光の先で
「う、ん?」
光に包まれて意識を失った俺が目を覚ますと、目の前には人が立っていた。
「ようこそ!強き意思を持つ若者よ!」
「なんだ、お前は?」
「私は女神アッシラト。新たなる世界への道を切り開いた若者よ、名は何という?」
「九、朗だ」
あまりに急に名前を聞かれたため、少しどもって答えてしまった。しかし、こいつは何者なんだ?自分で女神とか言い始めるし…。
「ほう?ロウと申すのか。うむ、よい名だ。その名を異界でも轟かすがいい!」
「いや、俺は九朗だって。まあ、そこはいいか。異界って何だよ?」
名前のことは一旦置いといて、それより今はこのとんちきな内容を話す自称女神だ。確かに衣装からはそれなりに神聖さを感じるが、背はちっさいしあまり威厳は感じられない。
「そなたは選び取ったであろう。異界への道を開くものを」
「ひょっとしてこれの事か?」
俺はいつの間にかパッケージがなくなり、手に収まっていたブローハイパワーを持ち上げる。
「うむ。それは願いの玉と呼ばれており、持ち主の思考を受けて形が変わるのだ。それを手にするものは同時に異界への扉を開くことができる」
「はぁ?なんだよそれ、そんなこと聞いたことないぞ?」
「知らんのか?どの世界でも当たり前の事なのだが…」
「俺のとこじゃ非常識なんだよ。さっさと帰してくれ」
「しかしなぁ。もう地球の神からは許可をもらってしまったしのぅ」
困ったという顔をして女神だという存在がぴらりと1枚の紙を俺の目の前に突き出す。
『下記の者、願いの玉の所持者であることを認め、この世界からの旅立ちを許可し、返品不要』
紙にはその一文と、でかでかと俺の顔写真らしきものが載っていた。
「なんだよこれ!返品不要って物か俺は!」
「願いの玉は多くの世界に影響を及ぼすからのう。反対したら面倒なのだ」
「くっそ~!俺は諦めねぇぞ。あっ、ちなみにこの銃は何ができるんだ?」
それはそれとして、憧れの銃の性能は気になったので聞くだけ聞いてみる。
「うん?お前の思った通りの効果になるぞ。まあ、一度しか決められんがのう」
「本当か?本当に何でもできるようになるのか?」
だったら、想像が膨らむぜ!俺はあ~でもない、こ~でもないと考えを巡らせ始めた。
「いや、何でもではないぞ。せいぜい一つだな。まあ、ひとつといっても込められる力自体は大きいが」
「…それならこれはどうだ。『この銃は全てを貫通する!』できるか?」
俺は頭の中で浮かんだものの内、最も有用そうで”銃”というカテゴリーに合いそうなものを選び出した。
「願いの玉ならできるだろう。しかし、本当にそれでいいのか?もっとこう…威力を調節できるとか」
「調節なんていらないぜ!要は全部一撃ならいいんだろ?」
ハンドガンには明確な弱点がある。それは戦車のような大型の兵器に無力だということだ。だが、この効果ならどんなに装甲が硬くても無意味だ。そこに元々の携帯性と連射性が加われば、敵はないはずだ。
「いやまあそうだが、スライムみたいなのはどうするのだ?」
「スライム?あんなの殴ってでも倒せるだろ」
女神も案外バカなんだな。素手でも倒せるモンスターを例に出すなんて。自称なだけはある。というか、絶対偽物だろこいつ。
「お前の世界の常識はどうなっているのだ…ちょっと見るか」
そういうと女は地球の方をのぞき込む。それにしても、地球が足元に見えるって不気味だな。
「ふむふむ。このゲームとやらのやつを見て育ったのか。こういうやつは滅多に居らぬ。不定形の魔物は核を持つがそこに当てるのは難しいぞ?」
「それなら、何か追加で消費して効果をあげれば解決するように設定すりゃいいだろ?」
「まあ、それでいいならよいが…」
「いいからさっさと送れよ」
「なんだ、急に行く気を出して…」
「どうせ送られるんだろ?それなら行った先でさっさと戻る方法を探すぜ!」
まあ、どうせこれも白昼夢みたいなもんだろうし、こんな女神を騙る女の相手をするのは時間の無駄だ。真面目に相手をするのに疲れた俺はそう考えて会話を打ち切るように発言した。
「すんなり行ってくれる分にはいいか。よしっ!最後にその銃に名前を付けるのだ。そうすることで願いの玉は一つの物質として形を持てる」
「分かったぜ!この銃の名前は…アラドヴァルだ!」
「『アラドヴァル』か…登録したぞ。お前の望んだこと以外の性能に関しては元になった銃を参考にしておくぞ」
「ん?ああ、そりゃそうだな」
「では、性能は『装弾数は13発で射程は50m。単発であらゆるものを貫通し、複数使用することで相手の核など弱点を撃ち抜く性質を付与する』だな」
うんうんとその性能に納得する俺だったが、ふとあることに気が付いた。
「あっ、弾はどうなるんだ?俺は作れねぇぞ?」
「それなら、お主の魔力を使って作れるようになっておる。1日に6発は作れるだろう」
「6発か…少なくねぇか?」
「弾薬の性能が高いから妥当なところだ。では送るぞ、目を瞑れ」
「分かった」
俺は目を瞑ると女が何やら唱えている。しっかし、夢のくせにえらく本格的だよなぁ。
「では、新たな世界での活躍を期待しているぞ、ロウよ!」
こうして俺はなぜか異界に行くことになった。目が覚めるまでの間だが。
「あっ、そういえば名前の訂正し忘れたな。まあいいか。浩二、ちゃんと幸子に土産渡せよ!」
一応、自称女神とやらに最後は合わせてやって、俺は最後にそう呟いた。