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2話 - 不味い物と平凡

「はぁ……あのバカ王子…。勝手に召喚儀式だしやがって百年に一度だっつーのによォ」


一人取り残された私は、勝手に動き回れる訳もなく部屋の隅で三角座りをしながら誰かが来るのを待っていた。

部屋の照明も消え肌寒く体温が低下しうつらうつらしていた私の耳に聞こえてきた先程とは違う男性の声。ぶつくさと文句を言いながら入ってきた声の正体に、私は縋る思い出腕を伸ばした。男性の衣服に私が触れた瞬間驚きの声を上げて私の手を振り解き距離を開けて長剣を突き立てられた。私の記憶はそこで途切れた。

どうしてこんな目に会わないといけないんだろう……

ふわふわと浮かぶ脳内でそんな考えがよぎったのを、目が覚める直前に思ったのをよく覚えてる。

ズキンッと痛む頭でパチッと目が覚め起き上がる。あまりの頭痛に周囲を見る事も遅れ頭を抑えた。


『ッう"……』

「だ、大丈夫ですか?!」

『ぁッ………だ、れ…?』

「すぐに報告しないと!モミジ様!女性が目を覚ましました!」


私の質問に返事をすること無く寝ていた隣に座っていた男性は立ち上がり部屋を慌ただしく出ていった。思考の追いつかない状況に痛む頭をどうにか抑え一息吐く。

落ち着いた所で周囲の状況を把握すべく見渡した。

見たことの無い部屋に光るシャンデリア、シルクのシーツに包まれたキングサイズの天蓋付きのベット。全体的に白く作り上げられた室内。まるでお姫様になったのではないかと錯覚に陥る程の豪華な作りの部屋に阿呆面で呆然と眺めて居ると先程男性が出ていった扉がガチャ、と開き入ってきたのは真っ白なウェディングドレスを身に纏ったまさに美女の言葉が良く似合う女性だった。

そんな女性はカツカツとヒールを鳴らしベットによってきたと思ったらいきなり抱き締められた。


「良かった、無事だったのね……」

『え、あっ……そ、そのッ、!』

「まぁ!こんなにも身体が冷えて……リード。すぐに暖かいモノを彼女にあげなさい!」

「は、はいっ!」


リードと呼ばれた男性は再度慌ただしく部屋を後にする。抱き着いていた美女は私から離れ傍に置いてある椅子に座るとどこかかわいそうな捨て猫を見るような視線を送って来た。

状況を知れば理解できなくもないが、初対面の女性にそんな顔をされる覚えはない。消えゆく思考の中聞こえた「バカ王子」発言に目の前の美女を見ていれば分かる。きっとこの人は先程私に杖先を向け威圧してきた男性の血縁関係なのだろう。目の前の女性が私に直接何かをしたわけでもない。でも血縁関係とならば話は別だ。

何が起きているのか全く理解が出来てない状況で置きざりにされ、意識を失うまでに体力を奪われて今の状況…。

それなりの誠意がなければ簡単に許す事は出来ない。


「失礼しますっ。すぐに用意できる物で申し訳ないのですが……」


ノックをし、そう言いながら入って来たリードさんは私に少し厚めのカップに入ったスープを手渡してきた。

スープの色は白く鶏白湯だろうか…スープの中心にはチコの実が二つ浮かんでいる。後から渡された銀食器のスプーンを受け取り中を掬うと中から透明の何かが出てきた。なんだろうと思いスンッと匂いを嗅ぐと、何処か甘い匂いがした。

玉ねぎ…かな……。

鶏白湯スープに具材が玉ねぎのみって感じなかな……

匂いは普通に美味しそうで、定食屋に出ていても疑わないレベルの物。私はスープだけスプーンで掬いゆっくりと咽喉に流し込んだ


『んぅ"…!!!』


口に入るまでは良かった。特に疑う様子もなくただのスープだと思っていたからだったのかもしれない。例えるなら、そう…牛乳を拭いて一週間拭いたものを放されていた小学生の時に記憶に残っているあの匂いと全く一緒だ。

