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『兵装同調機構レゾナンス~神の穴~』  作者: 異原 世界
第0話

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3/4

3、「こんな気持ち言えるわけない」


もぐもぐもぐもぐ――。

かれこれ一時間ほど、雫の隣から咀嚼音が鳴り続 けていた。

屋台の明かりが彼女の頬を照らし、ふくらんだその輪郭がまるで祭りの灯に溶け込んでいるようだ   った。


「美味しいよ(ほひひひほ)!」


両手にはだんごを二本ずつ。

口には、さっきまで持っていた二本分がすでに詰め込まれている。

まるでハムスター。

いや、本人は真剣に食べているのだ。


「分かったから落ち着いて食べろよ。喉つまらす

 ぞ」


雫は苦笑しながら財布に目を落とす。


(……一年分のお金が。祭りってこんなにぼったな

 のか)


財布の中はほぼ空。

祭りの通貨チップが点滅しながら残高を知らせてくる。

その無情な光を見て、雫は遠い目になった。


(ひふふ)~! あれ見て(はへひへ)!」


レナの指差す方向を見れば、そこには光沢のある 

パネル看板に照らされた簪屋があった。

壁一面に、淡く光る簪がずらりと並んでいる。

まるで星を飾り立てたみたいに、一本一本が違う色を放っていて、私が一番と言わんばかりに全てが特別に見える。


「ひへ(きれい)……!」

「ほんとだな」


祭りの喧騒がその瞬間だけ遠のく。

レナの瞳が、簪の光を映して揺れている。

その無邪気な横顔を見て、雫はふと、少しだけ柔らかい気持ちになった。


「おう、そこのお子さま夫婦! なんか買ってくか

 い? 買ってくよな?」


突然声をかけてきたのは、屋台の店主――いや、

もはや屋台というより、移動式戦車のような巨大なカウンターの向こう側に立つ大柄なおっちゃんだった。

腕は丸太みたいに太く、髭にはなぜか簪が何本も刺さっている。


(簪ってそうやって使うのか……髪に挿すもんじゃ

 なかったのか)


「あってるよ! 髪にするものだからね! し・

 ず・く!」


「心の声を読んだのか!?」


おっちゃんは腹を抱えて笑う。

笑うたびに、髭に刺さった簪がカラカラと鳴る。


「ははは! 面白いやつらだな!」


 

「「あなたがね!!」」


声がぴったり重なった。

思わず二人で顔を見合わせて、照れくさそうに笑う。

おっちゃんは手を叩きながら、ニヤリと口角を上げた。


「もう十分イチャイチャ見せてもらったからよ。ほ

 ら、どれにする? お嬢ちゃん」


店主の笑い混じりの声が、提灯の光と一緒にふたりの頭上に響く。

レナは真剣な顔で簪の列を見つめていた。

棚には、淡く光る花のような簪が整然と並んでいる。

色も形も、一本ごとに違う。

光がゆらめき、彼女の頬に淡い影を落とした。


まるで、選ばれるのを待つ宝石たち。


「どうしようかなぁ、雫~!」


レナが腕を組みながら悩む。

どれも捨てがたく、指先が落ち着かない。

雫は隣で腕を組み、うーんと唸った。


「そうだな……種類、多すぎて逆に選べないな」


考えてるとふと商品の前のプレートに目をやる


「これ全部名前があるんですか?」

「そうだ!」


店主が胸を張る。


「俺は花言葉が好きでな! 全部、花の名前だ!」


「花言葉……」


レナが呟いた瞬間、なにかを思いついたように顔を上げた。

瞳がぱっと光る。


「ねぇ、雫」

「ん?」

「雫が選んでよ!」


「え、俺が?」

「うん。雫のセンスに任せる!」


「いや、俺こういうのあんまり得意じゃない

 し……」

「いいから! 早く!」


圧がすごい。

レナの顔が近い。

そしてなぜか店主も同じ圧で覗き込んでくる。


「客の真剣な選び方ってのを見るのも職人の楽しみ

 でな」

「……そうですか」


雫は完全に包囲され、汗をぬぐいながら棚を見回す。

色とりどりの簪。赤、青、紫、透明……どれも綺麗だが、どれもしっくりこない。

焦る気持ちが指先に出る。


(どうしよう……)


