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異形の魔物

 マリナやセドリックと戦闘不能の騎士達を下がらせた俺たちは、いよいよ問題の相手に目を向ける。

「いいのか?この状況では一人でも戦力が必要だぞ?」


「だけど、警戒していたお前でもあれだけ気分が悪くなったんだ。人数がいても変わらないかもしれないだろ?」


 リタは戦力低下を気にするが、正直俺が感じてるプレッシャーを思えば、あまり変わらない気がしていた。


「それは…」


「!」


「どうした?」


「近づいてくる!オークランド隊長!!」


「総員!構え!!」


 こっちに近づいてくる相手に対処するため、隊長が隊列を整えるように指示を飛ばす。


「「はっ!」」


 合図を受けて、俺たちとこの場に残った14人の騎士が一斉に構える。そこから現れたのは…。


「なんだ、あいつ?」


 脇道から目の前に飛び出て来たのは6本の腕にそれぞれ剣・斧・槍・鞭・ハンマー・鎌を持った異形の顔を持つ魔物だった。しかも、それぞれの武器には魔物の血と思われるものがおびただしく付着しており、今も地面に流れている。


「こ、これが、大熊か?」


「そんな訳あるか馬鹿者!行くぞ!!」


 俺の的外れな意見をリタが一蹴し、攻撃の音頭を取る。


「お、おう!」


 気後れしながらも俺もアラドヴァルを構えようとするが…。


 ブゥン


「何っ!?」


 奴がゆっくり武器を振るう。その動きに嫌な予感がした俺は直ぐに横へ飛びのいた。


 ズバッ


「うっ、ぐぅ…」


「な、なにっ!?今どうやって…」


 俺の悪い予感は当たり、斬撃のようなものが飛んでいたらしく、その線上にいた騎士が傷を負う。


「よ、避けて正解だったな。こりゃあ、目的を聞くこともできねぇな。くたばれ!」


 バァン


 相手の気迫に押され、及び腰ながらも俺は引き金を引き、アラドヴァルが火を噴く。そして一直線に弾丸がおぞましい魔物へ向かっていく。


「よ、避けた?どうして…」


 アラドヴァルは弾数制で実弾のように見えるが、実弾ではない。あれだけ速い弾をどうやって避けた?


「くそっ!もう一度…」


 バァン


 再び、アラドヴァルが火を噴く。しかし、またしても避けられる。


「なんでだ?どうして!?」


「危ない!」


 当たらないことに気を取られていた俺は眼前に迫ってくる槍に気が付かなかった。


 ザシュ


「リ、リタッ!」


「だ、大丈夫か?」


 銃を撃つために立ち止まっていた俺を庇うように、リタが立ちはだかり傷を負う。槍が突き刺さった箇所からは血が滴っており、傷の深さが見て取れた。


「なんで!?」


「こ、この場で…あいつを倒せる、のは…アラドヴァルだけ…そうだろう?」


「だからって…」


 リタの言う通り、他の騎士達もあの魔物に押され、今や半数になっていた。


「殿下を…マリナ様を頼むぞ…」


 そう言うとリタは意識を失った。


「リタ――――!てめぇ!許さねぇぞ。アラドヴァル!奴の核を狙う!」


 ヒュイーン


 俺の言葉を合図に今までブローハイパワーの外見をしていたアラドヴァルが姿を変える。


「こ、こいつはスモルソン!?何でもいい、やってやるぜ!」


 俺は姿を変えたアラドヴァルを改めて魔物に向けるとためらうことなく引き金を引く。


 ガン


「な、なんだ、この感覚!?もう一度引けってのか!」


 ガァン


 引き金を一度引くと、まるで周囲の風景が止まったように感じた。そして、続けてもう一度引くと、最初に発射した弾丸に後で発射した弾丸がぶつかって、新たな弾丸が生まれる。


「ガァァァァ!」


「しまった!?また避けられる?」


 しかし、俺も魔物もかわしたと思った弾は軌道を変え、再び魔物の頭へ到達し撃ち抜いた。脳天を撃ち抜かれ遂に魔物の動きが止まった。


「こ、これが、アラドヴァルの真の姿か?そうだ、リタ!!」


 今はそんなことより、リタだ。頼む、生きていてくれ!


「息は…ある!これなら何とか行ける!怪我人をセドリックたちの元に運ぶんだ。リタは俺が運ぶ!もう一人手伝ってくれ」


「はいっ!」


 流石に一人では重たいし、時間がないので2人掛かりでリタを運ぶ。


「頼む…死ぬなよ」


 そして、なんとか俺たちは森の入り口まで戻った。



「ロウ!無事じゃったか?」


「ああ、それよりリタを診てくれ」


「こ、これは!?どうしてじゃ!お、お主のアラドヴァルはどうした!!」


「済まない。あまりに魔物が強くて当たらなかった…」


「そ、そんなことはいい!なんでリタを…リタを守ってくれんかったんじゃ!」


 涙を流しながらマリナが俺に詰め寄ってくる。だが、俺には何も言い返す言葉がなかった。体調が悪いまま戦いにつき合わせたのも俺なら、この傷だって俺を庇ったものだったからだ。


「姫様、今はリタを…」


「す、済まぬ。頼むセドリック。他に回復魔法が使える騎士は?」


「私が!」


「急いでくれ!」


「はっ!」


 最も重症のリタから回復魔法が得意な騎士がついて癒しの呪文を掛ける。他に傷を負った騎士も順次回復魔法で傷を癒していく。


「ど、どうじゃ?」


「なんとか、命は繋ぎ止めましたが、急ぎませんと…」


「何じゃと!セドリック!」


「はっ!」


「ここから伯爵の邸と王都。どちらが近いか?」


「道の安全と距離を考えれば王都かと」


「全員に次ぐ、今すぐ王都に帰還する!」


「よ、よろしいのですか?我々の調査は…」


「調査などいつでも良い!急げ!!」


「はっ!」


 オークランド隊長の発言を制し、マリナが指示を出す。負傷者も騎士団の回復魔法によって、傷は癒えた。なんとか歩くこともできるだろう。ただし、5人を除いては…。


「このものたちは?」


「運ぶ時には既に…。あの魔物は非常に強力でした」


「そうか。すぐにマジックバッグに入れる。必ず届けねばならん」


「はっ!」


「マジックバッグに人が入るのか?」


「死者ならな」


 目線だけを俺に向けマリナが答える。


「それなら、少しだけ森へ入ってくれ」


「今はそんな時では!」


「あいつのお陰で倒せた魔物の死体があるんだ。あいつは普通じゃない…」


 俺も一刻も早くリタを送り届けたかったが、俺が倒したあいつは異常な強さだった。持って帰ったら治療の役にも立つかもしれない。


「姫様、どの道近くは通ります。それに、魔物がどのようなものか分かれば、治療の対応も…何卒」


「…分かった」


 俺たちは急いで魔物の死骸を回収すると、そのままリタを乗せた馬車は王都へと急いだ。



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