俺は全てを貫く銃で王女の護衛となって、異世界を生き抜く

フォートバン王国

お風呂と着替え

「ふう～、緊張した～」

　国王陛下と別れ、部屋を出たところで俺は安堵のため息を吐く。

「あれでか？相当リラックスしておったように見えたがの」

「あれでも緊張してたの。あれ？マリナもこっちか？」

「あっちは陛下の居室じゃ。おいそれとわしでも入れんわ」

「でも家族だろ？」

「国政に関係することもあるからのう。わしは後継者ではないしな」

「本当に面倒なんだな」

「ま、そういうな。ぜいたくな暮らしをさせてもらっておるのじゃ」

「そうかな？」

　いくら為政者とはいえ、その家族なら許されてもいいと思うけどな。

「…ん？何か言ったか？」

「いや」

「なら部屋に戻るぞ！」

「へ～い」

「で、なんで俺はこっちの部屋に来てるんだ？」

　何故か部屋に戻ろうと思った俺が連れてこられたのはマリナの部屋だった。

「何を言うんじゃ。お前はわしの護衛じゃろ？わしの部屋に来るのは当然ではないか！」

「そう言われるとそうなんだが」

「もうすぐ、風呂の時間じゃからの。それまでの話し相手じゃ」

「えっ、いや、それはちょっと流石に…」

　風呂とかって部屋とか隣にあったりするんだろ？マリナとはいえ流石にやばいよな。

「何を慌てておるんじゃ？」

「えっ！？ここで入るんだろ？」

「は？アホ～～～！バカ～～～！！そんな訳があるか！ちゃんと風呂に行くわい！」

「なんだよ。それを先に言ってくれよ」

　慌てた俺が馬鹿みたいだろ。マリナも顔を真っ赤にして起こること無いじゃねぇかよ。

「いわんでも、分かるじゃろ！」

「そうかな？まあ気にすんなって」

「わしが気にするわ。全くもう…」

「で、何の話をするんだ？」

「ん～？特に決まっておらんの。いつもはわしがおらん間に城で起きたこととかを聞いておるのう」

「それじゃあ、俺が言えること無いぞ」

　何せ、俺が話せる出来事はほぼマリナと一緒に過ごしてるからな。

「じゃあ、ロウの故郷の話をせい。それならわしも楽しめるじゃろ？」

「そんなのでいいのか？まあいいや、えっと俺の住んでるとこはだな…」

「ほ～、そんなに高い建物が建っておるのか。じゃが、それだと昇るのが大変じゃろ？」

「ん？ああ、階段も一応あるけど、エレベーターで上がるな」

「なんじゃそれは？」

「こっちにはないのか？別に魔法があれば作れると思うけどなぁ」

　俺も詳しい造りは知らないので、適当に箱型で上下に動くとだけ伝える。

「そういうものか。まあ、作ったところでそんな高い建物はいらんのう…」

「そうか？でも、考えてみればこの城より高い建物が街にあるとだめだよな」

「そうじゃな。民草の方が王より偉くなってしまうのう」

「ならこの話は無しだな」

「しかし、興味深くはあるのう。わしがもし、領地を持ったら一つぐらいつくってみるか」

「ん？マリナは領主に成れるのか？」

　王族の割には商人の振りして各地を回ったり、てっきり領主には成れないと思っていたんだが。

「さてな。何か功績でも上げれば女領主になることも可能かもな。後は婿を取って成ってもらうかじゃな」

「そういう時はどっちが偉いんだ？一応婿の方が爵位を持つんだろ？」

「実質わしの方が偉いが、どうなるかは相手次第じゃな。まあ、父上がいる間は好き勝手できんじゃろうが」

「あの人が相手ならそうだろうな」

　コンコン

「なんじゃ？」

「入浴の用意が出来ました」

「うむ、今行くぞ。それではな。お主も明日からの勉強に備えちゃんと風呂には入るんじゃぞ？」

「おう！マリナもちゃんと寝ろよ」

「もちろんじゃ！」

