2度目の野営
「まずはどこに行くんだ?」
ベイルン伯爵の邸を出発した俺たちはとりあえず、町の出口に向かっていた。
「目撃情報から町の北側じゃな。そのまま草原を避けるように北の山側を抜けるルートで王都方面に向かう予定じゃ」
「げっ!?それってまさか、また野宿か?」
「しょうがないじゃろ?情報を元にするとこのルートがいいんじゃから」
「それじゃあ、しょうがないか。気を引き締めないとな」
野宿は嫌だが、途中立ち寄った街に泊まって草原を南北に横断する訳にもいかないしな。
「なんじゃ、えらくやる気じゃのう…」
「そいつは町の人を襲ってるんだろ?それなら早く見つけた方がいいだろ」
「…そうじゃな。皆の者!必ず我らの手でベアー種の魔物を退治するのじゃ!」
「「おおーーー!」」
マリナの号令を合図に町を出た騎士団を率いながら北側のルートを進む。
「はっ!」
「でやっ!」
「魔物が報告より多いのう」
町を出発して2時間ほど。ベイルン伯爵領へ向かう時とは真逆で、魔物の襲撃が相次いだ。
「そうですね。ゴブリンやコボルトなど下級のものばかりですが、もうこれで3度目の襲撃です」
「可能性としては?」
「強力な魔物が出たせいで弱い魔物が押し出されているのかもしれません」
「やはりその可能性か…先に進むぞ」
「はっ!」
魔物の出現した場所や特徴を書き留めながら俺たちは進んでいく。しかし、出遭う魔物は下級のやつばかり。騎士たちにとっては準備運動代わりだ。
「数だけは多いな」
「小隊長殿!こちらへ」
「これは…リタ様!」
「どうした?」
「ここに足跡があります」
「見せて見ろ」
その後も騎士達が下級の魔物を仕留めていると、前方の部隊から足跡の報告があったので、俺たちもそこに向かいリタと一緒に俺も見せてもらう。
「結構大きいな。これだと3mは越えてそうだ」
「ああ。みんな!気を抜くなよ。強襲を受ければただでは済まんぞ!」
「了解であります!」
遂に本命を見つけたかと思い足跡を追いかけて進んでいくと、やはり山に当たった。
「この先の山を越えれば私たちが出会った森だな」
少し感慨深そうにリタが呟く。そうか、この先の森が俺の転移してきた場所なんだな。それにしても…。
「はぁ~、またあんなのに出くわすのかよ」
「そうとも限らん。ロウが倒したヴァリアブルレッドベアーが、あの足跡の持ち主かもしれん」
「セドリックの言う通りならいいんだけどな。期待しないでおくよ」
「うむ。最悪を考えておくことは重要じゃからな。行くぞ!」
マリナの合図とともに俺たちは再度進む。幸い、こちらのルートでも道は悪いものの、馬車は通ることができ、そのまま今日の野営場所まで行くことができた。
「少し予定より遅れたが、なんとか着けたか。つかれたのう」
「まあこんな道じゃあな。やっぱり、馬車の改善が必要だろ?」
「そうじゃな。誰か職人を探すとするか」
まだまだ油断はできないが、ひとまず野営場所に着いたことでリラックスしてマリナと話す。
「その時は俺も連れてってくれよ」
「ロウをか?なんでじゃ」
「俺の方が馬車には不満があるからな。きっと、いいものになるぞ」
「クレーマーにはなるなよ?良い職人は気難しいものも多いからのう」
やや遠い目をしながら俺に注意を促してくるマリナ。王族でも職人相手は勝手が違うのか?
「王族でもその辺は気にするのか?」
「気にするも何も、わしらが使う魔道具の大半はそういうものが作っておる。わしらも作ってもらえぬと困るのじゃよ」
「まさに手に職だな。おっと、テントの設営を手伝うか」
「前回、邪魔になると言われておらんかったか?」
「それは組み立てのところだろ?広げるだけとかやれることはあるさ」
「案外まじめなんじゃな」
「こう見えても一応は体育会系部活に入っていたからな」
「部活?学園にあるやつかのう。それで、何部に入っておったんじゃ?」
「ああ、弓道部だ。と言っても分からないか。弓を射るところだ」
「おお!弓か、それならわしも少しはできるぞ!」
「あ~、多分マリナじゃ無理だな。おっと、先に手伝ってくる。そんじゃな!」
弓道で使う和弓はアーチェリーと違って、引くだけでもかなり力がいるからな。マリナの想像している弓とは訳が違う。和弓は真っ直ぐ飛ぶ分、引くのに力はいるし連射できない。半面、アーチェリーは引く力は少なくて連射もできるが、軌道が弓なりになる。どっちがいいかは場合に寄りけりだな。少なくともマリナに和弓は無理だろう。
「あっ、おい!ちょっと待て…行ってしもうた。なんじゃバカにしおって。弓ぐらい引けるというのに…」
「まあまあ、殿下。お疲れでしょうから、馬車に戻ってお休みください」
「うむ、そうしよう。後は任せたぞ、リタ」
「はっ!」
マリナたちの元を離れた俺はというと、テントを設営中の騎士に話しかけていた。
「さ~て、手伝いますか。なあ、これどこ運んだらいいんだ?」
「ご、護衛騎士様!?これならあちらですが…」
「おう、分かったぜ!」
俺はどんどん設営用の物資を運んでいく。ちょっと重たいものもあったが、俺の武器はアラドヴァルのみ。行軍中も馬車の中が主なのでこういう時に力仕事を頑張らないとな。
「て、手伝っていただけるのはありがたいのですが、よろしいのですか?その…護衛騎士の身分は仮なのですよね?」
「えっ?どうしてだ?」
何度も往復していると親しみを持ってくれたのか、騎士の方から話しかけてきてくれた。しかし、どうにもその内容が理解できない。一体、何の話なんだ?
「殿下とも親しげでしたし、同盟国から留学中かお忍びで来られている他国の貴族の方だと噂ですが…」
「ぶっ!違う違う。普通の一般人だって!」
「そ、そうなのですか、我々はてっきり…」
まさか、騎士団の中で噂になってるとは思わなかったな。う~む、だけど考えてみたら馬に乗れない事情を全員が知ってるとも思えないし、しょうがないか。それは俺が馬に乗れるようになったら解決することだし、もうしばらくの辛抱だ。うんうんと納得すると、その後も俺は設営の手伝いをこなした。




