マリナの提案
アラドヴァルを見せて欲しいという国王陛下の要望があって、部屋に取りに行こうとした俺の手元に、アラドヴァルが現れた。ひょっとして、俺が呼べば来るみたいな感じなのか?
「お、おい、お主…」
「貴様!よくもこのような場で…」
急に表れたアラドヴァルに反応して、近くにいた騎士たちが詰め寄ってくる。
「下がれ!」
「し、しかし、陛下…」
「先程の反応を見るに、故意でないのは明らかだ!そうだな、ロウよ」
「はい!」
急に剣を向けられぶんぶんと首を縦に振りながら答える。騎士ってこえ~な。いや、主が危険にさらされたと思えばしょうがないのかもしれないけどさ。
「騎士達が済まなかったな。改めて見せてもらっていいか?」
「どうぞ」
おずおずとアラドヴァルを差し出す。
「ふむ、変わった形状だがどうやって使うのだ?」
「えっと、そのグリップ部分にある引き金を引くと弾が発射される仕組みです」
「グリップ?ここを持つのだな」
「はい。それで引き金に指をかけて引くんです」
「ふむ。引いてみてもいいか?」
「あっ、いや、それはやめた方が…」
俺にしか使えないとはいえ、万が一のこともあるからな。取説でもあればよかったんだが…。
「父上、御耳を…」
俺が止めようとすると、マリナも国王陛下の耳元でささやく。
「なんと!それは誠か!!ならばやめておこう」
「そうしてもらえると助かります」
リタが引いた時は何も起きなかったが、もし撃てたら、この場所にある高そうなものが壊れるだろうからな。後は隣室に貴重なものがあったら貫通するし、考えてみるとアラドヴァルって建物の中じゃ不便だな。幸い大きい穴は開かないが、つぼとか色々破壊しそうだ。
「それにしてもこのような魔道具、簡単に手に入るものではないだろう?どこで手に入れたのだ?」
「さあ?」
「さあってロウよ!父上が聞いておるというのに…」
「い、いや、本当に出自は知らないんだよ。その…旅に出る時に渡されたものだからさ。正直、それと着てた鎧ぐらいしか持たされてなくてさっぱりなんだ」
「だが、お主はこの国は初めてじゃろう?それまではどうしておったんじゃ?」
「いや、よくわからないが俺も気づいたらあそこにいてさ…」
これは本当のことだ。制服姿からあんな良く解らない鎧姿にされてたし、せめて説明書きでもあればなぁ。
「なるほど、どこかに高度な魔法文明の村でもあるのだろう。私も書庫にある本で読んだことがある。本人にもわからないのであればこれ以上は聞くまい」
「ありがとうございます。それも俺専用というか一つだけなんで、多分高いものだとは思います」
「そうだろうな。細かい細工に手になじむ造り。相当な鍛冶の技術も求められるだろう。これは返そう」
国王陛下からアラドヴァルを返してもらう。国王陛下はもうアラドヴァルに未練はないようで今度は俺の方を見て来た。
「それで、今後の事なのだが、ヴァリアブルレッドベアーを売るそうだな?」
「あっ、はい。マリナから聞いていると思いますが、金がなくて…」
「全く、金も持たさず異国の地に送るとは、お前の親は非情じゃの」
「いや、親に送られたんじゃなくて別のやつに送られたんだよ」
「そ、そうなのか?それは悪いことを言ってしもうたな」
「俺も言ってなかったからな。別にいいよ」
マリナってこういう時にはちゃんと謝るよな。きっと、家族のことが大事なんだろう。
「ゴホン。それでヴァリアブルレッドベアーなのだが、王家に売ってはくれないか?」
「それマリナからも聞いたんですが、買ってもらえるんですか?」
「ああ。あの魔物は高位の魔物でな。毛皮は固く、魔法にも強い。肉も美味でその…私も好物なのだ」
意外にこの国王様も人間っぽいんだな。できた人だとは思っていたけど…。
「そういうことならお願いします。どうせ俺も金が欲しかったですから」
「うむうむ」
「なんでマリナが返事するんだよ」
「別にいいではないか。お主とわしとの仲であろう。そうじゃった!ロウよ、鎧はどうするんじゃ?」
「鎧?着てたやつはもう着れないだろうから新しいのを買う気だが?」
「いい鎧が安く手に入る機会があるんじゃが乗らぬか?」
「本当か?で、どこで買えるんだ?」
「正確には買わんのじゃ。ロウよ、わしの護衛にならんか?」
「ご、護衛!?マリナの?」
急に切り込んできたな。俺が驚いている間にもマリナは話を続ける。
「そうじゃ。お主はアラドヴァルがあれば大体の魔物は倒せるじゃろ?そして、わしは大人数での行動はできぬ。お互い損はせぬはずじゃぞ?」
「いいのか?こんな平民で」
「いいも何もお主は一度わしを助けてくれた実績もある。誰も反対せんわい」
そう言われ、俺はちらりと国王陛下の方を見る。
「ああ、父上の許可ならもう取っておるぞ。もちろん賛成してくれておる」
「でもなぁ…」
護衛なんて堅苦しそうだしなぁ。あっ、でもさっきネリアと約束したっけ。案だけ頼まれたらなぁ。
「分かったよ。護衛になる」
「なんじゃ、もっと嫌がるかと思っておったのに…」
「正直に言うと気が進まないが、ネリアと約束したしな」
「ネリアと?お主、何か言ったのか?」
「いや、もしこのまま留まることになったら守って欲しいって言われたんだよ」
「そうか…あやつめ」
「あっ、これは内緒な。ネリア、気にするだろうし」
「分かっておる。しかし、な~んか気に食わんのう。ネリアの言うことならほいほい聞くのは」
「別にほいほい聞いてる訳じゃないぞ。王宮に来てマリナが頑張ってるのも分かったしな」
「そ、そうか!それなら当然じゃな!!」
急に元気になるマリナ。どうしたんだ、一体?
「なにはともあれこれで決まりじゃな。リタたちと一緒の親衛隊用の鎧を…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あの鎧重いんじゃないのか?」
「まあ、それなりにはの。じゃが、鎧は重たいもんじゃろ?」
こともなげに言うマリナ。いや、お前だって鎧を着こんだら分かると思うぞ。国王陛下の手前、言う訳にはいかないけど。
「いや、俺の武器の特性からいってああいう重たいのはな。もっと軽いやつはないのか?」
「贅沢なやつじゃな。しかし、確かに一理あるのう。父上」
「ああ、軽装でもそれなりのものを用意しておこう。それと先程のヴァリアブルレッドベアーだが、君の分のコートも発注しておく。軽装になる分、あれを上に着ればちょうどだろう」
「本当ですか?ありがとうございます」
「ロウ、父上には礼を言うんじゃな」
「マリナもありがとな。助かったよ」
マリナのくせに生意気だな。まあ、確かに部屋の用意とか色々やってもらってるし、きちんと礼を言っておく。
「そ、そうか!まあ、わしも王女として護衛には当然の配慮をしたまでじゃ!」
「そうか?なら次からは礼は言わないでおくな」
「社交辞令じゃ!それぐらいわからんか!」
「分かってるよ。それにしても、ヴァリアブルレッドベアーの売値ってどれぐらいになるんだろうな。俺、大金とか持ったことないから楽しみだな」
国王陛下が欲しいっていうぐらいだし、金が手に入ったらどうしようかと俺は頭の中で算段を立て始めた。




