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野営地

 俺たちというかマリナの一行は順調に1日目の行程を終え、野営地についていた。


「ん?村とかないのか?」


「あるぞ」


「じゃあ、なんで野営なんだ?」


 村があるならその方が安全だろうし、何か理由でもあるのか?


「この近くの村は小さいからのう。わしが泊まると逆に迷惑じゃ。それに、伯爵領までできるだけ早く行きたいからの。この場所で野営をすれば、明日の夕刻には着くんじゃ」


「そういうことか。でも、マリナはそれでいいのか?大変だろ、野宿って」


「まあ、大変ではあるがわしは準備をせんからのう。騎士たちに比べれば楽なもんじゃ」


「そりゃあそうだけど、いつもと環境がガラッと変わるだろ?」


「なんじゃ、心配してくれるのか?」


「ま、まあ、一応護衛だしな」


「一応とはなんじゃ!心配してくれたのはうれしいがの。安心せい、お主と出会う前から経験豊富じゃからの」


「そうか。なら、俺は初めてだからよろしくな、先輩」


「うむ。任せておけ!」


 心配していたが、どうやらマリナは商人の娘として野営経験は豊富らしい。つくづく王女らしくないやつだ。


「ロウ」


「ん?リタかどうした?」


「お前、テント設営の経験はあるか?」


「ない!」


「威張っていうことか…。分かった、殿下を頼むぞ」


「え?手伝わなくていいのか?」


「慣れていないものが手伝うとかえって邪魔だからな。それより、周囲に気を配ってくれ」


「分かった」


 気を配るっていっても、見ることぐらいしかできないんだけどな。


「でも暇だし、ちょっと集中してみるか」


 俺は心を落ち着けて目を閉じる。そうすることで感覚が研ぎ澄まされて周囲の音を拾いやすくなるのだ。


「これは設営の音。こっちは指示を出すのと聞く側の声。これはいらないな」


 そして、どんどん不要な音を切っていく。


 ガサッ


「ん?」


 その時、馬車から離れたところで変な音がした。草むらを踏む音だ。


「お~い!リタ」


「どうした?」


「誰か草むらに入ってるか?」


「いや、馬に薪も括り付けているから、誰も木を探しに行ったりはしていないぞ」


「それじゃあ、変だな。あっちの草むらで音がしたんだ」


「何っ!?ヘルスマン!」


「はっ!」


「部下を連れてあそこの草むらを調べろ!」


「テントの設営は?」


「そんなものは後回しでいい」


「了解です!」


 リタの指示を受けて、3人の騎士が草むらに入ろうとする。


「うわっ!?隊長!オークがいます!」


「なんだと!総員、迎撃用意!!」


「魔物か!助かった、ロウ」


「いや、俺はどうすればいい?」


「殿下についていてくれ。私もここにいる」


「分かった」


 外に出ていたマリナが馬車を背に、その横に俺。そして、それを守るようにリタだ。馬車の反対側にはセドリックが回り込んでいる。そして、設営中だった騎士はすぐさま守への対処に移る。



「攻撃やめっ!残りは?」


「いません」


「確認だ」


 騎士も人数がいたためか戦闘は直ぐに終わり戻ってくる。


「リタ様。6匹のオークがいましたが、全て倒しました」


「そうか、ご苦労だったな。安全が確認出来たらテントの設営に戻ってくれ」


「はっ!」


「なんか慣れてるな」


「こういうことはしょっちゅうだからな。外は大体そうだ」


「ひょっとして一人旅って危険なのか?」


 俺、マリナの護衛にならなかったらそうするつもりだったんだが。


「毎日、寝ないで動ける自信があるなら安全だな」


「絶対無理だろそれ」


「そういうことだ」


 それからテントの設営も完了して、いよいよ食事の時間だ。


「今日の飯って何なんだ?」


「予定では運んできた野菜と肉が少しだったが、さっきのオークのお陰で肉が大量だぞ」


 そう嬉しそうに言うリタ。こいつ肉好きだったのか…。


「オークを食べるのか?」


「お前の住んでいた地域は食べなかったのか?」


「あ、いや、見たことはあったが食べなかったな」


「なら、お前の分も私が…」


「待て!食べないとは言っていない」


「ちっ、分かった。お前の分も私がよそってやろう」


「いいのか?」


「殿下の護衛をしてくれている礼だ」


「わりぃな」


 そう感謝したのもつかの間。なぜか俺の器に入っている肉はマリナのよりもかなり少なかった。最初は王族との差だと思っていたが、飯が終わると唐突にマリナが言ってきた。


「それにしてもお主は野菜好きなんじゃな。肉がほとんど入っておらんかったが…」


「そんなことはないぞ。俺の分は騎士扱いだから少ないんだろ?」


「は?いやいや、別に野営の食べ物が身分でそこまで露骨に変わったりせんわい。どうせ、用意されるものも限られるじゃし」


「じゃあ…」


「リタは肉が好きじゃからのう…」


「くそう!一杯食わされたぜ…」


「一杯しか食えんがの」


「そういうことじゃねぇよ」


 よほどのことがない限り、これからは自分で食事は取りに行こうと決心した俺だった。



「さて、そろそろ寝る時間じゃのう…」


 飯を食べ終わって半時間ほど。マリナがそう呟いた。


「もうか?早いな」


「まあ、明日も早いし起きておってもすることがないしの」


「そりゃそうだ。じゃあ、俺も…」


「お主は見張りがあるじゃろ?」


「えっ!?ああ、野営か。じゃあ、俺はいつ寝ればいいんだ?」


「さてのう。リタに聞いてみればいいじゃろ。ではな」


 それだけ言うとマリナは馬車に入ってしまった。いいご身分だぜ。


「リタ」


「うん?殿下は」


「寝た。それより、俺の見張りの時間ってどうなってるんだ?」


「ああ、そういえば決めていなかったな。ロウは寝起きがいい方か?」


「そんなに良くないかもな」


「なら、最初に見張りをして時間になったら起こしてくれ。その方がいいだろう」


「いいのか?最初の方が楽そうだけど…」


「見張りの経験もないのだ、構わん。今度、王都に帰ったら見張りの仕方も教えてやる」


「そうか。なら、最初は俺だな」


「それと…」


 今までの和やかな態度から一変して真剣な目つきになるリタ。


「どうした?」


「さっきは助かった。まさかあそこまで近くに魔物が来ているとは気づけなかった」


「こんな森みたいな場所だししょうがないさ」


「さっき見張りの仕方を教えるといったが、王都に戻ったらどうやって見つけたか教えてもらってもいいか?」


「いや、あんなの…いいぜ。ただし、ちゃんと帰ってからな」


 あんなの適当にと言おうとしたが、リタの目が本気だったので言うのをやめた。こいつはマリナのことが本当に大事で守るために必要なことは、何でも知りたいんだろう。


「恩に着る。では、交代の時間になったら騎士が旗の色を交換するから、それに合わせて起こしてくれ」


「ん?俺の次はリタか?」


「ああ。そこのテントで寝ているからな」


 リタが指した先には一人用には少し大きいテントが張られていた。今回派遣されている騎士団の副隊長も務めているためらしい。


「分かった。じゃあな」


 こうして、俺は見様見真似で見張りを行うこととなった。


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