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目覚め

「はぁ…あれからどうだ?」


「部屋から出てきません。私も手を尽くしているのですが…」


 ネリアからロウの現状を聞く。はぁ、全くあやつめいじけておっても仕方がないというのに。


「もう丸2日じゃぞ、全く。それで治療の方は?」

 わしはこの2日間、リタの体を調べていたベルディハに進捗を確認する。


「申し訳ございません。調べてはいるのですが、呪いに近いものでして、神聖力でもどうにもならないのです。よほど強い魔物だったようで呪い自体も誠に強力で…」


「それは分かっておる!…すまん」


 つい気持ちがはやりベルディハに怒鳴ってしまう。このようなことを言いたいわけではないというのに…。


「いえ、マリナ様のお気持ちは理解できます。我々も無力感にさいなまれつつあります」


「魔物の解析の方はどうなのじゃ?」


 今度は同じく報告に来ていた政務官に状況を確認する。


「陛下にもお伝え致しましたが、魔物ではないとのことでした」


「魔物ではないじゃと?」


 報告を聞いて驚く。では、一体リタたちは何と戦っておったのじゃ。


「はっ、恐らく魔族に分類されるものだと」


「魔族…魔王が誕生するというのか」


『魔族誕生する時、それは魔王降臨の時』古くから伝わる言い伝えじゃ。それが、現実になろうとしておるとは…。


「恐らくは。そうであればあれだけの規模の騎士団で、あの被害で済んだのは…」


「そうだとしてもリタはまだ生きておるのだぞ!」


「おっしゃる通りです。我々は今後とも全力を尽くします」


 コンコン


「なんじゃ?」


「ヴェルデです。マリナ様にお伝えしたいことがございます」


「分かった、入れ。ご苦労だったな、戻ってくれ」


「はい、失礼いたします」


 報告に来ていたベルディハと政務官を退出させると、入室してきたヴェルデの報告を聞く。


「して、伝えたいこととはなんじゃ?」


「リタが目を覚ましました」


「ほ、本当か!?」


 さっきの報告では澱みが残り、対応は難しいとのことじゃったが、目が覚めたのなら希望はあるかもしれん!わしは胸を躍らせ立ち上がる。


「会いに行かれますか?」


「もちろんじゃ!」


「ロウ様にはいかがいたしましょう?」


「わしが伝える。あいつが気に病んでおるのもわしのせいじゃ」


「それは…」


 ヴェルデが慰めようとしてくれるが、あの日のことはわしに非がある。ロウも戦いに慣れているものではなかった。そんな青年に命がけで戦わせておきながら、八つ当たりをしてしまった。


「よい。リタとセドリックが側付きになってから、わしの周りには多くの味方が出来た。犠牲も目に見えぬようになり、感情的になることをよしとしまっておったのじゃ」


「マリナ様は王族である前にひとりの女性です。時にはそう振舞うことも大切です」


「それでもじゃ。あんな言葉は言うべきではなかった。自分が情けないのじゃ」


 ロウと出会ってからの事を思い出す。口は悪いやつじゃが、誰かを傷つけるようなことはしなかった。そんなロウに守ってもらいながらわしは…。


「マリナ様」


「心配するな。わしもあいつもこれしきの事で参るほど堕ちておらんわ。きっと、リタを助ける方法を思いつくはずじゃ。あいつはわしをヴァリアブルレッドベアーから救った男じゃぞ?」


「そうですね。吉報をお待ちしております」


 そうと決まれば部屋に居られんわい。直ぐにロウを呼びに行かねばならぬ!



 ドンドン


「こらぁ~、開けんか!」


「うるさい…」


 俺は部屋にこもっていた。あれから何日か経ったと思うが、気が晴れない。


「あの時、俺がぼーっとしていなければ。いや、それよりもっと早くあの力を出せていれば…」


 考えるのはずっとそのことだ。あの時を思い出すと、リタが庇ってくれなければと思い体が震える自分も嫌になった。そんな自分を助けたせいで今リタが苦しんでいる。その事実がさらに嫌になった。


「なんで、俺は…くそっ!」


 今から何をしても過去は代えられない。でも、そのことだけが俺の頭をぐるぐると駆け回る。


「こいつが…こいつで過去をぶち破れれば…なんていっても無理だよな、ははっ」


 はぁ、とため息をつく。


「このまま死んだらリタに会えんのかな…無理だよな。あいつは俺を助けて、俺は結局何も…」


「こら~~~!いい加減開けろ!マスターキーを持ち出すぞ!」


「うるせぇ!お子様!!」


「リタが!リタが起きたんじゃ!!わしらが行かなくて誰が行くんじゃ!」


「リ、リタがっ!それを早く言え!」


 さっきまでうるさいと思っていたマリナの声が、一気に女神の声に聞こえて来た。


「言っとるじゃろうが!とにかく行くぞ」


「お、おう!」


 バンッ


 俺は扉を勢いよく開けるとマリナを見つめる。


「来たか。遅いぞ!」


「わりぃ」


「行くぞ、まずは顔を見んとな」


「ああ」


 マリナと2人でリタのいる病室に駆けていく。



「面会時間はなるべく少なくお願いします。まだ目が覚めただけですので…」


「分かった」


「ああ」


 部屋の前で俺たちはリタとの面会について注意を受ける。長く会えないのは残念だけど、わずかでも話せるだけで今は嬉しい。


「リタ」


「は、入るぞ」


 病室とはいえ女性が寝ている部屋に入ることに緊張しながら、俺は部屋に入っていった。


「ん?誰だ…」


「リタ、目を覚ましたか!」


「大声も禁止です」


 興奮して思わず声を荒げたマリナにリタの世話をしていた女性から注意が入る。でも、気持ちは分かるぜ、マリナ。


「す、済まぬ…」


「殿下…来てくださってありがとうございます」


「別に喋らずともよいぞ。当たり前じゃ、大事な護衛騎士何じゃからの」


「リタ、俺…」


「ロウ、聞いたぞ。あいつを倒してくれたんだな」


「ああ。でも、俺がもっと早く…」


 俺がそう言いかけると、リタは首を振って続きを言うのを制した。


「言うな、お前がもっと早くだなんて。私が残っていても奴には何もできなかった。お前はできることをした。あの中でお前だけができることをな」


 まだ辛いだろうにリタは笑顔でそう言ってくれる。


「だけど、そのせいでリタが…」


「そのお陰で殿下も守れたし、あいつも倒せたのだろう?私に感謝しろよ」


 まだうじうじする俺にリタは気遣ってくれる。リタにこんな顔をさせちゃだめだよな。俺は気持ちを切り替える。


「ああ。お前が元気になったら何でも言うことを聞いてやるよ」


「ふっ、約束だぞ。うっ…」


「リタ!?」


「これ以上は体に障ります。今日はどうか…」


「分かった。リタ、また来るからの」


「はい」


 面会を済ませ、マリナとともに俺は部屋を出た。



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