回復魔法と王女の事情
異世界初めての怪我をこれまた初めての回復魔法で癒してもらった俺。時間は3分ほどかかったものの、見事に傷口は塞がった。
「すっげぇ~!あんだけの傷が治ってる…でも、服はそのままなんだな」
傷を癒してくれるだけで、服とかは治らないところを見ると、時間を戻したりするタイプじゃないんだな。どうやら、俺のアラドヴァルみたいに何でもあり!って感じではなさそうだ。
「当たり前じゃろう!回復魔法をなんだと思っているのじゃ」
「いや、こんだけすげぇんだから傷と一緒に服とか胸当ても直してくれねぇかなって…」
「それができるとしたら伝説の時魔法じゃ!なんでお主にそんなものを使わないと行かんのか…」
はぁ、とのじゃロリに盛大なため息を吐かれる。一応、時魔法ってのがあるにはあるんだな。それにしてもポーションが高級品か…。まあ、ゲームでも飲むだけで完全回復とかそりゃあ現実なら異常だもんな。
「ん?なら、庶民とかは傷ついたらどうやって治すんだ?」
この調子だと完全に自然治癒頼みか?王女でも専門の回復魔法使いを連れてないみたいだしな。さっきから、ちらちら周りを見ているが、他の騎士たちは見当たらない。普通王族っていったら、もっと大々的に行動するんじゃないだろうか?
「庶民ならその辺の治療院に行っておるわ!この国は治療院に出資もしておって安いんじゃぞ。わが父の治政のたまものよ!」
ふっふ~ん、と言葉が聞こえてきそうな態度で胸を張る、のじゃロリ。だが、こいつの言うことが正しいなら、どうやら俺の転移先は悪くないようだ。あのでかい熊にあったのは最悪だったが。
「ふ~ん。それは大事だよな」
「なんじゃ、急に物分かりが良くなって」
「いや~、保険って大事だぞ。俺の住んでたところも保険が利いて3000円なら元は10000円だからな」
「3000えん?10000えん?」
まあ当然だが通貨は円じゃないから通じないよな。逆に円だったら引くところだが。
「う~ん、なんて言ったらいいんだろうな。とりあえず、俺の住んでた地域で使っていた通貨のことだ。10000円あればいっぱい物が買えるんだぞ。肉とか塊で買えるし」
「そうなのか?まあ、肉は塊で買うものだと騎士連中は言っておったが…」
そういやこいつ王女だっけ。いちいち、食材で見ることないか。
「お子様には難しい問題だったな。んで、王都はどっちなんだ?」
「あっちじゃ」
のじゃロリが指さした方向には確かにうっすら塔のようなものが見えた。ひょっとするとあの建物が城なのか?
「あっちか。それじゃ、行くとするか…の前にこいつをどうするかだな」
目の前には俺の倒したヴァリアブルレッドベアーが転がっている。ただし、体高4mだ。
「どう考えても運べないよなぁ~」
「その前にわしを送り届けんか!」
「は?なんで俺が」
「お主のぅ~。助けて貰ってはいるが、お主の放った光の魔法でわしの馬車が壊されたんじゃが…」
お子様が指さした先には車輪の壊れた馬車があった。
「俺が何かしたのか?」
全く身に覚えがない。こういうのを詐欺って言うんだろうな。
「じゃから、お主の放った光がヴァリアブルレッドベアーを貫通して、わしの馬車の車輪を撃ち抜いたんじゃ!全く、王家の防護魔法を施した馬車を簡単に破壊しおって…。そのせいでわしはここから歩きなんじゃぞ?悪いと思わんのか!」
「悪いって言ったって助けたのも事実だろ?そんぐらい歩けよな」
のじゃロリがギャーギャー騒いているが、目的地は視界に入っているんだから歩けるだろう。多分3時間ぐらい歩けば着くはずだ。命と比べれば我慢できることだと思うがな。
「貴様!先程から聞いていれば何という無礼を…」
「無礼って言われても俺はここの国民じゃないしな」
これは事実だ。日本国民の俺にフォートバンだっけか?その国の方を当てはめられてもな。
「むむむ、ああ言えばこう言いおってからに!よかろう!そのヴァリアブルレッドベアーはわしらが運ぼうではないか。その代わり、この先の護衛をせよ!」
「どうやってちびっこが運ぶんだよ。俺でも見ただけで重いって分かるぞ」
「ふふ~ん!それはじゃな…」
「あっ!ひょっとしてマジックバッグってやつか?ここにもあるんだな~」
こののじゃロリが自慢げに言うぐらいだから、きっとその手のアイテムだろう。
「な、なな、何で知っておるんじゃ!機密情報じゃぞ?」
「機密情報言われてもな。俺のいたところじゃ当たり前にあったぞ」
まあ、あったのはゲームの世界だけで現実にはなかったがな。
「なんと!ひょっとして多くのものが持っておったのか?」
「あ、いや、流石に簡単に手には入らなかったぞ。枠を買わないといけないしな」
「枠?拡張機能まであったのか?」
「ま、まあな」
やべぇ、この辺で切り上げとかないと面倒なことになりそうだ。
「それより、早く仕舞って行こうぜ!こんなところに長居は無用だろ?」
「そうじゃな…しかし、馬はどうしたものかのう」
馬車は壊れてしまったが、幸い馬は無事だ。それなら話は早い。
「そんなの騎士が乗ればいいだろ?」
「姫様が歩かれるのに乗れるものか!」
「面倒なやつらだなぁ。それじゃあ、引くしかないだろ」
「ふむ、それ以外にないか。リタ、セドリック、さっさとこいつを仕舞って出発じゃ!」
「かしこまりました」
「はっ!」
お子様がヴァリアブルレッドベアーに寄ってマジックバッグの口を開くと、たちまちその巨体が吸い込まれていく。
「本当にいつ見てもすげ~な」
実際は初めてみるけどな。
「まあわしらのような高貴な存在しか持てんからな」
「えっ!?それじゃあ、俺も持てないのか?」
ふふんと威張る、のじゃロリ。こいつノリがいいやつだな。しかし、さっきの言葉は気になるのでちょっと聞いてみた。
「許可さえもらえば持てるぞ。めちゃくちゃ高いがのう!」
「高いのは分かるが、許可ってなんでだ?」
「アホか!そんなもん簡単に町に持ち込まれたら大変じゃろ!民に偽装した兵士へ武器が行き渡るではないか」
「ああ、そういうやつか。それじゃあ、許可を取るのって大変なのか?」
「当然じゃ。領主が信頼するものに渡すだけでも国王の許可がいるんじゃ。サラッとサインひとつで手に入るものではないんじゃ」
「なら俺は大丈夫か?」
「は?なんでお主が持てるんじゃ?」
「いや、俺って王族助けただろ?流石に許可ぐらい…」
「お前はわしの馬車を代わりに壊したじゃろ!それでチャラじゃ。大体、このマジックバッグの中身も運んでやっておるんじゃぞ。それを売った金で我慢せい」
そういうと、のじゃロリは馬車にあるものをついでとばかりに集めてマジックバッグに入れていった。