【短編】「後悔してるんだ。一番愛してるのは君だったのに」婚約破棄されたはずなのに、マザコン王子が帰ってくれない!
「後悔してるんだ。一番愛してるのは君だったのに」
元婚約者である第四王子は、もう三日も帰ろうとしない。
ちなみに婚約破棄されたのは私。
「母上の言うこときけないなら結婚してあげられない」
と。
花の咲き乱れる庭園で、婚約破棄された時、私は狂喜乱舞した。
「私の若い頃のドレスだけど、最高級の絹だからね」
妃殿下は、デートの私のドレスまで指図する方だった。
ドレスには流行がある。
妃殿下のカビ臭いドレスは、肩が大きく盛り上がっている。
当時はそれがオシャレだったのかもしれない。
今着ると、そんじょそこらの騎士より肩がごついゴーレムにすぎない。
さらに、妃殿下の趣味は、手芸。
「貴方のために作ってあげたわ」
「妃殿下。これは……イノシシでしょうか?」
「失礼ね。どう見てもウサギでしょう」
「わ── かわいいです── ありがとうございます──」
私の部屋には、謎の編みぐるみが増えていく。
オペラ鑑賞や食事は、常に妃殿下も一緒。
馬車では、妃殿下と第四王子が隣に座る。
お茶は妃殿下の好きなローズヒップティー。
第四王子は私より年下。
甘やかされた末っ子だから、仕方ないとも思った。
でも、これが一生続くのかと思うと、寒気がした。
「マーサは母上に顔が似てるから、婚約するんだ」
そもそも、婚約理由がこれ。
私は当時していた婚約を解消し、第四王子の婚約者となった。
王子妃教育で王宮に通うため、領地にも帰れなくなった。
どんなに泣いたところで、王家には逆らえない。
この王国では、結婚イコール姑との同居。
すでに精神的疲労が耐えがたいのに、同居はもたない。
私にできるのは、いかに平和的に婚約者に嫌われるかであった。
そして、それは成功したはずだった。
なぜ、またいるのか?
「マーサがだれかに取られるなんて、我慢ならない!」
十六歳になっても、第四王子は駄々っ子。
理由は二つ。
一つは妃殿下が亡くなったこと。
王家では、悲しむ末っ子への甘やかしが加速してしまった。
もう一つは私の再々婚約。
幸せを見て、捨てた者なのに惜しくなったのだ。
「妃殿下の代わりが欲しいのですか? 私にママンになれと?」
「まさか……そんなこと……」
「でしたら、殿下。侯爵家の領地に参りましょう」
「いいのか? マーサ。ぜひ行こう!」
「ええ。私の本気を見せて差し上げます。まずは素振り千本からッ!!」
「へ?」
わが侯爵家は南部沿岸の防衛を務める。
戦時下でなくとも、海賊との小競り合いは多い。
兵は荒くれた猛者ばかり。
髭だらけの当主の父は「ガハハ」と笑い、角杯で酒を煽る英雄。
「相変わらず、侯爵殿は熊みたいで恐ろしいな……」
「ええ。最強です! お上品な王都の貴族とは違いますわ。さ。休んでないで、海賊を成敗しましょう!」
第四王子の首根っこを掴み、船に乗り込む。
一度は嫌われた女。
なーに。もう一度、嫌われればいいだけのこと。
「殿下の婚約者ともあろう者が、剣や弓を扱うなんて許されません! 日焼けだけでもありえないのに!」
妃殿下が、婚約破棄を決めた理由はこれ。
妃殿下に似た顔をなくすには、日焼けが手っ取り早い。
ジリジリと照り付ける太陽の下で鍛えた。
そう。私の肩には脱いでも三角筋がある!
そして私が狩るのは、本物のイノシシやウサギだ!
「無理。怖い。死んでしまう……」
「殿下。周りを見てください! 王国のため、兵は命を懸けて戦ってます!」
海賊とも戦う!
「無理。怖い。逃げなきゃ……」
「殿下。周りを見てください。震える民がいますでしょう?」
嵐とも戦う!
日々、泣く第四王子を鍛えに鍛えた!
海の陽射しは強い!
海の人間は強い!
荒波に揉まれ、みるみる第四王子は変わっていく!!
「侯爵殿。マーサ。感謝する。まさか母親の操り人形だった甘ったれの末っ子が、こんなに立派に成長するとは!」
「痛み入ります」
「これからも、あいつを頼むぞ。ビシバシ鍛えてくれ!」
「はっ」
船で立ち寄った王太子殿下にも、お褒めの言葉を頂いた。
もう第四王子の見た目は別人である。
庭園のボートで、妃殿下が持つ日傘の中にいた王子だった。
今は、溺れる者がいれば、我先にと船から飛び込んで助け出す!
人の痛みのわかる、頼れる男になったのだ!!
「期待されるのは嬉しいんだな。信頼されるのも嬉しい」
「そうですね」
「本当にマーサを愛してたんだよ? だけど、あの頃は弱くて。情けなくて。後悔してるんだ!」
精悍で刀傷もある第四王子は、荒くれた兵と角杯で酒を煽る!
国防の最前線で、勇ましく指揮を執る!
強い男に育ったのだ! これが私の母性!
ついに第四王子は、私の婚約者に決闘を申し込む!
「絶対にマーサは渡さんッ!!」
「殿下。負けた方がマーサを諦めるということで?」
「ああ。男に二言はないッ!!!」
で、負けた────
「殿下。世の中は厳しいのです! 私の婚約者は、この厳しい環境で育った幼馴染です。一度は、王家に逆らえず破談となりました。でも権力では、心を変えられないのです!」
「ここまで頑張らせて!? 愛してるのに。酷いよ……」
屈強な夫に大切に愛され、私は今、幸せである。
そして、やっと第四王子は帰った。
王都でモテモテだそうなので、感謝してほしいくらいだ。
win-winのハッピーエンドです!!
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