匂いと味は紙一重。それなのにこんな仕打ちがあっても良いのだろうか…。匂いや見た目は問題ないのに味だけがこれほどまでに不味いのは如何なものか。

口の中に残った飲み込めないスープに悪戦苦闘していると、その様子を見た男性と女性は心配そうに私の表情を覗き込んでくる。

無礼な事をされたし返しにスープを吐き出す事も一瞬過ったが、食材を無駄にする事がどうしても出来なかった私はなるべく鼻と舌に意識がいかぬようゴクリとスープを流し込んだ。

鼻から抜ける味そのものが美味しくなく嚥下したスープが食道を帰ってくる感覚に、私の全てをつぎ込んで胃の中へと押し返した。

さあもう一口!だなんで思える筈もなく、頂いたスープを男性に静かに押し返した。


「お口に合いませんでしたか」

『………え、っと……』


ここで正直に話すべきなのか、隠し通すべきなのか。そんな考えが頭を過りすぐに返事を返すことが出来なかった。それでも料理に関して私には嘘は付けない。そう思い一思いにスープの感想を告げた。

感想を聞いた二人は驚いた表情をして互いに目を合わせていた。

何かを言いたそうな視線を向けられ聞いてみると、先程のスープはこの王宮一の料理人が成形したものだという。それを聞いた私は言葉を失った。

いや、料理にという所もあったけれど、この騒動に巻き込まれる前までは漫画でしか聞く事の無かった "王宮" の言葉に一番驚いたのだ。

王宮と言われて今までの流れがパズルのピースのように当てはまった事には少しすっきりした。


『あのっ、今の状況…、詳しく教えてもらえませんか。』

「………そうですね…。全てお話いたします…。どうしてこうなったのか全て……」


そういうと女性はポツポツと経由を語り始めた。

今、私が居る国は、聖女を祀っているという国、スターニア帝国というらしい。

この国では聖女の力と共に育っているらしく、今日新たな聖女が誕生したとの事。 それが先程隣で眠っていた綺麗な女子高生だったらしい。

その聖女を召喚したあの男は、なんと勝手に秘かに聖女召喚の儀式を行ったそうで、私はそれに巻き込まれたというのだ。

それともう一つ。実は聖女召喚は百年に一度のみという決まりがあるそうな。そして、一度召喚された者は元の世界に戻ることは出来ない。と……

今回のケースは異例のケースだそうで、今まで聖女召喚の儀式に巻き込まれし者は存在しないとのことであった。元の世界に還す事も不可能らしい……


『……私は、ここで暮らしていけと。そういう事ですか。関係の無い私が!訳も分からない場所で!!』

「お、お怒りする気持ちはご最もです…!私の愚息が本当に申し訳ございません!」

『謝らないで!余計惨めになる………もう出ていって…、あんたもあんたも!そんな美味しくない料理も要らない!』

「ま、待ってください聖女様…!」

『ッ…!私は……私は聖女なんかじゃない!いいからもう出ていって!!』


二人を部屋から追い出して扉を締める。扉越しに二人が部屋から離れていく音が聞こえ、私は扉に背中を預けズルズルと地面に座り込んだ。両目から溢れる涙にみっともない鳴き声が誰もいない広い部屋に木霊した。


私は、ただ何の変哲もない平和な暮らしをしていただけだ。

朝起きて、朝食とお昼のお弁当を作って両親の仏壇に『おはよう』を言って、学校に行って、友達と遊んで、沢山学んで……帰ってご飯を作って食べてお風呂に入って寝て……。何のトラブルもないただの普通の高校二年生の女子高生だ。

それなのに、どうして変なことに巻き込まれた挙句、家には帰れない。友達にも会えないし美味しいものも食べられなくちゃならないんだろう


『返してッ……返してよ、ぉ………う"っ、うぅ"〜…ッ………』


私はただ、美味しいものを食べて平凡に暮らしていきたいだけなのに……っ

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― 新着の感想 ―
面白そうです! 次ありそうなら読みたいです! 主人公の『』は普通に「」でいいと思います あと空白もう少し開けて欲しいです…
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