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フォートバン王国国王

「~~それで、お姉様が…」


 コンコン


「はい」


「ネリア、入りますがロウ様の準備はよろしいですか?」


「大丈夫です」


「…」


「ん?ヴェルデか。どうかしたか?」


「ネリア、あなたは…メイドなのですよ」


「あっ、も、申し訳ございません!」


 部屋に入ってきたヴェルデがネリアの姿を見て厳しい目を向けている。


「いや、これは俺が頼んだんだよ。ひとりで飲んでたら落ち着かなくてさ」


「いいえ、そういう訳にはまいりません。確かにロウ様のお相手をするのはネリアの仕事ではあります。ですが、他人が部屋へ入ってくるのにくつろいでいては誤解されてしまいます。私だったからよかったものの、他の貴族が入って来られる場合もあるのです」


「そういえばそうか。ネリア、悪かったな」


 俺の方は垣根を取り除いてくれた方が楽だが、ネリアの緊張感をなくすのは良くないよな。せっかく、将来につながる仕事に就けてるのに。


「いえ、ロウ様は悪くありません。気を抜いた私が悪いのです」


「まあ、今回は多めに見ましょう。ですが、気を抜いてロウ様におかしなことを吹き込んではいけませんよ。ロウ様はこちらの国のことをあまりご存じない様子ですから」


「いや、おかしなことは言われなかったぞ?」


「ロウ様がそう思われていてもです。貴族の常識は往々にして平民とは異なりますから。ロウ様がこのまま出ていかれることになれば、面倒ごとに巻き込まれかねませんので」


「うっ、そう言われると自信がなくなってきたな。後で何か本でも読むか…」


「それでしたら食後にお持ちいたします。学園でも使われている書籍がありますので」


「助かる。食後ってことはもうすぐ食事なのか?」


「はい。その知らせに参りました」


「それで食事は食堂で取るのか?」


「とんでもありません!殿下の恩人にそのようなところでの食事など。今日は殿下からお誘いが来ておりますので一緒に来ていただきます」


「ひょっとしてこの服も?」


「いいえ、そちらの服に関しましてはお客様としてのおもてなしです。前の服は見れたものではありませんでしたし」


「そりゃそうだな。じゃあ、案内してくれ」


「かしこまりました」


「では、ロウ様。行ってらっしゃいませ」


「あれ?ネリアは来ないのか?」


「私はこの時間でお部屋を整えさせていただきます」


「別に汚れとかないと思うんだが…」


「ロウ様。さあ、行きましょう」


 ネリアのことは気になったが、ヴェルデに言われ俺はマリナの元に向かう。


「こちらになります」


「ありがとな」


 どこかの部屋の入り口まで来るとヴェルデが扉の横に立つ。すると、両脇にいた騎士が扉を開けてくれた。


「うわ~、改めてすごい対応だな」


「では、先にお進みください」


「あれ?ヴェルデは?」


「私は部屋の隅で待機しておりますので」


「分かった」


 そのまま扉の向こうへと進む。


「げっ!?でかい部屋だな。飾りも豪華だし…」


「何が『げっ!?』じゃ、ちゃんと聞こえておるぞ」


「おお、マリナか。久しぶりだな」


「何が久し振りじゃ、さっき別れたばかりじゃろ!」


「言われてみればそうだな…え?」


 マリナに声をかけられて最初は気づかなかったが俺の真正面には豪華ないでたちの男が座っていた。


「あ、あのさ、マリナ。そちらの方はひょっとして…」


「うむ!わしの父上であり、現フォートバン王国国王のユピテル=フォートバンじゃ」


「君がマリナの話していたロウか。掛けたまえ」


「は、はい…」


 やべぇ。親父の前で普通にマリナとか言っちまったよ。くそぅ、先にこいつが声をかけてこなけりゃ…。


「ん?わしの顔に何かついておるか?」


「何でも。あっ、やべっ…」


「よい。別に貴族でもなければ、我が臣民でもないのだ」


「た、助かります」


 話の分かる国王陛下でよかった…。って、話の分かる国王陛下って何だよ!


「ロウ、お主変じゃぞ?」


「変ってなぁ。普通の反応だろ?国王陛下の前だろ?です…」


「いや!わしと会った時はそんなんではなかったじゃろ!これは差別じゃ!」


「いや、区別だ。マリナからは威厳が感じられない」


「な、何じゃと!お主、覚えておれよ…」


「マリナ。そこまでにしておくのだ。食事も話も出来ぬではないか」


「うっ、父上。すみません」


 国王陛下に注意されてしょんぼりするマリナ。こいつ本当に親父のことが好きなんだな。



「さて、紹介が遅れたな。余がフォートバン王国国王のユピテルだ」


「あっ、ロウと言います」


「うむ。今日は娘を助けてもらったそうだな。礼を言う、ありがとう」


「い、いえ、国王様にそう言ってもらうほどでは…」


「いや、報告書に目を通したが現れたのはヴァリアブルレッドベアーだろう?あの魔物は騎士団を派遣してようやく倒せる魔物なのだ。マリナには目立たぬように視察を行わせてしまっている故、あの魔物を倒せるだけの戦力を付けてやれなかった。少なくとも2人の騎士の命はなかっただろう」


「それは…」


 リタも同じことを言っていた。俺は女神とか言う存在からもらったアラドヴァルがあるから倒せたが、国王陛下から言われて改めてあの魔物は強かったと思わせられる。


「ロウ、何度も言うがそこは誇ってよいぞ。その後のわしへの対応は誇れんが」


「マリナ、一言多いぞ」


「はっ!父上」


「それにしても、興味深いのはあれだけ強い魔物であるヴァリアブルレッドベアーを一撃で倒したことだ。何か特殊な魔道具らしいが…」


「ああ、アラドヴァルの事ですね」


「そうだ。少し見せてもらえないだろうか?」


「構いませんけど、今は部屋に…へ?」


 俺が頭の中でアラドヴァルのことを考えていると手元に急に表れた。どうなってんだ、この銃は?




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