　マリナを見送って俺も自分の部屋に戻る。こういう豪華な建物で、隣の部屋に戻るだけなのはありがたい。でないと、迷うところだからな。

「ロウ様、おかえりなさいませ」

「ああ。ん？ひょっとしてネリアずっと待っていたのか？」

　部屋に戻るとネリアが立って待っていてくれた。ここまでしてくれなくていいのにな。

「はい」

「いや、別にそんなことしなくていいのに」

「これも私の仕事ですので。お仕えする以上、当然のことです」

「そう言われると弱いな。でも、何かやりたいことがあったら好きなことをしてていいからな」

「はい、ありがとうございます。お食事も取られましたし、今から入浴なさいますか？」

「ん？ああ、いいけど今はマリナが入ってるんじゃ…」

「王族の方は専用の浴室をお持ちです。ロウ様には客人用の浴室が割り当てられております」

「そりゃそうか。なら遠慮なく入るよ」

　う～む、こういうところはまだ慣れないな。専用の風呂なんてのには無縁の生活だったしな。

「では、案内します」

　そして、俺はネリアに連れられて浴室に着いたのだが…。

「お、おい。ここは男湯じゃ…」

「浴室に男女の分けはございません。メイドも性別に関わらずお世話させていただきます」

「いただきますって言われてもな。俺の住んでるところじゃ、分かれてたし、自分で洗ってたんだが…」

「遠慮は無用です」

「無用って言われてもな…」

　こっちは相当気にするんだが。

「ではこう致しましょう！」

　そういうと突然ネリアが自分の服に手をかけた。

「ちょ！何を…」

「ロウ様が恥ずかしがっておいでですので、私もと思いまして」

「いや、それだけはダメ。それなら俺だけでいいから！」

「よろしいのですか？」

「よろしいです。なんで、それはやめてくれ」

　本当にそれだkはダメだ。マリナと一緒に入るどころじゃない。

「承知しました。では、早くお脱ぎになってくださいませ」

「分かった。あれ？」

　俺、ひょっとして一杯食わされたか？

「どうですか？」

「ああ、気持ちいいよ」

　その後、俺は観念して体を丸っと洗われた。うううっ、俺のプライドが…。

「お湯の温度はいかがでしょう？」

「ああ、ちょうどだよ。それにしてもこのお湯いい匂いだな」

「本日はラベンダーの香りを使っております」

「へ～、色々やってくれるんだな。ありがたいよ」

「ですから、遠慮なく今後もお申し付けください」

「分かった」

　風呂からも無事に上がり、着替えを済ませる。といっても、普通の部屋着じゃなくてバスローブだったが。

「バスローブもふわふわだな。こんなの初めてだ」

「普段はどうされているのですか？」

「タオルで拭いて普通に下着を着てるな」

「そうですか。特にお嫌でなければ今後もこちらをご用意させていただきますが？」

「いいのか？なら頼むよ」

「はい」

　う～む、それにしてもいくらマリナを助けたとはいえ、ここまでの待遇を受けていいのだろうか？疑問には思いながらも好待遇が気持ちいいのは確かなので、俺はそのまま部屋に戻って横になる。

「ふ～、ベッドもいい感触だな。今日は疲れたしこのまま寝るか」

「もう寝られますか？」

「ああ」

「では何かありましたら、横に置いてあるライトをお付けください。人を呼ぶ時はその横にベルがございます」

「このベルで聞こえるのか？」

　小さくて音も響きそうにないが…。

「はい。こちらも魔道具になっておりまして、ベルを振ると担当のものまで音が聞こえるようになっております」

「そんな便利なものがあるんだな。分かった、何かあったら鳴らす」

「では、おやすみなさいませ」

「お休み」

「はぁ、色々あって今日は疲れたな。もう寝よう…」

　こうして俺の異世界一日目は終わりを告げた。