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『兵装同調機構レゾナンス~神の穴~』  作者: 異原 世界
第0話

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2/4

2、「私の気持ちを分かってよ」

都市の喧騒から離れた郊外の商店街は、古びた看 板と錆びついたシャッターが並び、どこか時間が止まったような雰囲気を漂わせていた。

アスファルトの割れ目には雑草が生え、上空には 無数の電線が絡み合う。

風が吹くたび、垂れ下がった看板がカタカタと音を立てる。


そんな中を、二人の少年少女が歩いていた。

しずくは灰色のパーカーのフードを深くか ぶり、

レナは少し丈の長いコートの裾をひらひらと揺ら

しながら、視線を忙しなく動かしている。


二人とも、足取りは軽く見えて、実のところは警

戒心の塊だ。

ここ最近、この辺りでは盗みが頻発し、街全体がぴりぴりしている。

二人が盗みを働くからだ。



---



「……どう?」


雫は歩きながら、小さな声で尋ねた。

端末越しの通信は、わずかにノイズを含んで耳に届く。


「んー……ダメ。今日警備多いよー」


その声に、雫は思わず苦笑した。

彼女の言う通りだ。今日は、通りのあちこちに警備ドローンが飛び、店員ロボの目が異様に鋭い。

スリひとつで通報されるような緊張感が街を包んでいる。


「……きついね」


レナの溜息が、小さく聞こえた。

その音に、雫の心にもわずかな疲労が染み込む。

彼女を危険な目に遭わせたくない。

でも――盗まなきゃ、生きられない。


そんな矛盾を抱えたまま、雫は空を見上げた。

霞のかかった空に、薄い光が滲んでいる。

その光景を見ながら、ふと何かを思い出したように、雫は小さく呟いた。


「そうだ……今日は“帰納祭”だよ」


「え、帰納祭? 今日?」

「そう。去年、ほら、死体運んだじゃん」


レナは「あー!」と間の抜けた声を出して笑った。

だが、その笑いのあと、すぐに沈黙が訪れる。

空気が、ほんの少しだけ変わった気がした。


しばらくして、レナがぽつりと呟く。


「やったね、そっか……今日か」


その声は、どこか遠くを見つめているようだった。

浮かれたような言葉の裏に、微かな切なさが混じっている。

雫には、そのわずかな違和感が分かった。


「ねぇ、雫……」

小さな声が通信の向こうから届く。


「ん?」


「いや、その……」


レナの声が揺れる。

喉の奥で何かを言いかけては飲み込んでいるようだった。

言葉にしようとして、できない。

けれど、伝えたい気持ちは確かにそこにある。


 (……なんだ?)

 (俺、なんかしたか?……違う……たぶんそうじ

 ゃない)


レナの沈黙の裏に、微かな“期待”があることに雫は気づく。

それは、彼女がめったに見せない種類の表情だった。

まるで何かを待っているように――。


「……なぁ、レナ」

雫は声を出そうとして、しかし何も言えずに口を閉じた。

もし、今の言葉が彼女の期待を外したらどうしよう。

そんな不安が、胸の奥で鈍く鳴る。


「やっぱり……なんでもないよ」


レナの声は笑っているようで、どこか沈んでいた。

彼女は無理やり明るく振る舞おうとしている。

静かなノイズが、通信機越しに流れる。


雫は思わず立ち止まった。

夕暮れの街の光が、ガラス片のように反射している。

ふと、ビルの隙間の奥に、ひときわ明るい高層ビ

ルの巨大な広告が目に入った。

薄暗い街の中で、そこだけが異様に鮮やかだった。


 『帰納祭 ―年に一度の素敵な祭り―』


光の粒が踊り、子どもたちが笑っている。

まるで、別の世界の映像のように。


――ああ、そうか。

レナが言いかけていたのは、きっとこれだ。


雫はしばらく看板を見上げたまま、息を整えた。

胸の奥で何かが、ゆっくりとほどけていく。


 (……気づけて、よかった)


彼は静かに端末を押さえ、少し恥ずかしそうに声を出した。


「……なぁ、レナ」

「ん?」

「今日はさ……祭りでも、行こうか」

「……ほら、最近動きっぱなしだしさ貯金も溜まっ

 てきてるし……ね?」


数秒の沈黙。


 (違うかったのか? 聞き方間違ってた?)


レナはなにも言わないが息がだんだんと荒くなってるのが端末越しに分かる。 


 次の瞬間――


「――行く!!!!!!」


爆発したような声が、通信を突き抜けた。

あまりの大声に、雫は思わず耳を押さえる。


「お、おい! レナ! 声がでかい! 聞こえてる 

 って!!」


焦って辺りを見回すが、通りの人々が一斉に振り向く。

雫は慌ててパーカーのフードを深くかぶった。


「ご、ごめん!」

端末越しに、レナの弾けるような笑い声が聞こえる。

それはまるで、暗い街の空気を少しだけ明るくするようだった。


雫は肩を落としつつも、口の端をわずかに上げ

た。


「……もう、ほんとに」

小さく呟いた声は、誰にも聞こえない。


「楽しみだね!」

「そうだね」


彼はふと空を見上げる。

高層ビルの狭間――遠くの空の穴が、薄紫に染まっていた。

その深淵を見つめながら、雫は思う。

今日くらいは、神も笑ってくれるだろうか、と。

 



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