純 粋 ・ 記 憶 ・ 命
雨は強さをどんどん増していた。
慄「どういうことだ…?」
カ「実はね、秋さんの前世は私達と同じ神様だったのよ。
純粋の神様・アキ。…この子は生まれ変わっていても濃い血をひいていたの。
あの時折虚ろになる大きな目と寂しげな表情。漆黒の長い髪もアキにそっくりだわ。
今でも大きな影響を私達の世界に与える2人の人間の1人。
そしてさっき記憶を無くした原因。あれは地震のせいじゃなくて、
本人も気づかないうちに秋さんの純粋さ、気高さが消失しそうになったから起きた
発作みたいなものね。本人は全て気づいていないみたいだけど。」
慄「治せるのか!?」
カ「ええ。ただ、材料は揃っているけれど…秋さんを想う強い気持ちが必要だわ。
あとね…救った人の大切な物を、代償として1つなくすわ。それでもいいかしら。」
慄「…俺の想いでもか?俺は命を懸けてもいい。千草を救い出したいんだ!」
カ「…ええ、いいでしょう。このカシスの実を秋さんに飲ませてあげて。
ただし、さっきも言った通り大切な物をあなたは1つ、なくすけれど。
あ、そうだ。由紀さん達の気絶状態は、秋さんの記憶が戻ったら治る様にする。
それじゃあ、私は元の世界に戻るわ。」
慄「あ…ちょっと待って!」
カ「なに?」
慄「なぜ…俺なんだ?」
カ「それは、この世界に来るまでの間に、あなたが秋さんを一番強く想っていると
判断したから。それと…あなたの前世も神様だから。そうでしょ?
2人の内、もう1人の…影響を強く与える命の神、アルトさん?」
慄「え…」
カ「じゃ、帰るわね。いつかまたお会いしましょう。
秋さん、幸せにしてあげてね。」
カシスが虹色の結晶を飲み込むと、
薄くなって最後は消えてしまった。
手の中のカシスだけが残った。
慄「俺が…千草を…助ける…」
土砂降りだった雨は小ぶりになり、黒い雲はまだ空を覆っていた。