1話 - 崩れゆく日常
ホクホクの白米に昆布出汁がよく出ているお味噌汁。骨まで柔らかく身がホロホロと崩れる秋刀魚とアクセントのお漬物。そして食後の淹れたてのお茶…。私が求める私服を感じる一番大好きな時間。
朝食にはもってこいの品揃えにホゥと喉に流したお茶から息を吐いた。
『あっ、茶柱だ』
私の飲んだお茶の中に、一つ、凛々しく佇む茶柱に。今日はいい事が起きそうっ。だなんて感情に浸っていた。その次の瞬間真っ白に輝く光が座っていたイスの下から放たれ始めた。眩い光に両腕で両目を隠しガードをして強く瞼を閉じた。
眩しいッ、一体何が起きてるの…っ
ダイレクトに感じた光は徐々に光を失い、チカチカと点滅する視界に頭が痛くなる。景色に慣れるまで時間がかかりそうだ。
何度も瞬きを繰り返す度、視界が鮮明になって行く。頭痛も収まり腕を退けゆっくりと瞼を上げた。
すると目の前には、複数もの人の数がおびただしい程に並んでいた。その誰もが白装束を身にまといフードを深く被っていて顔が隠されている。そんな中、一人……
シルバーの髪色に、少しつり目の青い宝石のような瞳がキラキラと輝く白い服を身につけた二十歳前後ぐらいであろう男性が木製の杖を持ち私の方を凝視していた。
『なっ、何これ……』
なにかの儀式でもしていたのか思わざるを得ない状況にキョロキョロと周囲を見渡した。
状況を飲み込めていない私に降り掛かってきたのは白装束の人達の歓声と目の前の二十歳前後の男性の杖先。突然のことに地面にお臀をつけたまま一つ後ろに下がる。
「お前は何者だ!!」
『は、はい?!』
見知らぬ美形の男性に杖先を向けられたかと思っていたら第一声がこれだ。
目の前男性は何を言っているんだろうか…。私が何者だと問いただす男性に、私は声を零すことなく服の胸元を握りしめた。するとどうだろう。私の隣から「んぅ…」と女性の声が聞こえてきた。その声に視線を向けるとそこにはブレザーを身に纏い薄ピンクのロングヘアの女性が横たわっていた。まつ毛は長く薄くだが化粧されており、例えるなら "お姫様" が似合う美女の姿。
私とは大違いの、まるで月とすっぽんな状況だ。
唸り声を上げた学生らしい彼女は、パチッと目を覚ましたかと思いきや勢いよく上半身を起き上がらせた。眠りから冷めた彼女に、周囲の人間は視線を全て彼女を包み込んだ。彼女はキョロキョロと周囲を見渡したあと口に両手を置きポロポロと両目から大きめの涙を零した。
訳が分からない……。この状況はいったいなんなの…
視線を全て集め泣く彼女に、今だ杖先を私に向ける美男子。先程歓声を上げていた白装束達。
カオスという言葉が一番この場面にあっていると思う。
「……君だったのか…」
「はいっ…ッ……」
さっきとはうってかわり口調も態度も柔らかく、問う美男子に思わず顔を歪めた。そんな美男子に向け、大粒の涙を流したまま返事をして手をさし伸ばす彼女に『はぁ?』と怒りが私の中に蓄積されたのを感じた。
彼女の手を取り立ち上がらせたと思っていたら彼女の腰を抱き部屋を連れていった。そんな美男子と彼女の後ろをゾロゾロと追いかける形で白装束の人達は部屋を出ていった。
ポツンと一人見知らぬ部屋に残された私は働かない思考でその場に停止してしまう。
『な、何、これ………』
誰も居なくなった部屋に、私の声だけが木霊する。
今朝まで幸せだった空間。
茶柱までもが私を祝福していたと言うのに、、。そんな空間が、一気に崩れて行ったのが分かった気がした。