ロウの決意
「あ、面会は…」
部屋に入ると世話係の人に止められるが、俺は断りを入れる。
「直ぐに済む。今日は確認だけだ」
「どうした、ロウ?」
俺たちがまた面会に来るとは思っていなかったのだろう。驚いた様子でリタはこちらを見ている。
「リタ、お前の呪いみたいなやつだが、なんとかできるかもしんねぇ」
「ほ、本当か?」
「だけど、滅茶苦茶危険だ。一晩ゆっくり考えてくれ」
「いや、この呪いのことを告げられた時から心は決まっている」
リタは大丈夫だと言ってくれるが、この方法は俺だって怖い。ただ、今はこれしか思いつかない。
「それでもだ。俺の提案はアラドヴァルを使うことだ」
「!」
「お、おい、ロウ。お主正気か!?あんなものをリタに?」
「ああ。あの銃なら大丈夫なはずだ。だけどな、リタも知ってんだろ?あれはそんなに器用なもんじゃない。呪いを撃った後は…」
アラドヴァルの有効射程は50mきっかり。呪いだけを撃とうとすればギリギリまで離れなければいけない。だけど、そうすれば呪いの位置が見えない。必然的に呪いから最も近い位置で撃つことになるだろう。
「私の体か…いいだろう」
「そうだよな。嫌だよな…えっ!?」
「私の命はそもそもお前と出会った時からお前のものだ。今回もな。それにお前は私の言葉に応えてくれた。今度、結果はどうなっても私は後悔しない」
「だ、だけどよ…」
「本人がいいと言っておるんじゃ。他のものも色々手は尽くしてくれておるが、このままではリタの体がもたん」
「なんだよ、さっきは反対していただろ?」
「それはそうじゃが、他に手が思い浮かばんのも事実じゃし」
マリナとしてもこれがどれだけ危険か分かってはいる。だけど、俺と同じように他の解決策がない以上、本人の意思に任せることにしたみたいだ。
「ロウ、殿下をあまりいじめるな」
「いじめてなんか…。本当にいいのか、リタ?」
「何度も言わせるな。あまりしつこいようだと、嫌だというぞ?」
リタはそういうと何でもないという風に笑って見せた。本当に駄目だな、俺は。リタやマリナみたいにもっと強くならねぇと。
「わ、分かったよ。でも、できるとしても明日だからな」
「ああ。待っている」
言いたいことは伝えたので、部屋を後にする。
「本当に大丈夫なんじゃろうな?」
「多分な」
「多分じゃダメじゃろ」
マリナかはジト目で非難されるが、俺としても呪いがどんな感じなのか見てみないことには何とも言えない。そもそも見えるかどうかも分からないし。
「呪いの位置を正確につかむのと、体への影響を一番少なくしないといけない。それが俺にできるかだ」
「どうしてもできない時はわしがやる」
俺が思い詰めているように見えたのだろう。マリナが意外なことを言ってくる。全く、人の事ばかり心配しやがってこいつは。
「どうやってだよ。マリナはこいつを使えないだろ?」
「そ、そんなことないわい。お前の指を使えばいいんじゃろ?それなら、わしにもできる!」
「…いや、俺がやるよ」
「どうした急に?」
「お前にアラドヴァルを使わせる訳にはいかないからな」
「なっ!人が折角、決心したというのに!」
「じゃあな。俺はちょっと本でも読んどくよ」
「おいっ!」
だってさ、俺の袖口を掴む手でさえ震えてるんだぜ。そんなやつに呪いを壊すためとはいえ、姉のように思ってるやつに銃口を向けさせるなんてできねぇよ。
「お戻りになりましたか」
「ああ。本でも読んでおこうと思ってな」
「部屋にあるものでよろしいですか?」
「いや、そうだな…人体について書かれた本はあるか?」
「ございますが、医者になられるおつもりですか?」
いきなり俺が医学書を持って来てくれというからネリアはそう思ったみたいだ。俺は不敵な笑みを浮かべると、一言返した。
「ん~、明日1日だけな」
「?」
不思議そうに俺を見るネリアだったけど、ちゃんと本は持って来てくれた。しかも、内容を短時間で吟味してくれたようで、かなり分かりやすい本だ。
「よーっし!読むぞ~」
気合を入れて本を読み進める。
「ふむふむ。ここなら貫通しても問題ないか?いや、こっちの臓器を傷つけそうだな。ってか、そもそも呪いの位置がどこかに寄るよな。どうやって感じ取ったらいいんだ?」
う~ん、考えても分からん。
「でも、神官風のおっさんたちは場所が分かるみたいだし、そこはなんとかなるだろ。今は少しでもこいつを頭に叩き込まないとな」
出来ることをしてからなら、結果を受け入れられる。俺はこの前のことでそれを学んだ。あんな思いをするのはもうたくさんだ。
「絶対に助けてやるからな。待ってろよ、リタ」




