設営と夕食
「ふ~、こんな感じだな。後はと…」
「疲れただろう。飲め」
「おっ、サンキュー」
設営の手伝いをしていると、リタが飲み物を持って来てくれた。リタからもらった差し入れを遠慮なく飲み干す。
「ふ~、生き返る~」
「まるで死んだことがあるような言い方だな」
「そうか?結構普通の言い回しのつもりなんだけどな」
「変わった場所だな、お前の生まれたところは」
「ここからするとそうかもな。でも、いいところだぜ。争いは…あるけど、俺の国はそこまでじゃないし。夜道だって女一人でも歩けるしな」
旅行番組とかじゃ、海外に行ったら絶対夜は歩くなって言われてるしな。
「それはすごいな」
「ま、俺は男だし心理的にはこっちでも変わらないけどな。」
「む、それはそうだな。私のようなか弱い女だとこっちじゃ、夜はびくびくしてしまうからな」
「そうかもな。お前って腕は立つんだろうけど、体格はそんなでもないからな~」
リタは背こそ170cmほどあるものの、それだって男からすれば高い方でもない。それに、筋肉質ってほどでもないし、外見だけ見てるとなぁ。
「な、なんだ、そんなに見て!大体、私がか弱いように見えるのか?」
「ん~、少なくとも強いって感じじゃないな。ほら、リタって別に筋肉質でもないからな!」
「なっ!いつもどこを見ているのだ!」
「何怒ってるんだよ。褒めたのによ」
「それのどこが誉め言葉だ!全くお前というやつは…」
それだけ言うとリタはどこかへ行ってしまった。
「なんだ、あいつ?」
「リタもまだまだ子供だからな」
「おっ、セドリックの方はもういいのか?」
「ああ、テントの設営もほぼ終わった」
「早いな。食事の方は?」
「今から焼くところだ。昨日の肉がまだある」
「それに今日の分もあるよな。しばらくは肉続きか…」
肉は好きだが、肉ばっかりってのもな。ぜいたくな悩みだが。
「嫌か?」
「肉は好きだぜ。リタに取られないともっといいけどな」
「それはそうだな」
この前のことを思い出して俺が言うと、セドリックも同意してきた。ひょっとしてリタのやつセドリックの分も取ったことあるのか?それから少しして、料理係が肉を焼き始めた。一番に焼けた肉はリタが少し味見をして、マリナに渡す。
「リタ」
「なんだ」
「マリナに肉渡す時、残念そうな顔してたぞ」
「嘘だ!」
「うん、嘘」
「お前は~!」
ちょっとからかってやっただけなのに、リタは剣に手をかける。
「ちょ、待て!剣に手をかけるな!」
「うるさい!」
バタバタバタ
「何をしとるんじゃ、あいつら。明日も捜索だというのに…」
「剣を避ける訓練ですか?」
「セドリック、それはいかんじゃろ。リタのやつ、ちょっと本気じゃぞ?」
「ですが、リタは斬れません」
「ならよいか。ほれ、お前らもちゃんと食べるのじゃぞ。戻って来なければあの二人の分も食べてよいからな」
「はっ!」
「待て、リタ!何か嫌な予感がする…」
俺の中の第六感が嫌な予感を感じ取った。それを素直にリタに伝えるものの…。
「それは死の予感か?」
「違う!話を…」
「問答無用!」
「あ~あ、誰かさんのせいで切れ端しか食えなかったな」
「お前のせいだろ」
あれからもしばらく走り回っていた俺たちが冷静さを取り戻し、食事をしに戻るとほぼ肉はなくなっていた。セドリックに尋ねるもマリナの指示を受けてと言われれば、俺もリタも何も言えなかったのだ。
「うるせ~、あんなに暴れまわるやつが悪いんだよ」
「逃げるからだ」
「誰でも逃げるわ、あんなもん。お前はいいよな、最初に味見の分は食べてるんだし」
「ひ、一切れだけだぞ。一切れだけ…」
リタがその時の味を思い出したのか、しょんぼりする。
「そんなに残念そうにするなら食事中は大人しくするんだな」
「お前がいらないことをしなければな」
「「はぁ…」」
言い合ったところで肉は戻って来ない。お互いにそれを悟ったところで俺も気持ちを切り替える。
「ちゃんと見張りの交代の時、起こせよ」
「その前に起きるんだろうな?」
「起きるよ」
「よ~し、そこまで言うなら明日の朝食を賭けよう」
「騎士が賭け事なんていいのか?」
「これは相手を分析する訓練だ」
リタのやつ賭けるなんて言い出すとは、これは何か考えてるな?だが、どうせ大したことないだろう。
「物は言いようだな。乗った!」
「ふっ、泣きを見るなよ」
「リタこそな」
「私は負けん!」
一応、釘を刺しておくか。
「あっ、それと起こさないのは無しだぞ?」
「何っ!?」
やっぱり、つまらない企みだったか。こうしてみると、リタが主席だっていう騎士学校も大したことないんじゃないか?
「お前やっぱりそうするつもりだったのか。肉ひとつのために浅ましい奴め」
「浅ましいだと!肉は必要なんだ、活力だぞ」
「危ない宗教にでもはまってんのか?食い過ぎはダメなんだぞ」
「肉は食べ過ぎることはない」
「なんで断言できるんだよ。まあいい、ちゃ~んと起こせよ、起きるまでな」
「まて、それでは私が勝てないではないか?」
「当たり前だろ?なんで俺が負ける勝負をするんだ?」
「卑怯だぞ」
「起こさずに勝とうとしたお前に言われたくはないね。大体、見張りをしないのはダメだろ?仕事優先だ」
ここぞとばかりに俺は正論を吐いてリタを言い負かす。全く、口の方はまだまだ甘いな。
「くそっ!次は覚えていろよ」
「次があるのかよ」
「まだまだ野営のチャンスはあるからな」
「野営がチャンスとか、やっぱりお前って脳筋だな」
「なんだと!」
「おい!」
「なんだ!」
「うるさいぞ、リタ」
「で、殿下!申し訳ございません」
ヒートアップしていた俺たちはいつの間にかマリナが馬車から出てきて声をかけて来たのに気づかなかった。
「よい。ではな」
「はっ!」
「怒られてやんの」
「…」
「さて、俺も寝るか。おやすみ」
「…おやすみ」
「やれやれ、とんだ騎士様だ…」
流石にちょっと気まずくなったので、そそくさと退散する。まあでも、しょうがないから勝負に関しては負けてやるか。そう思っていた俺だったが、寝起きにそんなことを覚えているはずもなく…。
「起きろ、ロウ」
「ん?なんだ?」
「本当に起きてどうする」
「ふわぁ、おはよう」
「くそ、さっさと見張りを交代しろ」
「わかったよ。おっと、鎧だ」
寝る時に着けている鎧を外したので、着込んで外に出る。何もないといいんだけどな。




