる。

「たいしたことじゃないよ……浅田くんが困ってるの見えたから、つい」

その言葉に、俺は一瞬だけ目を合わせてしまった。ほんの数秒なのに、視線が絡んだ時間がやけに長く感じる。呼吸が乱れて、胸の奥で心臓が暴れている。


周りでは部員たちが「次リレーだぞー!」「浅田、アンカー頼んだぞ!」「負けたらジュース奢りな!」と軽口を飛ばしている。笑い声と水音の中で、俺だけが妙に静かな世界に取り残されたようだった。


――俺は彼女を好きにさせたい。

でも、自分の気持ちを悟られてはいけない。

彼女が俺に惚れて、告白してくる。それが理想だ。


「浅田くん、明日のリレー……アンカーお願いされてたよね?」

美代子が少し首をかしげながら言う。


「マジかよ……プレッシャー半端ないな」

俺は笑って返したが、心の中では別のことを考えていた。リレーで彼女をフォローすれば、きっと「浅田は頼れる」と思うだろう。そうすれば、少しずつ俺に惹かれていくはずだ。


会話の後、ほんの数秒の沈黙が続いた。何か言わなきゃと思うのに、言葉が喉の奥で止まってしまう。心臓の音だけが大きく聞こえるようで、俺はタオルで顔を隠すふりをした。


プールサイドに響く仲間たちの声。夕陽に照らされた美代子の横顔。

そのすべてが、俺の胸をざわつかせていた。


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