すると、ふと視界の隅に、一つだけ目に止まる簪があった。

淡い白に、うっすら青の縁取り。

静かで、派手さはないけれど、不思議と惹かれる。


「……これ、かな」

雫が指を伸ばす。


「これ?」

レナが顔を近づけ、名札を読む。


そこには――“レイナ”と書かれていた。


「雫、まさか……」

「……え、いや、ちが、ちがう! 別にレナの名前

 に似てるとか、そういう意図じゃなくてだな!」


「へぇ~? そういうこと言うんだ~?」

レナの眉がぐいっと上がる。


「言ってねぇよ!!」

「そうやって、適当に選んだんでしょ!? “なんか

 それっぽいからこれでいいや”って思ったでし

 ょ!」

「思ってねぇって! お前が急かすから焦っ

 て……!」

「焦って人の名前っぽいの選ぶ!?」

「仕方ないだろ!」

「やっぱり名前で選んだんじゃん!」


言い合いは次第にヒートアップしていく。

レナは腕を組み、頬を膨らませる。

雫は頭を抱えて天を仰ぐ。


「俺、もう二度と選ばねぇ……」

「いいよ、どうせセンスないし!」

「あるわ!」

「ない!」

「ある!」

「この鈍感!」

「鈍感ってなんだよ!!」


祭りのざわめきがふたりの言い争いを包み込む。

浮遊する提灯が、二人の上でくるくると回っていた。

周囲の客が笑いながら見ている。

その中のひとり、子どもの声が響いた。


「ねぇ、ママー! あの人達、なかわるいー!」


その一言に、時間が止まった。

周りの大人たちがくすくすと笑う。

レナが真っ赤な顔で俯き、雫も耳まで赤くなる。


「……ち、ちがうからな」

「ち、ちがうからね!」

見事にハモる。


店主は肩を揺らして笑い、静かに簪を手に取った。

その瞳には、どこか光が宿っている。


「――なかなか良いのを選ぶじゃないか」


短く、それだけ言うと、彼はそっと包みを差し出した。

雫とレナは顔を見合わせ、何も言えずに受け取る。

レナがそっとその簪を見つめる。

光が反射して、彼女の瞳の奥で揺れた。


祭りの音楽が再び流れ出す。

さっきまでの喧嘩が嘘のように、夜風が少しだけ優しく吹いた。



---



雫とレナは並んで歩いていた。

買った簪は、小さな包みに丁寧にくるまれて、レ

ナの両手の中に収まっている。

包みの端から漏れる光が、かすかに彼女の指先を

照らしていた。


「そうだ、花言葉……なんだったんだろ」


雫が何気なく呟く。

レナは小さく瞬きをして、少しだけ首を傾げた。


「ほんとだ! 調べてみるね」


そう言って、彼女は端末を取り出す。

画面の光が夜の暗がりの中でレナの顔を照らした。

その光が頬に淡く反射して、瞳の中に細い光の筋

を作る。


数秒、指が画面をなぞる音。

雫はなんとなく足を止め、レナの様子を見つめた。


「どうだった?」

 返事がない。

「レナ?」


レナは画面を見たまま、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

まぶたが震え、唇がかすかに動く。

その小さな仕草の中に、なにかを隠すような気配があった。


「え、ああ……永久の友情、だって」


微笑んだが、その笑みはどこかぎこちなかった。

声のトーンもいつもより少し低い。


「そっか。大事にしろよ」


雫は何も疑わずに言って、軽く笑う。

その素直な言葉が、レナの胸に静かに刺さった。


「うん……」

レナは小さく頷いた。


視線は端末の光に向いたまま。

画面の中には――『レイナ 永遠の愛』

と文字が浮かんでいる。


彼女は親指で画面をそっと閉じた。

その瞬間、心臓がどくんと音を立てる。

なにかを抱きしめるように、包みを胸にぎゅっと    押し当てた。


 (こんなの雫には見せられない。永遠の愛だなんて

 ……そんなの言えないよ)


「俺にも見せてくれよ」


雫が首を伸ばして覗き込もうとする。


「だめ!」

レナは慌てて端末を背中に隠す。

「花言葉はね、くれた人は見ちゃいけないんだ

 よ!」


「へぇ、そうなのか。知らなかったな」

雫は苦笑して肩をすくめた。


「……そろそろ行こっか」

雫は振り向いて歩き出す。


レナはその場で少しだけうつむいて、

笑うでもなく、泣くでもない顔で小さく呟いた。


「……」


「なにか言った?」

「別に」


レナは顔を上げて笑った。

その笑みは、夜の光に溶けて柔らかく揺れていた。

けれど瞳の奥では、ほんの少しだけ、光が滲んでいた。


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