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親衛隊は高給取り?

 俺が不意に言った『なぜ、安全なはずの王都への道に強力な魔物が出たのか』という趣旨の発言に皆黙ってしまった。こういう空気苦手なんだよな。しかし、少しして考えがまとまったみたいだ。


「先程の魔物は殿下を狙ったものかもしれない。明らかにこの辺りには生息しない魔物だからな」


「確かに、王都の近くであのランクの魔物が出るのは不自然だ」


「ま、そう決めつけることもあるまい。変異種の可能性もあるしの」


「変異種?」


「うむ。魔物の中には突然強くなるやつがおっての。それらのことをひとまとめに変異種と呼んでおるんじゃ!」


「お子様知恵袋だな」


「お子様ではない!全く、人が親切に教えてやっておるのに…」


「殿下の説明に加えて言うならば、同じ種族の中で役割に特化したものを亜種という」


「役割に特化?」


「そうだ。例えばゴブリンでも弓を使うのがうまいやつはアーチャー。魔法を使うのが得意なやつはメイジと、通常の個体より得意なものをより使えるようになった奴らだ。そういうやつらは通常の種より手ごわい」


「へ~、でもゴブリンなら弱いんじゃないのか?」


「お前の武器ならそうかもしれんが、一般人は剣すら握ることはないんだぞ?それにあいつらは少なくとも5体はまとまって動く。1匹、2匹なら倒せるかもしれんが多数の敵を倒すのは容易ではない」


「そりゃそうか。後ろは見えないもんな」


 5体もいれば1体ぐらいは側面か後背を突くことができるだろう。


「一般人が戦うとなれば村だと槍が多いのう」


「そうなのか?そりゃなんでだ」


「使う鉄の量が少ないからじゃ。剣だと全部鉄じゃろ?じゃが、槍ならば穂先だけで済むからのう」


「ああ、そういうことか」


「それにリーチの問題もある。剣相手なら槍が有利だ」


「でも、あんたら2人とも剣だよな?」


 そういう割にはリタも男の方も帯剣している。今の言葉通りなら槍を持っていないと変だ。


「まあ、練度が違うからな。槍も使えないことはないが剣の方が私たちは慣れている。それに騎士の制式装備は剣なのだ。槍を持っていても剣は帯刀していなければならない」


「結構面倒なんだな」


「爵位は最低とはいえ騎士も一応は貴族の端くれじゃからの。親衛隊の騎士ともなれば扱いも普通の騎士とは違うんじゃぞ?」


「ふ~ん。給料もいいのか?」


「なっ!そんなことで騎士の忠誠は揺らがぬ!」


「いや、でも金は大事だろ?その装備だって金かかってそうだし…」


 俺は2人の騎士の装備を見比べる。どっちも似たデザインで、業物かは知らないが高そうではある。


「騎士にはちゃんと雇用先から支給がある!」


「言われてみればそうか。変に着飾った鎧とかで護衛されても、護衛される方が気に食わないだろうしな」


「…」


「なんでそこで黙るんだよ」


 なんとなく言ってみただけなんだが?


「いやぁ、ロウの言う通り高位貴族出身の騎士にはたま~におってな。じゃが、たま~にじゃからな。たま~にじゃぞ?」


「そう何回も言わなくても分かったよ」


 そんなに否定するってことはそこそこの頻度で発生してるんだな。となると、騎士だから爵位は低いが、実家は護衛対象より身分が高いと面倒そうだ。流石に自分の配置にまで口を出すような奴はいないだろうが。


「それで金はどのぐらい貰えるんだ?」


「リタたちは親衛隊の騎士じゃからのう。月に30000クロムぐらいか?」


「それって多いのか?」


「一般人の平均が月に2000クロムぐらいだったかの?」


「すげ~!」


 2000クロムがどのぐらいか知らないが、平民の月収だとすると日本円で20万円ぐらいと考えても、30000クロムは300万円だ。年間に直すと3600万円!くぅ~、贅沢してそうだな。


