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草原の街

 見張りを始めて少ししか経っていないのに、俺はもう暇になってきていた。


「何もしないでずっといるのって大変だな。でも、見張りは欠かせないし…」


 こういう時、魔物を感知する魔道具とかあったらいいのにな。そんなことを考えながら、時間が過ぎていった。そして数刻後…。

「おっ!騎士が旗を変え始めたな。そろそろ時間か」


 俺もリタのテントに入って交代の準備をする。


「お~い、リタ起きろ~」


「うん…分かった…」


「な、何だよ。おかしな返事すんなよ」


「ん…ん!?ロウ!」


「でかい声も出すな」


「す、済まない」


「実はリタも寝起きは弱いのか?」


「ん~、ちょっとな。だが、もう大丈夫だ。起きる…」


 そう言いながら少しおぼつかない足取りでテントを出るリタ。しかし、グイ~ッと伸びをすると目が覚めたようでそこからはいつものリタだ。


「ふぅ、手間をかけたな」


「いや」


「お前のテントはないから私のテントを使え」


「いいのか?」


「ああ、別に広いから構わん」


「じゃあ、遠慮なく使うぞ」


 しかし、この時まだリタは完全に目が覚めていなかった。それを俺は朝、知ることになる。




「な、な、な、なにやっとるんじゃ~~~!!」


「わっ!?なんだ…マリナか」


「マリナか。じゃないわい!お主なにしとるのじゃ!」


「何って、見張りが終わって寝てたんだが?」


「そっちに居るのは誰じゃ?」


「は?え、リタ?」


 俺の横にはリタが寝ていた。いや、確かに考えてみれば、このテントが広いといってもしょせん一人で寝るにはだ。2人寝ようと思ったらそれはこうなる訳で…。


「殿下…どうなさったので?あ」


「リタ、お前も何をやっておるのじゃ、全く」


「で、殿下これには訳が…」


「なんじゃ」


「その…昨日寝ぼけてロウに私のテントを使って良いと言ったのですが、自分がもう一度寝ることを忘れておりまして…」


「はぁ、今までそんなことなかったじゃろ?」


「今まではセドリックと交代でしたので、次に寝ることがなかったのです」


「そう言えば、大体護衛は2人だけじゃったな。それにしてもよくこやつと寝れたのぅ」


 ジトーッと俺の方に目を向けてくるマリナ。いやいや、俺は先に寝てたんだからどうしようもないだろ。


「ひどい言い草だな」


「まあ、悪いやつではないですし、見張り交代の後に自分のテントに戻らないのもおかしいと思いまして…」


「そういうことならわかったのじゃ。ただし、今度からはもう少し大きいテントを用意するか、こやつ用のも用意するのじゃ。びっくりしたぞ全く…」


「申し訳ございません」


「いや、わしも騒いでしまったの。それはそうと朝食の時間じゃぞ」


「もうそんな時間ですか、すぐに参ります」


 こうしてのちに影で『親衛隊同衾事件』と呼ばれる出来事は幕を閉じた。まあ、大袈裟に広められなかったのが救いだな。



「ふわぁ~」


「なんじゃ、昨日も良く寝ておったじゃろ?」


「いや、マリナと違って俺は最初、見張りをしてたからな」


「見張りと言っても4時間程度じゃろ?」


「慣れてないから疲れたんだよ」


「そうか。そのおかげでわしが良く寝れたのじゃから感謝じゃな」


「おう!」


「そう偉そうにされると感謝する気になれんのう」


「まあ、護衛の仕事だしな」


「仕事のぅ」


「何か気になることでもあるのか?」


「いや、それより伯爵の依頼の方が気になる。騎士団の派遣依頼なんぞ滅多に来んからな」


「そうなのか?そういえば、今回も騎士団長は来てないよな」


 今回マリナに付いてきているのは第1騎士団所属の騎士たちだ。しかし、騎士団長どころか副騎士団長も来ていない。


