王宮にて
カラカラカラ
「あのさ」
「なんじゃ?」
「この馬車も急ぎの手配とはいえ王族が乗ってるんだろ?なんでこんなに揺れるんだ?」
俺は門番が手配してきた馬車への疑問をマリナにぶつけてみた。正直、乗っていて揺れが強いのだ。
「いや、馬車は揺れるもんじゃぞ?王族の専用馬車も守りの陣が刻まれている以外は意匠が施されているぐらいじゃ」
「マジかよ…もっといいの作れないのか?」
「そういうなら、ロウがアイデアのひとつも出すんじゃな」
「そういうのは専門家に任せるぜ」
「なら我慢じゃ」
そうは言うものの、街中でこれなら出先じゃ思いやられるな。歩いて町を行き来するのは大変そうだし、何か考えないとなどうにかならないのか。
「つ、着きました」
「そうか、ご苦労じゃった。門番には後で連絡しておくから、後日褒美が届くじゃろう」
「あ、ありがとうございます。では、あっしはこれで」
「うむ」
まるで脱兎のごとく御者は逃げていく。王族ってそんなに怖いもんなのか。こんな子どもなのに。と、そこまで考えたところであることに気が付いた。
「へぇ~」
「なんじゃ?」
「いや、そういやさっきからリタじゃなくて御者とも話してんだなって。そういうのって騎士に任せないのか?」
「まあ、本当は本来はそうするべきなんじゃが、普段は商家の娘を装って各地に行くからかのぅ。あんまり気にならんようになったんじゃ」
「なるほどな」
「む、そこの馬車。どうしたんだ?ここは王宮への馬車用入り口だぞ!」
「私だ。事情があって御者がいない。すぐに直ぐに手配を!」
「リ、リタ様!すぐに手配いたします!!」
「おおっ!リタって王宮じゃ偉いんだな」
ここに来るまでも親衛隊だ、騎士学校主席だと色々言ってたが、リタが偉いと思ったのは初めてだな。
「王宮ではとはなんだ!」
「いや、さっきまでは普通に話してた相手だしなぁ」
「それはお前が勝手に…」
「御者をお連れ致しました!」
「そ、そうか。ご苦労だった。御者よ、この馬車を王宮の馬車止め迄運べ」
「分かりました」
新たに御者を乗せた馬車はパカパカと奥へと進んでいく。それに合わせて景色がどんどん華やかになっていく。うう~ん、これが王の住処ってやつか。
「あんまりきょろきょろするな。不審者にしか見えんぞ」
「しょうがないだろ?こっちはこういうのこんな豪華な景色を見る機会なんてないんだからよ」
「きれいか?」
「ああ」
「そうかそうか、ならしょうがないのぅ」
うんうんとうなずくマリナ。急になんなんだよ。
「着きました」
「そうか。では、向かうとするか」
「おう!」
「ロウ、ここからは礼儀正しくするんじゃぞ?わしがいいと言っても体面があるからのう」
「わ、分かったよ」
ちらりと窓の外を見ると、そこには既に数人の騎士が並んでいた。正直、その姿だけでもおっかない。リタと違って堅物そうだしな。セドリックみたいな感じでもないし。
「ほれ、先に降りろ」
「いいのか先で?」
「王族より後で降りるなど、超特別待遇じゃぞ?」
「そりゃあ、ごめんだな」
てっきりレディーファーストかと思ったらそうじゃないらしい。馬車を降りるとすぐに直ぐにリタたちの方へと向かう。
「おい、お前がエスコートしないか」
「えっ、俺か?セドリックやリタじゃダメなのか?」
「本来ならそうだが、最初に馬車から降りてきたものがするの行うのが普通通例だ」
「げっ!?そうなのかよ…先に言ってくれりゃあよかったのに」
「済まんな。知っていると思っていた」
「いいや、セドリックは悪くねぇよ。それじゃあ、行ってくる」
すぐに直ぐに馬車の入り口まで戻るとなんとかエスコートをする。
「なんともぎこちないエスコートじゃのう…」
「しょうがないだろ、初めてなんだからよ」
「む…それならよしとするか」
こうしてなんとかマリナを馬車から降ろした俺たちは先頭をセドリック、後ろにはリタを連れて進みだした進み出した。
「これからどこへ行くんだ?」
「静かにせい。ぼろが出るぞ」
「す、済まん」
なんとか背筋を伸ばしてついて付いて行く。そして俺たちが向かった先は広い部屋だった。
「マリナ様、おかえりなさいませ」
「うむ。今帰ったぞ」
「そちらの男性は?」
「ああ、道中少しあってな。父上にもそのことで話があるから伝えてもらえるか?それとすぐ横の部屋にこやつを泊めたいからのでヴェルデを呼んでくれ」
「…承知しました」
一瞬驚いた様子だったがメイドらしき女性はすぐに用件を聞くと直ぐに外へと出ていった。
「ふぅ~、なんとか戻って来れたの。リタ、セドリック、ご苦労じゃった」
「いえ、殿下のお役に立てず申し訳ありません」
「我々は姫様のため、今以上に精進いたします」
「2人ともそう気にするな。あんな大熊、普通は倒せんわ」
そういうとマリナはこっちを見る。
「なんだよ」
「ロウもご苦労じゃった。改めて礼を言う」
「なんだよ、マリナらしくねぇな」
「そうか?なら、普通に話すかのぅ!」
急に元気を取り戻すマリナ。全く、お子様の考えはよくわからんな。
コンコン
「入れ」
「マリナ殿下、お呼びでしょうか?」
「おおっ!ヴェルデ、来てくれたか」
「はい」
「実はな。今日の帰り道、魔物に襲われてのぅ」
「それは!?御身は大丈夫なのですか!?」
「この通り、もちろん無事なんじゃが、相手が相手での。ここのロウという男に助けてもらったんじゃ」
「そうでしたか。ミスティアよりマリナ殿下が見知らぬ男を連れているという話は報告を聞いておりましたが…ありがとうございます。殿下を救っていただいて」
「い、いや、ただの通りすがりだったし…」
あまりに丁寧に頭を下げられるので逆にて恐縮して返事を返す俺。慣れね~な…。
「いいえ。通りすがりでも魔物に遭えば逃げるという選択肢もあったはずです。勇敢な方なのですね」
「そういう訳じゃないんだけどよ。まあ、礼は受け取っとく」
話が進みそうになかったのでとりあえずそう返す。
「それでな、父上には後でまた話すのじゃが、ロウには隣の部屋をしばらく使ってもらおうと思うのじゃ」
「隣の!?いえ、かしこまりました」
ん?なんかあるのか?さっきのミスティアとか言うメイドも変な反応だったが…。
「後、視察の報告書をまとめないといかんから、紙とペンを用意してくれ」
「それは…魔物に襲われたのですし、明日以降でもよろしいのでは?」
「そうはいかぬ。調査結果は1日も早く必要じゃろうし、この後で父上とも会う予定じゃ。忙しい父上の時間を何度も取らせるわけにはいかんわい」
「マリナ様。…かしこまりました。ただ、ご無理はなさいませんよう」
「分かっておる」
「では、失礼いたします」
返事をしてヴェルデは出ていった。