「何を羨ましそうにこっちを見ている。そんなに使う機会もなければ色々支出もあるぞ。大体、我々が貴族であることを忘れたか?」


「そういやそうか。家賃も高いだろうし、着る服だって安物はダメだよな。いや、でも羨ましい…」


「確かに一般人からすれば高額だ。お前がそう思っても仕方がないな」


「そうだろ!いや~、あんた物分かりがいいな。セドリックだっけ?よろしくな」


「ああ」


 俺はセドリックと握手を交わし、再び歩き出す。



「はぁ~。しかし、商人の一人も通らんとはな。もう少し普段は通るはずなんじゃが…」


「商人が通ると何かあるのか?」


「そうすればわしが馬車に乗れるじゃろ?まあ、乗り心地は良いものではないがのう」


「贅沢な」


「じゃから、我慢して乗るといっておるのじゃ」


「だけどさ、そんなほいほいと王族だからって商人の馬車に乗れんのか?席が空いてなかったらどうするんだよ?」


「ん?当然商人には歩いてもらうぞ」


「げっ!ひどいやつだな、マリナは」


「ひどくないわい!商人にもメリットがあるんじゃ。王族を助けたとなればそれなりに報奨が出る。場合によっては数度ぐらい取引もしてやるんじゃぞ?向こうからしたら交渉のいらない商売が降って湧くんじゃ」


「ふ~ん。そういうもんなのか」


「お主は変わった知識は持っておるのに金関係の事にはうといのぅ」


「いや、だって学生だしな。まだ未成年だし」


「未成年?ロウの歳でか?」


「そうだぞ?ひょっとしてこっちの成人って早いのか?」


「早いかは知らんが、大体は15歳で独り立ちじゃな。孤児院で世話をしてもらえるのもその歳までじゃし」


「はぁ~、15歳じゃ何もできないだろ?」


「それならロウはいくつならできるようになるんじゃ?」


「それはえっと…」


 そう言われてみれば18歳で成人って高校卒業に合わせたような感じだよな。平民は学校に行かないなら、アリなのか?


「学校へ行かないならそれでもいいかもな。まあ、体が成長途中だから猶予は欲しいけどな」


「ロウのところは学校に通うのが一般的みたいじゃが、何年通うんじゃ?」


「ん~、人によってまちまちだが、大体12年か?長いと16年とか18年とかかな?」


「長いのう…我が国は貴族や王族でも6年なんじゃが」


「そんなもんなのか?」


「うむ。10歳から16歳の6年じゃな。まあ、家庭教師をつけるところは14歳からだったりするがの」


「へ~、だからマリナはこうやって色々なところに行けるんだな」


「ロウよ、お主ひょっとしてわしが10歳以下とか思っておらんか?」


「違うのか?」


「違わい!王族としての仕事が忙しいから学校には行けておらんのじゃ!!」


 俺の言葉を全力で否定してくるマリナ。そこまで言うことじゃないと思うんだが。


「そ、そうなのか。結構王族って大変なんだな。もっと、威張って適当に生きてるのかと思ってたぜ」


「ロウ!貴様失礼だぞ」


「わりぃわりぃ。だってよ、王族って国で一番偉いだろ?わざわざ面倒なことする必要ないって思わねぇか?」


「お主のいたところは何を学ばせておるのじゃ…。王族はその地位ゆえに責任も大きいのじゃ。ちょっとしたことで大問題に発展するし、他国との関係もある。小さい国だと偉いのも国内だけで他国の関係者相手には常に頭を下げねばならんのだぞ?」


「あっ、言われてみればそうか。ちなみにこの国はどうなんだ?」


「フォートバン王国は中堅国じゃな。別に大国にも媚びる必要はない位の国力はある」


「へぇ~、よかったじゃん」


 それならマリナも王族として凛と振る舞える訳だ。


「まあのぅ。小国なら近くの大国に人質を送らねばならんし、結婚相手も相手国が送り込んできた者になることもあるからのぅ」


「げっ!それは嫌だな」


「嫌といっても、そもそも政略結婚になるんじゃがの」


 かっかっかっと元気に笑うマリナ。そこは笑うところか?現代人の俺にはよくわからん感覚だな。


「マリナはそれでいいのか?好きなやつと結婚したいとかないのかよ?」


「好きなやつと言われてものぅ。政略結婚すると思っておるし、そうなると恋愛などする気になれんわ」


「うわ、俺王族は嫌だわ」


「はっきり言うでないわ!本当にお主は失礼なやつじゃ」


 そういうとマリナはしばらく黙り込んでしまった。割り切っているようでもやっぱり少しは思うところがあるらしい。




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