「第一騎士団の役目は王宮の警備じゃからな。流石に騎士団長はこれぬわい」


「王女の護衛にもか?」


「それで父上に何かあったらどうするのじゃ?それこそ騎士団長の責任問題になるじゃろ」


「騎士団って不便なんだな」


 せっかく、いくつにも分かれて組織されていても、上手くいかないもんなんだな。


「大事なものが順序付けられておるだけじゃ」


「面倒くさいな、それ」


「だからこそ自由に動けることもある。わしも第二王女でなければここまで自由にさせてもらえんからの。何かあっても代わりがいるからこそ、できることもあるんじゃ」


「マリナの代わりはいないと思うぞ、俺は」


「そうか。覚えておく」


 それっきり、1時間ほど俺たちの会話は途切れ、次の休憩まで無言で馬車は進んでいった。


「ん~、やっぱり草原はいいのう。壮大な感じがして」


「そうだな。しっかし、広い草原だな。何か活用してるのか?」


 今は森を抜けて俺たちは草原を進んでいる。ところどころに柵もあるから普段から人の手が入ってるんだろう。


「うちでは川が流れているところを利用して農業をしておるな。この国の穀物生産もこの辺が盛んなのじゃ」


「手間いらずって訳か。でも、水場だと魔物もいっぱいいるんじゃないか?」


「そうじゃな。だから、水を引いて草原はそこまで手を出しておらぬ。あんまりいじりすぎても、人の生活圏に来てしまうからの」


「色々考えてるんだな」


「自然とは共存せねばならんからの。無理に食い込めば手痛いしっぺ返しを食う。過去の教訓じゃ」


「教訓?何かあったのか?」


「うむ。一度草原の3分の2まで人の手を入れたことがあったのじゃが、魔物の生息域が押し狭められた結果、あふれるようにその土地に一気にやってきたのじゃ。魔物の襲来に備えて騎士や兵士も常駐しておったが、あまりの数に作ったばかりの町は滅んでしまったのじゃ。以来、草原の開発は王家に許可をもらわねば出来ぬようになっておる」


「そりゃあ、大変だったな。今もその決まりは守られてるのか?」


「大体はな。不届きものがたまに、魔物の卵を狙うようじゃが」


「魔物の卵なんてどうするんだ?」


「魔物の種類によってはふ化させて懐かせるのじゃよ。貴族以外にも冒険者の中には魔物使いと呼ばれるものがおるのじゃが、そういう輩はそうして戦力にするそうじゃ」


「そりゃあ、何とも言えないな」


 魔物にはいい迷惑だろうが、魔物使いにも生活があるし、しょうがないだろう。


「なんにせよ。町に飛び火せんことが重要じゃ。どんな魔物がいるかもおおよそでしか、わからんからのう」


「調査とかはしないのか?」


「どれだけ魔物がいると思っておるんじゃ。そんな暇があったら別のことをするわ」


 調査も大変とかこの草原にはいくらの魔物がいるのやら。


「でも、その草原を抜けるんだろ?安全なのか?」


「ここはルートが構築されておる。魔物の生息域もそのルートの近くは調べてあるし、定期的に騎士団も通るから、魔物の方も寄って来んわい。途中には町もあるしの」


 マリナが言うには山肌に沿って道が作られていて、さらに中間地点に町もあるらしい。今日は野営でないと知ってほっとする。


「これで今日は野営しなくて済むな」


「はぁ、ロウよ。昨日の話覚えておるか?今日は伯爵の家まで行くのじゃぞ?」


「おお、そういえばそうだったな」


「しっかりせい。全く、帰ったら地理の勉強もせんとな」


「ほ、ほどほどにな」


 乗馬の練習もあるし、あまり詰め込み教育は良くないからな。そんなことを思いながら時間が経つのを待つ。街で泊まりはしないが、1時間後には街で食事だけ取るみたいだ。




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