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暮らすに当たり

「おはようございます、ロウ様」


「ん?ああ、おはよう」


 かなり疲れていたのか、あれからすぐに寝ていたらしい。ネリアが起こしてくれると、俺は直ぐに目が覚めた。


「昨日はよく眠れましたか?」


「ああ、あの後すぐに寝たみたいだ」


「それは良かったです。では、朝食をお持ちいたしますね」


「頼むよ」


 待っている間、ぼーっとしたままベッドに腰かけていると、ネリアが朝食を持って来てくれた。


「ん、パンとサラダか。こっちの肉はどうやって食べるんだ?」


 運ばれて来たプレートにソースっぽいのも見当たらないが。


「朝は、召し上がられるか分かりませんでしたので。お召し上がりになる場合はこちらのパンにはさんでください」


「分かった。しっかし、朝から結構豪華だな」


 もちろん、昨日の晩餐に比べれば大したことはないんだが、これまでの菓子パン1個の朝食生活から大きな進歩だ。


「ありがたく食べさせてもらうよ」


「承知いたしました」


 俺がそういうとなぜかネリアがパンに肉を挟み、奥にあったソースもかけていく。そして…。


「少し、恥ずかしいですが、あ~ん」


「あ、え?いや、俺は自分で食べるけど…」


「し、失礼いたしました!意味を勘違いしておりました!」


「あっ、そういう」


『食べさせてもらうよ』をネリアは食べさせてくれって思ったのか。う~む、言葉って難しいな。


「よしっ!俺が勘違いさせたのが悪いんだし、今日は頼むよ」


「で、では…」


 こうして俺の朝食は恥ずかしながらもネリアによって食べさせてもらう形になった。


「ごちそうさまでした。うまかったよ」


「ありがとうございます」


「ネリアに食べさせてもらった分、余計にだな」


「もう!それは言わないでください」


 顔を少し赤くしてネリアが答える。


「悪かったよ。それで今日の予定は?」


「はい。今から1時間後には教育係のものが参ります。そこで、礼儀作法や簡単な常識を学ぶ形となります」


「うう~ん、うまくできるかな」


「きっと大丈夫ですよ。私も応援しております」


「ありがとう」


「あっ、それとヴェルデ様より本を預かっております」


「本?ああ、昨日言っていた本だな。ありがとう、タイトルはと…『貴族の心得』」


 そういえば今更なんだが、俺ってこの世界の文字が読めるんだな。人と会話が出来ている時点で当然と言えば当然なんだが。


「こちらは貴族の学園に入る時に支給される本ですね。貴族としての心構えを説くとともに、民衆がどのような暮らしをしているか簡潔に書かれております」


「簡潔にねぇ」


「はい。詳しく書いてもその…」


「分かってるって。ありがとな。合間に読んどくよ」


「それでは片づけが終わりましたら、こちらで控えておりますね」


「控えて?他の仕事は?」


「私はロウ様付きですから。基本的には他の仕事は与えられません」


「それって暇じゃないのか?」


「いいえ、お仕えする方の癖など様々なことに気を配る訳ですから当然です」


「そうか?暇なら本でも読んでいていいからな。俺だけ読んでるのも落ち着かないし」


「そうですね。ロウ様が気になるようでしたら時折、そうさせていただきます」


「ああ、頼むよ」


 そう言うものの、片付けて帰ってきたネリアには本を読むこともなく、ずっと俺の方を見ていたのだった。俺はというとそこそこ気になるものの、なんとか本を読み進めた。


「慣れるまで大変そうだな」



 そして、ここからは勉強の時間だ。部屋も移って担当の教師が入ってくるまで待つ。


 ガチャリ


「失礼いたします」


「ああ」


「今日より、ロウ様の教育を担当させていただきます、エディルと申します」


「あっ、よろしくお願いします」


「時間があまりないということで、そこまできつくは言いませんが、よろしくお願いいたしますね」


「助かります」




「な~にがきつく言わないだ!全然厳しいだろ!」


「何をそんなに怒っておるんじゃ?」


 今日も夕食後にマリナの部屋で話し相手をしているとマナーの話になったので、思わず愚痴をこぼしていた。


「だってよ。厳しくしないって言ってたのに滅茶苦茶厳しかったんだぜ?」


「まあしょうがないじゃろ。今もそんな言葉づかいだしのう」


 そう言いながらマリナがこっちを見ながら笑ってくる。こいつめ…。


「殿下はそうおっしゃいますが、これでも今日の分に関しては合格を頂きましたよ」


「だ、誰じゃお前は?ロウに取りついておるのか?」


「そこまで言うことないだろ?頑張ったんだぞ」


「冗談じゃ。しかし、気持ち悪いから2度と言うでないぞ」


「俺もお前に言ってて気持ち悪かったわ」


「ちょっと待てい!わしにはってなんでじゃ」


「いや、陛下とかには流石に言えないだろ」


「そういう意味か…いや、しかしな。じゃが、さっきの言葉を聞くと寒気がするしのう…」


 何か気になるところがあるのかそれっきりマリナは自分の世界に入ってしまった。なんなんだこいつ。たまにこうなるよな。これ以上いてもしょうがないので、俺は軽く挨拶をしてマリナの部屋を出た。



「戻ったぞ」


「今日は少し早いのですね」


「ああ、マリナのやつがなんか独り言言ってたから置いて来た。ああ、ちゃんと扉の前にいたリタには話してきたから」


「そうですか。姫様が人前で独り言とは珍しいですね」


「そうなのか?まあ、内容も聞き取れなかったし問題ないだろ」


「リタ様に引き継いだのなら問題ありませんね。それでは浴室に案内いたします」


「お、おう」


 昨日の今日で人に洗われるのは慣れないので、返事もどもってしまう。いつか慣れる日が来るのだろうか。


「それはそれで怖いな」


「何が怖いのですか?」


「いや、何にも。それじゃあ向かうか」


 こうして、俺の礼儀作法と常識の勉強の日々は過ぎていき、なんとか4日間で身に付けることができた。




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